弾力のある薄片の一端を枠に固定させ、他端の振動を口腔(こうこう)で共鳴させるタイプの楽器の総称。英語名をジューズ・ハープというが、その由来は明らかではない。口琴の分布は広く、現存する地域だけでも東アジア、南アジア、東南アジア、メラネシア、ヨーロッパ、北アメリカなどを数える。地域によって、その形状、材質などさまざまであるが、構造上の特徴から以下のように分類できる。
振動体としての薄片はすべて細長い板状もしくは棒状だが、その形には次の5種がある。(1)全体が同じ幅のもの、(2)先端に向かってしだいに細くなっていくもの、(3)段階的に細くなっていくもの、(4)中ほどで膨らんでいるもの、(5)先端が鉤(かぎ)状に曲がっているもの、である。枠は薄片の周囲を囲むものがほとんどで、薄板形、円筒形、馬蹄(ばてい)形などが多い。薄片と枠は、一つの原材から薄片を切り出した同一素材のものと、それぞれ異なる材料からつくってつなぎ合わせたものとに分けられる。用いられる材料は竹、硬木、鉄が多いが、まれに硬葉の中央脈や骨でつくられたものもある。
薄片を振動させる方法は、直接手指で振動させるものと、間接的に振動させるものとに大別される。前者の方式には、薄片の先端を指ではじくもの(ヨーロッパのジューズ・ハープ)や、薄片の中ほどを手でたたくものがある。また、薄片の根元付近に紐(ひも)を取り付け、それを持ってたたくもの(メラネシアの口琴)もある。後者の方式には、薄片の反対側に設けた突起をはじき、その反動で薄片を振動させるもの(東南アジアの口琴)や、薄片の根元付近に取り付けた紐を引っ張ることによって薄片を振動させるもの(アイヌのムックリ、台湾高砂(たかさご)族の口琴)がある。
薄片の振動によって発生する音量は小さく、音高や音色も一定である。音量に関しては、薄片の固定されていない一端を口腔の前に置き、薄片の振動を口腔内で共鳴させることによってある程度増大する。その際、薄片と枠のすきまはできるだけ狭いほうがよい。また呼吸法によって音に強弱の変化をつけることもできる。音高については、舌と喉頭(こうとう)をさまざまに動かしていくつかの特定の倍音を連続的に増幅させ、旋律すら生み出すことができる。また音色についても、口腔や唇の形を変化させることで多様な音響効果が得られる。
用途としては、口琴の音の小ささや微妙さのため、奏者個人もしくは少人数の間で娯楽的に用いられたり、発話コミュニケーションのかわりとしての機能をもつことが多い。またインドと東南アジアでは他の楽器音や声の補強や模倣に使われ、ヨーロッパでは舞踊の伴奏音楽を提供することもある。
[山田陽一]
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アジアやヨーロッパなど各地に分布する民俗楽器で,英語のジューズ・ハープJew's harpの名で広く知られる。中国語では口琴儿(コウチール)。西アジア,ヨーロッパで用いられるものは鋼鉄製で,馬蹄形の枠の中央に舌がついており,これを歯に当てて口琴の舌を指ではじき,その振動を呼吸で調節しながら口腔に共鳴させる。東アジアあるいは東南アジアでは竹製のものが一般的で,アイヌのムックリやインドネシアのゲンゴンなどはその代表的なもの。日本でも明治時代まではビヤボンなどと呼ばれ子どもの玩具とされていた。
執筆者:中村 とうよう+柘植 元一
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…後者の形態をアジア的なものと見なすことも可能で,他の楽器についてもフィリピン経由でオセアニアに入ってきたと思われるものがある。口琴がその例で,カロリン諸島各地での薄い竹板製のものは明らかに東南アジア起源であり,メラネシアの竹筒口琴やポリネシアの木製口琴とは系統が異なる。笛の類は,口で吹くもの,鼻で吹くもの(ノーズ・フルート)いずれもオセアニア全域に分布している。…
…ゴングを横にねかせて枠の上に並べたクリンタンkulintangを中心とするアンサンブルは,5音音階とコロトミック(コロトミーcolotomy音楽的句読法)な規則正しい時間分割を最大の特徴としている。フィリピンの代表的な楽器としては,このほかに口琴(竹製のクビン,金属製のオンナ),舟形撥弦のクジャピ(カチャピ),ノーズ・フルート,割れ目太鼓,搗奏竹筒,鉢巻式歌口の笛などがある。声楽は北部の自由リズムとファルセット多用の合唱や語り的独唱,南部のイスラム教徒による装飾音の多い歌唱などに特徴がある。…
※「口琴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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