口腔がん(読み)こうくうがん(英語表記)Oral cancer

六訂版 家庭医学大全科 「口腔がん」の解説

口腔がん
こうくうがん
Oral cancer
(のどの病気)

どんな病気か

 口のなか全体を口腔といい、ここにできるがんを口腔がんといいます。舌(ぜつ)がん、舌と歯ぐきの間にできる口腔底(こうくうてい)がん、歯肉がん頬粘膜(きょうねんまく)がん、上あごにできる硬口蓋(こうこうがい)がん、口唇(こうしん)がんがあります。歯肉がんは上顎(じょうがく)にできる上歯肉がんと下顎(かがく)にできる下歯肉がんがあります。

 日本では口唇がんは少なく、口腔がんの大部分舌がんで、口腔底がん、歯肉がんの順で多くみられます。

原因は何か

 舌がんと同様、口腔内の不衛生、たばこ、アルコールなどが危険因子としてあげられています。

症状の現れ方

 多くは口腔内の痛みです。口腔底ではアフタ性口内炎と間違えられることが多く、歯肉がんではう蝕(しょく)むし歯)による痛みと間違えられて抜歯されることがあります。初期にはしみたり、違和感もありますが、進行すると痛みが著しくなり、潰瘍(かいよう)腫瘤(しゅりゅう)を形成します。また、あごの周囲や歯肉がはれてきたりします。

 口腔内の粘膜が白くなる白斑症(はくはんしょう)はがんを伴っていることがあります。また、紅斑症(こうはんしょう)といって粘膜が部分的に赤くなり、痛みを感じたり食べ物がしみる時には初期のがんであることがあります。

検査と診断

 口腔内の診察触診が大切です。口腔内は直接目に見える範囲ですから、視診にまさる診察はありません。疑わしい所見があれば細胞診生検を行います。歯肉がんではあごのX線撮影(オルソパントモグラフィ)が有効です。

 またCTMRIは周囲組織への浸潤(しんじゅん)を診断するのに有効ですが、歯の治療に使われた金属のため良好な画像が得られないこともあります。硬口蓋のがんでは、鼻腔内への浸潤の有無を診断するために、鼻咽腔内視鏡を用いた検査も行う必要があります。

治療の方法

 部位により多少違いがあります。小さくて歯槽突起(しそうとっき)から離れている口腔底がんや頬粘膜がんでは組織内照射による放射線治療が有効ですが、それ以外の部位では小さくても手術が第一選択となります。

 口腔がんでは近くに骨組織があるので、がんに十分な線量の放射線を外から照射すると周囲の骨組織が障害され、骨壊死(こつえし)などの放射線晩発性障害が生じる危険性が高くなります。そのため、手術治療が優先されます。

 手術では、小さい腫瘍でもほかの部位と異なり直接縫合することができず、植皮をしたり、皮膚粘膜修復材料を用いて一時的にカバーすることがあります。また腫瘍が骨の上や骨に近いところにある場合は、骨を(けず)ったり一部を切除したあと、骨をおおうために再建手術を同時に行うこともあります。

 骨を大きく切除した場合の再建手術では、骨の再建と口腔粘膜の再建を同時に行わなければなりません。とくに下顎骨を切除した場合には、肩甲骨(けんこうこつ)腓骨(ひこつ)(足の骨)で再建したり、人工骨、金属プレートで再建します。しかし、骨の再建は行わず、口腔内の再建だけで終わる場合もあります。

 また術後咬合(こうごう)をよくするために顎間(がくかん)固定を行うこともあります。上顎の骨欠損では再建手術が難しくよい結果が得られないことが多いので、骨の再建を行わず、歯科で特殊な入れ歯を作成するほうが咬合形態もよくなることが多いようです。

病気に気づいたらどうする

 歯の周囲の痛みがあり、歯科治療をしても痛みが消えない時は、耳鼻咽喉科を受診して口腔内の診察を受けてください。

加藤 孝邦

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「口腔がん」の解説

こうくうがん【口腔がん Cancer of Oral Cavity】

 口の中にできるがんは、発生頻度からみると舌がもっとも多く、ついで舌の裏にあたる口腔底(こうくうてい)、歯肉(しにく)(歯ぐき)、上あご(硬口蓋(こうこうがい))、頬(ほお)の粘膜(ねんまく)、くちびるの順になっています。
◎舌(ぜつ)がん
[どんな病気か]
 舌がんは、臼歯(きゅうし)に触れる舌の辺縁に発生することが多く、舌の中央にできることはまれで、くびのリンパ節、とくにあごの下のリンパ節へ転移します。
[症状]
 刺激物がしみたり、粘膜がただれたりする軽度の刺激症状がもっとも多く、このため舌をかんだと思い込んでいる人が多いようです。
 初期は、飲食のときにだけ痛むことが多く、病変が広がるにつれて痛みも増してきます。
 腫瘍(しゅよう)周辺の神経が刺激され、耳が痛むこともあります。
 舌の中の筋肉に浸潤(しんじゅん)すると、ろれつが回らなくなり、しゃべりにくくなります。これにともない食物を飲み込むのに時間がかかるようになり、嚥下障害(えんげしょうがい)もおこります。
 さらに病気が進むと、組織の壊死(えし)にともない、強い口臭が出てきます。
[原因]
 むし歯、八重歯(やえば)、義歯(ぎし)などによる刺激の持続、口腔内の不潔、たばこが原因になります。
[検査と診断]
 がんは表面に露出しているので、視診で疑いがもたれます。この病変の表面をこすり、細胞をとって検査する細胞診、一部を切除し、顕微鏡で調べる組織診で診断が確定します。
 そして、腫瘍の広がりを知るためにCT、MRI、超音波検査などが行なわれます。
[治療]
 病変の広がり、粘膜表面から深部への浸潤度、くびのリンパ節転移の状態で治療法が異なるほか、舌の機能、見ための美しさを考えて治療が計画されます。
 病変部位が小さい場合は、切除してその部位を縫い合わせるか、レーザーで焼いて病変を除去します。
 早期がんで粘膜下病変の少ない場合は、放射線治療も適応となります。表面から照射する外部照射と、舌に針を刺して行なう組織内照射を、腫瘍の性状によって組み合わせます。
 進行したがんでは、手術で切除した後、その欠損部を修復する形成外科的再建術により機能の温存をはかります(図「再建術(舌がんの例)」)。
 化学療法は、おもに進行したがんが適応となります。くびのリンパ節に転移がある場合は、そのリンパ節を摘出する手術的治療が行なわれます。
[予防]
 原因を除去するのが最大の予防です。
 また、前(ぜん)がん病変と呼ばれる粘膜の変化(表面が白く、かたい感じになる白板症(はくばんしょう)(「白板症(ロイコプラキー)」))がありますが、これを放置しないで、「おや?」と思ったら早めに耳鼻咽喉科(じびいんこうか)で相談し、治療することがたいせつです。
 最近は、前がん病変に対し、ビタミンの服用で発がんを予防する試みも行なわれています。

出典 小学館家庭医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「口腔がん」の解説

口腔がん

 歯肉がん,舌がん,上顎洞粘膜がんなど,口腔にできるがんの総称.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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