デジタル大辞泉 「ビタミン」の意味・読み・例文・類語
ビタミン(〈ドイツ〉Vitamin)
[類語]栄養・滋養・養分・人工栄養・栄養分・栄養素・栄養価・炭水化物・含水炭素・糖質・糖類・澱粉・蛋白質・アミノ酸・ゼラチン・コラーゲン・脂肪・脂肪分・脂質・ミネラル・灰分・無機質・食物繊維
翻訳|vitamin
天然食品中に微量存在する一群の有機物質。ビタミンは脂質、糖質、タンパク質、無機質とともに五大栄養素に含まれている。正常な物質代謝に必須(ひっす)であり、摂取食物中にこれが欠乏すると欠乏症がおこる。ビタミンの多くは生体内において補酵素として機能し、微量で生体内の物質代謝を支配ないしは調節する働きをするが、それ自体はエネルギー源や生体構成成分とはならず、しかも生体内では生合成されないので、食事などによって外界から摂取しなければならない。ただし、ニコチン酸のように肝臓で一部生合成されるが必要量まで達しないものも、ビタミンに含まれる。また、動物によって代謝系に相違があり、たとえば、コラーゲンのプロリン残基のヒドロキシル化に必要なビタミンC(アスコルビン酸)は、多くの動物でブドウ糖から体内で生合成されるが、ヒトやサルなどにはこの生合成経路がないため生成されない。したがって、ビタミンCは多くの動物ではビタミンでないが、ヒトやサルなどにとってはビタミンである。
なお、無機質(ミネラル)はビタミンと同様に微量栄養素であるが有機化合物ではなく、ホルモンもビタミンと同様の働きをするが生体内(内分泌腺(せん))で生成されるため、それぞれビタミンと区別される。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
ビタミンは最初、発見年次に従ってアルファベット順にA・B・Cなどと命名され、さらにB1・B2などと数字をつけて細分されてきたが、それぞれの化学構造が明らかになると、その構造を表す厳密な化学名や物質名(化合物名)が提案され、現在ではビタミン名と化合物名が併用されている。なお、発見されたビタミンはその機能から命名されるものが多く、乳汁の分泌lactationからとったビタミンLなどがその例である。ビタミンB3やB4がないのは、発見され報告されたのちに、B3はパントテン酸と同じであり、B4はアルギニンやシスチンなどアミノ酸の混合物とわかり、ビタミンの定義にあてはまらないことで除外された。また、ビタミンとして発見・報告されたもののなかには、その後の研究で不適当とされるようなものもあり、そのうち生理的意義の明確なものはビタミン様作用因子として扱われている。これにはビタミンF(必須脂肪酸)、ビタミンQ(ユビキノン)、ビタミンN(α(アルファ)-リポ酸、チオクト酸ともよばれる)、ビタミンBT(カルニチン)、ビタミンB13(オロト酸)、ビタミンBX(パラアミノ安息香酸)、ビタミンP(ルチンなどのフラボノイド)、ビタミンU(塩化メチルメチオニンスルホニウム)などが含まれる。
なお、食品中にビタミンの母体(前段階物質)が含まれていて、体内でビタミンに転換されてその作用を現すものがあり、プロビタミンと総称されている。プロビタミンA(カロチン)やプロビタミンD(エルゴステロール)がある。
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ビタミンは、一部の高等動物が食物として少量摂取する必要のある有機分子である。これらの分子は、あらゆる生物でほぼ同じ役割を担うが、高等動物はそれらを合成する能力を失っている。ビタミンには多くの種類があり、その化学構造や作用がそれぞれ異なるため、厳密に分類することは困難であるが、一般には水に溶けやすい水溶性ビタミンか、非極性(有機)溶媒に溶けやすい脂溶性ビタミンかによって分類する。
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水溶性ビタミンの大部分は補酵素の成分で、アスコルビン酸(ビタミンC)やビタミンB複合体とよばれるビタミンB群である。ビタミンB群は、補酵素の誘導体(前駆物質または構成成分)である。アスコルビン酸のイオン化したアスコルビン酸塩は、還元剤(抗酸化剤antioxidant)として働く。アスコルビン酸の重要性は壊血病scurvyでよく知られており、結合組織の主要なタンパクであるコラーゲンの三重螺旋(らせん)構造を保つためのプロリン残基のヒドロキシル化に必要である。水溶性ビタミンは以下のように体内で触媒的な働きをしている。
ビタミンB1(チアミン)→チアミンピロリン酸
ビタミンB2(リボフラビン)→フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)
ビタミンB複合体(ナイアシン)→ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)
ビタミンB5(パントテン酸)→補酵素A
ビタミンB6(ピリドキシン・ピリドキサール・ピリドキサミン)→ピリドキサール5'-リン酸(PLP)
ビタミンB7(ビオチン)→カルボキシラーゼに共有結合
ビタミンB9(葉酸)→5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸
ビタミンB12類(コバラミン)→コバミド補酵素
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脂溶性ビタミンは血液凝固や視覚などの多様なプロセスに関与する。ビタミンA・D・E・Kが含まれる。ビタミンA(狭義ではレチノール)は、生体内で2段階の酸化を受け、レチナール(視物質)、レチノイン酸へと代謝される。また、ロドプシンやほかの視色素中の光感受性原子団であるレチナールの前駆体であるため、欠乏すると夜盲症になる。さらに、若い動物個体では成長のためにビタミンAを必要とする。体内でビタミンAから生合成されるレチノイン酸は、レチノールの末端アルコールのかわりにカルボン酸をもっており、発生や成長を仲介する特定の遺伝子の転写を活性化する。レチノイン酸が作用するためのシグナル伝達系の要素の多くは脳に存在する。レチノイン酸が睡眠、学習、記憶に役割を果たすことはわかっているが、正確な機構は不明である。カルシウムやリンの代謝は、ビタミンDから誘導されるホルモンが調節する。成長中の動物でビタミンDが欠乏すると、骨形成が損なわれる。ビタミンDは不飽和の膜脂質を酸化から守ってくれる。ビタミンK(Kはドイツ語のKoagulation=凝集に由来)は正常な血液凝固に必要であり、グルタミン酸残基がカルボキシル化してγ(ガンマ)-カルボキシグルタミン酸になる反応に関与する。カルボキシル化がこの基をカルシウムイオン(Ca2+)の強力なキレート剤に変える。
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ビタミンの発見当初は微量で重要な働きをする神秘的な存在であったが、その後多くのビタミンの化学構造が決定され、合成も可能となってこれらの作用機序が明らかにされてきた。とくにビタミンB群を含む補酵素の構成成分として、体内で触媒的な働きをしていることが明確になった。たとえば、ピルビン酸がアセチル補酵素Aとなるときには、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ナイアシン、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンN(α-リポ酸)といったビタミンが触媒的に作用しており、脂肪酸からアセチル補酵素Aへの経路ではビタミンB2、パントテン酸が、またアミノ酸の分解にもビタミンB2・B6、ナイアシンが、ペントースリン酸回路ではビタミンB1などが補酵素の成分としてそれぞれ関与している。
なお、ビタミンCは補酵素にはならないが、その強い還元作用による酵素の作用との関係が明らかにされている。また、ビタミンDはそれ自体に生物学的活性はなく、体内で酸化されて活性型となり、古典的な意味でのビタミンの作用ではなくホルモン様作用を行うこと、すなわち遠隔の標的器官である腸管や骨で作用を発揮し、血中あるいは細胞内での輸送様式および作用機序がステロイドホルモンとまったく同様であるところから、むしろホルモン様物質と考えられるようになってきた。
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ビタミンは普通、食事として経口的に摂取され消化管に入ると、おもに小腸から吸収されて血液とともに体内の細胞に達し、酵素などの作用物質となって代謝に関与したのち、尿に排泄(はいせつ)されていくが、水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンとではかなり相違点がみられる。
水溶性ビタミン、とくにビタミンB群の吸収は能動輸送によるものが多く、所要量程度のものはきわめて効率よく吸収される。しかし、薬剤による大量経口与薬の場合は能動輸送の能力を超えるので、吸収率が低下する。また、吸収された水溶性ビタミンは酵素となって作用するものが多く、注射などによって一時に大量与薬されても、アポ酵素と結合する以上のビタミンはそのまま尿に排泄されてしまう。したがって、水溶性ビタミンは毎日、所要量程度を経口的に摂取する必要がある。なお、ビタミンB12だけは肝臓に蓄積される。
脂溶性ビタミンは消化管から脂肪とともに吸収される。すなわち、一定量の脂肪がないとその吸収が悪くなるわけで、動物性食品中のビタミンAなどはよく吸収されるが、植物性食品に含まれているプロビタミンAはそのままでは吸収がきわめて悪い。したがって、後者の場合は油脂を使った調理が必要となる。また、脂肪の吸収には膵液(すいえき)や胆汁が必要であり、膵臓病や肝臓病(とくに閉塞(へいそく)性黄疸(おうだん))の場合には脂肪吸収障害をおこし、脂溶性ビタミンの吸収が悪くなる。吸収された脂溶性ビタミンは肝臓(ビタミンA・D・K)または脂肪組織(ビタミンE)に蓄えられ、リポタンパク質または特異な結合タンパク質によって移送されるが、尿中には排出されず、胆汁中に排泄される。また、体内に蓄積されて過剰症をおこすことがある。
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日本におけるビタミンの食事摂取基準は従来、欠乏症予防の観点から定められていたが、近年、さらに健康保持・増進、生活習慣病予防、過剰摂取による健康障害の予防を目的として水溶性ビタミン(ビタミンB1・B2・B6・B12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸、ビタミンC)と脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・E・K)について厚生労働省により定められている。これらはヒトにおいて欠乏症をおこすことが知られているものであり、その所要量は1970年(昭和45)に策定されてから5年ごとに改定されていたが、2005年(平成17)にこれまでの所要量から食事摂取基準に改定された。推定平均必要量estimated average requirement(EAR)と推奨量recommended dietary allowance(RDA)、上限量tolerable upper intake level(UL)が設定されているが、設定がむずかしいビタミンについては目安量adequate intake(AI)が示されている。ビタミンのEARは制限試験により求められた最小必要量から性・年齢階級別に日本人の必要量の平均値を推定した値であり、当該集団の50%が必要量を満たすと推定される1日の摂取量である。RDAは当該集団のほとんど(97~98%)が1日の必要量を満たすと推定される量で、EARに個体差の標準偏差standard deviation(SD)の2倍(2SD)を加えたものである。AIは当該集団が良好な栄養状態を維持するのに十分な量であり、パントテン酸、ビオチン、ビタミンE・D・Kに採用されている。またULは過剰摂取による健康障害をおこすことのない最大限の量であり、ビタミンB6、ナイアシン、葉酸、ビタミンA・D・Kについて設定されている。
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ビタミンは不可欠栄養素であり、食物の形で摂取されないと欠乏症状を引き起こす。これがビタミン欠乏症であり、一般症状として成長障害、体重低下などがおこるが、そのほか以下に示すような固有の症状が現れる。また、なんらかの原因によってビタミンが体内でうまく利用できない場合の欠乏症を二次性ビタミン欠乏症とよび、それをおこすビタミンとしてビタミンA・D・B2とニコチン酸がある。これらは固有のビタミンの投与によって回復あるいは予防される。
水溶性ビタミン欠乏症
ビタミンB1:脚気(かっけ)、軸性視神経炎、多発性神経炎、ウェルニッケ脳症
ビタミンB2:口角炎、口唇炎、舌炎、脂漏性皮膚炎、広範性表在性角膜炎
ナイアシン:ペラグラ
葉酸:貧血
ビタミンB12:悪性貧血
ビタミンC:壊血病
脂溶性ビタミン欠乏症
ビタミンA:夜盲症、眼乾燥症、角膜軟化症、毛包性角化症
ビタミンD:くる病、骨軟化症、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、骨および歯の発育障害
ビタミンE:不妊症、運動機能障害
ビタミンK:血液凝固障害、肝障害、新生児メレナ(新生児出血)
一方、脂溶性ビタミンであるビタミンA・D・K・Eは組織蓄積性が高く、過剰症になる可能性がある。ヒトの場合に明らかなビタミン過剰症として報告があるのは、ビタミンAやDである。
脂溶性ビタミン過剰症
ビタミンA:脳圧亢進(こうしん)、四肢の痛み・腫脹(しゅちょう)、肝障害
ビタミンD:高カルシウム血症、腎障害
なお、生理的意味でのビタミン欠乏が考えられないのに、遺伝的欠陥によって通常の数倍から数百倍に達する大量のビタミンを投与しなければ健康が維持できない病気があり、ビタミン依存症とよばれる。これにはビタミンB1・B6・B12・Dのほか、葉酸やビオチンなどの依存症が含まれる。
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現在までに発見されたビタミンは二十数種にも及ぶが、あまり確実でないものもある。以下、主要なビタミン(脂溶性ビタミンと水溶性ビタミン)を中心に簡単に述べる。
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レチノールretinol(ビタミンA1)とデヒドロレチノール3-dehydroretinol(ビタミンA2)およびこれらの誘導体が含まれるが、狭義にはレチノールをさす。酸、空気、光などで容易に分解されるが、アルカリ性では比較的安定である。ビタミンAは視覚、聴覚、生殖などの機能維持、成長促進、皮膚や粘膜などの上皮組織の正常保持、分化機構、遺伝子発現を介する制癌(がん)、タンパク質合成などに関与することが知られている。ビタミンAの欠乏によって皮膚の乾燥や角化をはじめ、結膜乾燥症や角膜軟化をおこすほか、早期に薄暮や暗所における視力が衰えて夜盲症となる。夜盲症の原因は、網膜の桿体(かんたい)中にある視紅(ロドプシン)の障害によるもので、ロドプシンはビタミンAアルデヒド(レチナール)とタンパク質が結合したものであり、ビタミンAが欠乏するとロドプシンの新生と再生が妨げられるために夜盲症となる。
なお、プロビタミンA(β(ベータ)-カロチン)は腸粘膜でビタミンAとなり、肝臓中にエステル体として貯蔵される。β-カロチンの生体内におけるレチノールへの変換の際の収率が質量比で2分の1であり、また消化吸収率がレチノールの3分の1になるため、ビタミンAをβ-カロチンの形で摂取するときは、ビタミンA所要量の6倍を必要とする。
大量のビタミンAを摂取すると過剰症をおこすが、これには乳幼児に多くみられる脳圧亢進症状を主とした急性中毒と、長期にわたって摂取した場合(1か月から数か月)にみられる四肢の疼痛(とうつう)性腫脹を主とした慢性中毒とがある。
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カルシフェロールともいう。ビタミンD2~D7の6種が知られている。これらのうちで高い生物活性を示し、実用に供されているのはビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)の2種類のみである。プロビタミンDであるエルゴステロール(プロビタミンD2)と7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)は動植物界に広く分布する。紫外線を浴びることにより、植物ではエルゴステロールからエルゴカルシフェロール(ビタミンD2)が生じ、動物では7-デヒドロコレステロールからコレカルシフェロール(ビタミンD3)が生ずる。ビタミンD2・D3はともにビタミンDとして同等の生物活性をもっている。またビタミンD1はビタミンD2を主成分とする混合物である。ビタミンDの活性化は上皮小体ホルモン、血中リン酸濃度、ビタミンDそれ自体の濃度の影響を受け、カルシウムの小腸での吸収、腎臓(じんぞう)および骨からの再吸収を促進する。欠乏症としては古くからくる病が知られ、また過剰症は、くる病の予防ないし治療のために大量のビタミンDを長期間与薬したときにみられ、腎障害を中心とした重症の全身症状(高カルシウム血症)をおこす。
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自然界に存在するビタミンE作用物質としては、トコフェロールの4種(α・β・γ・δ(デルタ))とトコトリエノールの4種(α・β・γ・δ)との計8種が知られ、これらの総称名がビタミンEであり、生物活性はα-トコフェロールがもっとも強く、狭義にはこれをさしている。ビタミンEは動植物界に広く分布し、動物体内においてもすべての組織に分布する。ビタミンEの作用機序については不明なところがまだ多いが、非特異的な抗酸化作用が知られる。すなわち、消化管から吸収されて体内の諸器官や脂肪中に蓄積され、不飽和脂肪酸の酸化を防いでいる。また、高度不飽和脂肪酸の摂取量が多くなるとビタミンEの消耗が多くなるので、補給が必要とされる。なお、ネズミなどの実験動物には欠乏症の報告が多くあるが、ヒトでは完全な欠乏症はまだ報告されておらず、わずかにビタミンE欠乏による生体膜における抗酸化作用の低下が、未熟児やクワシオルコル(タンパク欠乏による乳幼児の重症栄養失調症)にみられる貧血の一因として認められているにすぎない。また過剰症については、実験動物にもまだ悪影響は認められていない。
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主として血液凝固を促進させるビタミンK作用物質としては、緑葉に多いビタミンK1(フィロキノン)、細菌の産生するビタミンK2(メナキノン)、合成品であるビタミンK3(メナジオン)など多数の同族体が単離または合成されており、いずれもナフトキノン誘導体である。血液凝固因子であるプロトロンビンなどの生成を促進させ、血液凝固機能を正常に維持する作用をもつところから、抗出血性ビタミンともよばれる。ビタミンKは植物界に広く存在し、また腸内細菌によって合成されたものを吸収して補給するため、自然発生的に欠乏症をおこすことはないとされるが、脂質吸収障害をおこしたり、抗生物質などの与薬で腸内細菌叢(そう)に異変を生じた場合にはビタミンK欠乏症がみられる。ビタミンKが欠乏すると、血液凝固時間が延長して出血しやすくなる。新生児期の出血性の病気のなかには、この欠乏によるものがあると考えられている。なお、未熟児に大量のビタミンKを与薬すると、溶血が高まり核黄疸が発生することが報告されている。
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最初に発見されたビタミンで、チアミンともよばれ、ヨーロッパではアノイリンともいわれる。少量ながら広く動植物界に存在し、腸から速やかに吸収され、体内でチアミンピロホスホキナーゼにより活性化されてチアミンピロリン酸(TPP、チアミン二リン酸)となり、補酵素としておもに糖質代謝、すなわちα-ケト酸などの酸化的脱炭酸反応やトランスケトラーゼ反応に関与する。したがって、食物中の糖質量が多いほどチアミンの要求量は増えてくる。また、重労働者、妊婦、授乳婦、熱性の病気の患者などでは需要が高まる。なお、カキやアカガイを除く貝類(ハマグリやアサリなど)、淡水魚のコイやフナなど、植物ではワラビやゼンマイなどには、チアミナーゼ(アノイリナーゼ)というチアミンを分解する酵素が含まれており、これらを食べると体内のチアミンの効力が失われる。チオール型チアミン誘導体(アリチアミンなど)は体内で容易にチアミンとなるが、これらはチアミンよりもよく吸収されるばかりでなく、チアミナーゼで分解されないため、薬剤として広く用いられている。
ビタミンB1の欠乏症には、ビタミン発見の端緒となった脚気がある。また、ビタミンB1の大量与薬を数か月間続けても副作用がなく、毒性はない。
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狭義にはリボフラビンをさし、広義にはFMN(フラビンモノヌクレオチド)やFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)を含む。すなわち、ビタミンB2(リボフラビン)は生体内ではほとんどFMNとFADの形で存在し、フラビン酵素の補酵素として生体内の酸化還元反応に関与している。すべての植物や多くの微生物で合成されるが、高等動物では合成されない。ビタミンB2が欠乏すると、舌炎をはじめ、口内炎、脂漏性皮膚炎、角膜周囲の血管増生など、粘膜、皮膚、目に症状が現れる。また、抗生物質などの与薬、肝臓病や糖尿病の際にも、ときとして二次性欠乏症がみられる。なお、妊婦や授乳婦には大量のビタミンB2が必要とされるが、長期間大量与薬しても尿中に容易に排泄されるので、毒性はみられない。
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ピリジン誘導体で、ナイアシンともよばれる。植物およびほとんどの動物ではトリプトファンから合成されるが、この過程でビタミンB6からつくられる補酵素ピリドキサールリン酸を必要とする。ニコチン酸は体内でニコチン酸アミドとなり、酸化還元反応の補酵素であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の成分となる。ニコチン酸の欠乏症としては、イヌの黒舌(こくぜつ)病やヒトのペラグラなどがある。また、ニコチン酸の大量与薬では皮膚紅潮、かゆみ、胃腸障害などがみられ、血清コレステロールが低下する。
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ピリドキシン(PN)をさすが、ビタミンB6はこのほか、ピリドキサール(PL)、ピリドキサミン(PM)としても存在し、慣習的にこの3種の誘導体の総称としても使われる。これらはいずれも補酵素であるピリドキサール5'-リン酸(PLP)の前駆体である。ピリドキサール5'-リン酸はアミノ基転移と脱炭酸反応の補酵素となり、タンパク質の代謝に重要な役割を果たしている。
ビタミンB6は腸から容易に吸収され、4-ピリドキシン酸として尿中に排泄される。ヒトの場合、自然発生的にビタミンB6欠乏症はおこらないが、ピリドキシンからピリドキサールリン酸として活性化される過程に障害があると欠乏症を生ずる。たとえば、イソニアジドやペニシラミンなどの抗結核剤はビタミンB6に拮抗(きっこう)してピリドキシンと結合するので、長期間の使用により欠乏症をおこすことがあり、腎機能不全では活性化に必要なピリドキサールキナーゼの反応を阻害して欠乏症をおこす。また、トリプトファンからニコチン酸ができる反応にはピリドキサールリン酸を必要とするので、ビタミンB6欠乏症ではペラグラが生じる。ビタミンB6欠乏症には特有の症状がなく、吐き気、嘔吐(おうと)、食欲不振、口角炎、結膜炎、脂漏性皮膚炎、舌炎、多発性神経炎などがみられるが、いずれもビタミンB6で寛解する。
このほか、ビタミンB6依存症が知られる。これには、新生児期にみられる全身けいれんでビタミンB6の大量与薬によってのみ劇的に消失するビタミンB6依存性けいれん、赤血球造血系のビタミンB6依存症的状態であるビタミンB6反応性貧血、家族性にみられるトリプトファン代謝異常であるビタミンB6依存性キサンツレン酸尿症などが含まれる。
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パントイン酸とβ-アラニンからなるアミドで、動植物界に広く存在するが、ラット、イヌ、ニワトリ、ブタ、サル、マウス、キツネでは合成されない。パントテン酸は腸で吸収され、リン酸化されて4'-ホスホパントテン酸となり、これにシステインとアデノシンリボヌクレオチドが結合して補酵素Aとなる。補酵素Aはアセチル化反応をはじめ、アシル基の活性化や転移反応に関与し、エネルギー代謝や解毒にも重要な役割を果たしている。ヒトの場合は腸内細菌からの供給があるため自然発生的に欠乏症をおこすことはないが、抗パントテン酸の与薬による実験的欠乏症では、動物の欠乏症と同様に副腎皮質障害や四肢の灼熱(しゃくねつ)感および疼痛(とうつう)を伴う末梢(まっしょう)神経障害などが、他のビタミンB群の欠乏とともにみられる。
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酵母の生育因子として最初に卵黄から単離されたビタミンB群の一つで、二つの五員環の縮合環からなる。ビタミンB7、ビタミンH(皮膚を表すドイツ語Hautに由来)、補酵素Rなどともよばれる。ラットに生卵白を大量に含む食餌(しょくじ)を与えると皮膚炎や脱毛などを生ずるが、これは、卵白に含まれる塩基性糖タンパク質アビジンが腸内でビオチンと結合してビオチンの吸収を妨げるためであり、卵白障害とよばれる。ビオチンはこの疾患を防ぐ因子としてみつけられたので、抗卵白障害因子ともよばれた。ヒトの場合、ビオチンの大部分は腸内細菌によって供給され、回腸で吸収される。このため、欠乏症はほとんどみられないが、マルチプルカルボキシラーゼ欠損症に対してはビオチンの大量投与による著効をみた。ビオチンは、体内でアポ酵素とアミド結合し、炭酸化反応に関与する。また、カルボキシ基転移反応にも関与する。なお、ビオチン依存性の酵素としては、ピルビン酸カルボキシラーゼ、アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ、プロピオニール補酵素Aカルボキシラーゼ、メチルクロトニール補酵素Aカルボキシラーゼがあり、脂肪酸代謝系のものが多い。
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ホラシンfolacinともいい、ビタミンM、ビタミンBCなどとよばれていた。二員環のプテリジン(プテリン)とパラアミノ安息香酸からなるプテロイン酸にグルタミン酸が結合したもの(プテロイルグルタミン酸)である。動物では合成されず、植物では7個のグルタミン酸がついたプテロヘプタグルタミン酸として存在する。これが腸内でγ-グルタミン酸ヒドロラーゼによって6個のグルタミン酸が外れて吸収され、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)から水素を受け取り、ジヒドロ葉酸となる。ジヒドロ葉酸に補酵素としての機能はなく、ジヒドロ葉酸レダクターゼの反応でテトラヒドロ葉酸となるとC1代謝の補酵素として作用し、活性化されたギ酸やホルムアルデヒドを運ぶ。プリン、ピリミジンの代謝、グリシン、セリン、ヒスチジン、メチオニンなどアミノ酸代謝、タンパク質合成の開始、メタン生成などに関与している。
葉酸が欠乏すると、巨赤芽球性貧血がおこり、舌炎や下痢などもみられる。アメリカではこの葉酸欠乏症がビタミン欠乏症のうちでもっとも多くみられ、最低所要量として成人1人1日当り約50マイクログラム、望ましい葉酸摂取量として成人1人1日当り400マイクログラム、また妊娠時には大量に消費されるところから、とくに妊婦800マイクログラム、授乳婦600マイクログラムとされている。日本においては「日本人の食事摂取基準」(2010年版)で、成人1人1日当りについて、200マイクログラムを推定平均必要量、240マイクログラムを推奨量として設定しているほか、妊娠を計画しているか妊娠の可能性のある女性は1人1日当り400マイクログラムの摂取が望まれるとしている。
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広義ではコバラミン、狭義ではシアノコバラミンをさす。ビタミンB12はビタミンのうちでもっとも複雑な構造で、この関連物質は共通してポルフィリンに似たコリン核をもち、その中心にコバルトイオンがあり、コリノイドと総称されている。コリノイドはコバルト錯体であり、中心原子のコバルトに対する上方配位子、下方配位子、コリン核側鎖の異なる種々の同族体がある。下方配位子の塩基が5,6-ジメチルベンズイミダゾールの同族体は栄養学的にも生化学的にももっとも重要で、コバラミンとよばれる。代表的なコバラミンにシアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、アクアコバラミン、ニトリトコバラミン、アデノシルコバラミン、メチルコバラミンなどがあり、それぞれ上方配位子を異にする。シアノコバラミンは最初にビタミンB12として肝臓から単離されたもので、安定であるところから薬剤として使われるが、それ自体は生理活性型でなく、他の型のコバラミンがシアン基と反応して生ずる人工産物である。
食物から摂取あるいは経口与薬されたコバラミンは、おもにアクアコバラミン、シアノコバラミンの型で胃液中のコバラミン結合ムコタンパク質(内因子)と結合して小腸を下降し、主として回腸下端部の粘膜表面にある受容体部位と結合することによって吸収される。吸収されたコバラミンは、内因子から遊離してトランスコバラミンと結合し、血液中を運搬される。血中ではその大部分がメチルコバラミンの型で存在する。臓器のなかでは肝臓にもっとも多量に含まれ、その大半がアデノシルコバラミンの形で存在する。ヒトでは、コバラミンがホモシステインをメチル化してメチオニンとする反応や、L-メチルマロニル補酵素Aをサクシニル補酵素Aとする反応の補酵素として作用することがわかっている。コバラミン誘導体で補酵素として生体内で働くデオキシアデノシルコバラミンまたはメチルコバラミンの遺伝性合成障害をもつ患者が報告されている。
ビタミンB12は核酸やタンパク質の合成をはじめ、脂質や糖質の代謝にも関係しており、これが欠乏すると悪性貧血を含む巨赤芽球性貧血がおこる。食事からくる欠乏症は一般にまれであり、多くは吸収障害、輸送および代謝異常に伴っておこる。
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アスコルビン酸ともいい、六炭糖(ヘキソース)に似るが分子中にエンジオール基-C(OH)=C(OH)-をもっている。この基のために水溶液は酸性を示し、アルカリにより塩をつくるほか、強い還元作用を示すなどの特性がある。水溶性ビタミンのなかでは、もっとも不安定である。結晶は乾燥状態で安定であるが、吸湿すると徐々に酸化されて着色する。酸素や塩素などの酸化剤によって酸化されデヒドロアスコルビン酸となり、硫化水素やグルタチオンなどの還元剤で処理するとアスコルビン酸に戻る。アスコルビン酸は還元剤として酸素、硝酸イオン、チトクロムa・c、クロトニル補酵素A、メトヘモグロビンを還元する。またp(パラ)-ヒドロキシピルビン酸からホモゲンチジン酸が生成する反応や、コラーゲンに含まれるプロリンの水酸化にもアスコルビン酸を必要とする。
動植物界に広く存在するが、霊長類とモルモットは生合成できないので、欠乏症をおこす。生体内では副腎皮質にもっとも多く含まれており、副腎皮質刺激ホルモンで副腎皮質を刺激すると速やかに消失するが、その機序はわかっていない。これが欠乏すると壊血病をおこす。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
19世紀後半から実験栄養学の研究が進展し、純粋な脂質、糖質、タンパク質を混合したものに無機物を加えた飼料(四大栄養素)で動物飼育実験を重ねた結果、これだけでは完全な栄養を供給しえないことが明らかにされてきた。1906年、イギリスのF・G・ホプキンズはこれをシロネズミの飼育試験で明らかにし、全乳を添加することによってこの欠陥が補えることを証明するとともに、初めて全乳中に微量の副栄養素が含まれていると発表して注目された。
一方、精白米を常食とする東洋諸国に多発していた脚気の原因究明と療法の開発が急務であった当時の医学界で、日本の海軍省医務局長高木兼寛(かねひろ)は脚気の原因が食事にあることを明確にして注目された。この研究は軍艦乗組員を対象とした大規模な実験的観察で、1882年(明治15)の白米食を中心とした和食による遠洋航海訓練中の脚気患者発生状況と、1884年のパン食を中心としたタンパク質の多い洋食に近づけた同じ遠洋航海訓練中の脚気患者発生状況とを比較検討したものであり、患者発生率を激減させることに成功した。しかし、高木はこの白米食の欠陥をタンパク質不足によるとして、脚気は食事組成によって予防できると主張、副栄養素的考え方にはならなかった。
その後、1890~1897年にはオランダのC・エイクマンが初めて動物に実験的栄養病をおこさせることに成功した。当時の医学界では栄養欠陥による病気の存在についてはあまり考えられていなかっただけに、この成功は画期的なものであった。すなわち、当時のオランダ領バタビア(現在のジャカルタ)の病理学研究所長であったエイクマンは脚気の病因を研究中、たまたま同研究所で付属病院の患者の残飯(白米食)を使って飼育していたニワトリが脚気様の多発神経炎をおこしているのを発見、飼料を玄米にかえたり米糠(ぬか)を飼料に加えると症状が消失することを確認した。この鳥類白米病の発見が、のちにビタミン発見の手段となったのである。
エイクマンは、ニワトリの白米病を最初は白米の毒作用によるもので米糠がそれを中和すると考えたが、門弟であるフレーンスGerrit Grijns(1865―1944)は米糠に未知の不可欠栄養素が含まれていると主張した(1901)。この考え方はホプキンズの副栄養素説よりも先んじていたが、オランダ語で論文を発表していたため、ホプキンズの目に留まらなかった。エイクマンも1906年に至ってフレーンスの説を認めて同調した。以後、各国の研究者はそれぞれ独自にこの未知因子の検索、抽出に熱中することとなった。
ポーランドのフンクは1911年、ロンドンのリスター予防医学研究所において、米糠のエキスから鳥類白米病の有効物質を純粋ではなかったが結晶として分離抽出することに成功、ビール酵母にもそれが含まれていることも発見して報告した。翌1912年には有効成分が窒素を含み、しかも塩基性を呈することを確認して一種のアミンであると考え、生命vitaに必要なアミンamineという意味でビタミンvitamineと命名し、1914年にはドイツの書店ベルクマンBergmannから『Die Vitamine』を出版した。
一方、ドイツ留学から1906年(明治39)帰朝した鈴木梅太郎(うめたろう)は、日本人の体位向上の目的から米や糠のタンパク質について研究を始め、ハトやネズミの動物飼育試験を重ねるうち、餌(えさ)に米糠を加えると発育が盛んになる事実を確認した。その有効成分の検索に努力した結果、米糠のアルコールエキスから動物の成長に必要な因子を得てアベリ酸と命名し、1910年東京化学会例会で講演、のちコメの学名にちなんでオリザニンと改名して翌1911年専門誌上に発表した。東京での講演発表はフンクに先んじていたわけである。しかし日本語で発表したために世界に広まらなかった。
そのころ、アメリカでも盛んに家畜飼料の研究が行われ、栄養学上注目すべき成果をあげていた。マコラムElmer Verner McCollum(1879―1967)らは、被検動物のウシをネズミに改めてから急速に研究が進み、1913年にはバター脂中に脂溶性不可欠因子のあることを確認、1915年に脂溶性不可欠因子を脂溶性A、従来の水溶性不可欠因子を水溶性Bと命名することを唱えた。これが脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンに大別した最初のものである。
また、イギリスのドラモンドJack Cecil Drummond(1891―1952)は微量不可欠因子の多元性に注目して、1920年これらの因子をビタミンA・B・C……とアルファベット順によぶことを提案するとともに、大部分のビタミンはアミンとは無関係なので、アミンの意味を除くためvitamineの語尾のeを除きvitaminとすることを提案した。現在もこの原綴(げんつづ)りが採用されている。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
『熊谷洋監修『臨床薬理学大系13 ビタミン』(1978・中山書店)』▽『島薗順雄・万木庄次郎著『ビタミンⅠ・Ⅱ――研究史を中心として』第2版(1980・共立出版)』▽『勝沼恒彦・津田道雄著『東海大学ライフサイエンスシリーズ ビタミンの話』(1984・東海大学出版会)』▽『日本ビタミン学会編『ビタミンの事典』(1996・朝倉書店)』▽『中嶋洋子・蒲原聖可監修、主婦の友社編・刊『最新栄養成分事典』(2003)』▽『アール・ミンデル著、丸元淑生訳『完全版ビタミン・バイブル』(2004・小学館)』▽『『日本人の食事摂取基準2010年版――厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書』(2009・第一出版)』
生体内では合成することができず,またそれ自体は生体の主要構成成分やエネルギー源とはならないが,微量(mgあるいはμgの単位)で生理機能を調節して,代謝を円滑にさせる物質群で,食物などの形で摂取しなければならない有機化合物をいう。ビタミンのなかには体内で生合成されるものもある。たとえばビタミンB複合体であるニコチン酸は,肝臓でトリプトファンから生成される。しかしその量は生体が必要とする量に及ばない。またビタミンC(アスコルビン酸)は多くの動物では体内でグルコースから生成されるが,ヒト,サル,モルモット,ゾウなどは生合成することができない。前者は必要量までを食物として摂取しなければならないし,後者も生成できない動物では外部から摂取しなければならない。そこでこれらの物質もビタミンとして取り扱われている。一方,近縁の物質が摂取され,体内でビタミンに変化するものもある。これをプロビタミンprovitaminという。ビタミンのなかには補酵素として作用するものもある。どのビタミンについても,それが欠乏すると欠乏症が起こり,生体は正常な成長発育ができず,健康を維持することもできなくなる。
壊血病の予防には野菜や果物の摂取が必要であることは,17~18世紀には経験的に明らかになっていた。しかし,生理学,栄養学的にビタミンの研究が進んだのは,19世紀後半になってからであった。
日本海軍の軍医であった高木兼寛は1882-84年,軍艦乗組員の大規模な栄養調査を行った。82年,東京からニュージーランドに向かった軍艦〈竜驤(りゆうじよう)〉は,272日の航海中,169人の脚気患者と25人の脚気による死者を出した。そこで彼は84年,同一航海についた軍艦〈筑波〉に対し,食事を変えタンパク質と野菜の多い洋食に近いものにしたところ,287日の航海で死者0,脚気患者14人という成果を得た。そこで,この実験的事実に基づき,海軍の兵食改革をして脚気患者を激減させることに成功した。
一方,バタビア(ジャカルタ)の病理研究所長であったオランダのC.エイクマン〉と呼ばれたが,彼は原因は白米中の毒素によるものと考えたが,弟子のグリーンスG.Grijnsは,米ぬかに未知の必須栄養素を含んでいるためと主張,1906年にエイクマンはこれを認め,白米がこの必須栄養素を欠くためと推定した。
同じころ,イギリスのF.G.ホプキンズもラットの飼育実験で,純粋な糖質,脂肪,タンパク質および塩類からなる飼料だけではその成長に不十分であり,全乳を添加すると完全になることを見いだし,全乳中に微量の〈副栄養素〉が含まれると発表した(1906)。
こうしたなかで,はじめて詳しい化学実験をしたのは鈴木梅太郎であった。1910年,彼は米ぬかから有効成分の単離に成功し,12年これにイネの学名Oryza sativaにちなんでオリザニンOrizaninと名づけた。一方,11年,ポーランドのフンクCasimir Funk(1884-1967)もロンドンのリスター研究所で米ぬかから鳥類白米病に有効な物質を発見したと発表し,これに生命vitaに必要なアミンamineという意味からビタミンvitamineと名づけた。
その後,各地でビタミンの研究が行われ,〈脂溶性A〉〈水溶性B〉などいくつかのビタミンが発見された。そこで19年,イギリスのドラモンドJ.C.Drummondはこれらをビタミンvitamin(アミンでない化合物もあるので,フンクのvitamineからeを除いた)と総称し,それにA,B,C,……と付号をつけることを提唱した。
現在,ビタミンは15種ほどが知られ,一般に脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンに大別されている。前者にはビタミンA,D,E,Kなどがあり,脂肪に含まれる必須脂肪酸をビタミンFということもある。後者にはビタミンB1,B2,B6,B12,C,ニコチン酸,パントテン酸,ビオチン,葉酸などがある。
以下,主要なビタミンの生理作用,欠乏・過剰症について解説する。
抗夜盲症因子として発見された脂溶性ビタミンであり,天然にはレチノールretinol(ビタミンA1)ならびに3-デヒドロレチノール3-dehydroretinol(ビタミンA2)とそれらの誘導体がある。ビタミンAは不安定で,空気,光,熱,酸によって,異性化,分解,重合などの変化をひき起こす。アルカリ性では比較的安定である。
(1)生理作用 ビタミンAそのものは,動物性食品から摂取しなければならないが,植物にはβ-カロチン(プロビタミンA)が含まれ,これが主として小腸,あるいは肝臓,腎臓などによって分解されてビタミンAとなる。レチノールは,主として肝臓中に脂肪酸エステルの形で貯蔵される。血流中では,肝臓で合成される特異的なタンパク質(レチノール結合タンパク質)と結合して存在している。レチノールは,アルコールデヒドロゲナーゼにより,可逆的にレチナールに,次いでレチナールオキシダーゼによって不可逆的にレチノイン酸に代謝されると考えられている。レチノイン酸は,ムコ多糖類の生合成を促進して,生体膜の抵抗性を補強すると考えられている。また,制癌作用を示すともいわれている。ビタミンAの国際単位(IU)は,1IU=0.3μgレチノールと規定されている。日本人のビタミンAの1日当りの所要量は,0~1歳で1000~1300IU,1~15歳で1000~1500IU,15歳以上成人で1800~2000IU,授乳婦で3200IUとされている。
(2)欠乏症 ヒトの血液中のビタミンAは,主としてレチノールであり,血液中の濃度が0.3μg/ml以下になると欠乏症状をひき起こすといわれている。ビタミンAの欠乏症としては,夜盲症(鳥目),皮膚や粘膜上皮の角化亢進,皮膚の異常乾燥症,色素沈着,骨変化,奇形の発生,性腺の退行変性,発育の停止,体重減少,食欲減退,中枢神経系の変性ならびに感染症に対する抵抗力の低下などが知られている。
(3)過剰症 ビタミンAを大量に摂取した場合の急性中毒症状としては,成人の場合,激しい頭痛(おもに後頭部),疲労感,めまい,吐き気,嘔吐などが報告されている。乳児では,大泉門膨隆などの脳圧亢進症がみられる。長期にわたって過剰に摂取した場合には,倦怠感,神経過敏,睡眠障害,食思不振,吐き気,嘔吐などを示す慢性中毒症になる。
脂溶性ビタミンで,くる病の予防因子として発見された。
(1)生理作用 腸管からのカルシウム吸収ならびに骨からのカルシウム溶出を促進することによって,血中のカルシウムレベルの恒常性を維持していると考えられている。
動植物性食品に含まれるプロビタミンである7-デヒドロコレステロールやエルゴステロールから生成される。この過程は紫外線浴によって促進される。生成されたビタミンDは肝臓,次いで腎臓において,25位および1位が水酸化されて1α,25-ジヒドロキシビタミンD3(1α,25-(OH)2-D3と略記)となって,生物学的活性を発揮し,標的器官である腸管や骨などにおいて,その作用を発現する。ビタミンDは,その作用機序がステロイドホルモンと類似していることから,ビタミンというよりはむしろステロイドホルモンの一種とも考えられている。
1α,25-(OH)2-D3は,カルシウム吸収に関与するカルシウム結合タンパク質の合成を増大するように働くと考えられ,また骨にも作用して,骨から血流中へのカルシウムの動員を促進するといわれているが,その作用機序は必ずしも明らかではない。ビタミンDの抗くる病作用は,1α,25-(OH)2-D3によって,腸管からのカルシウム吸収が増大し,骨におけるカルシウムの結晶化(化骨)が骨基質において促進するためと考えられている。また,骨のビタミンK依存性カルシウム結合タンパク質(オステオカルシン)の生合成にも,ビタミンDは関与しているといわれている。オステオカルシンはカルシウム代謝と関連して,骨組織の石灰化になんらかの影響を与えるのではないかと考えられている。骨形成に関しては,1α,25-(OH)2-D3だけでなく,24,25-ジヒドロオキシビタミンD3(24,25-(OH)2-D3と略記)も正常な骨の石灰化を促進し,カルシウムとリンの結晶体であるヒドロキシアパタイトの合成を促進する作用をもっている。ビタミンDの国際単位(IU)は1IU=0.025μg結晶ビタミンD3と規定され,ヒトの所要量については議論が残されているが,日本では0~6歳400IU,6歳以上100IU,妊婦400IUとされている。
(2)欠乏症 ビタミンDの欠乏症は,一般に,日照時間の短い地域で,ビタミンDの吸収不全,ならびに体内活性化障害のみられる場合にひき起こされるという。一方,ビタミンDの体内代謝が解明されるにしたがって,体内活性化障害が問題になっている。慢性腎不全患者にみられるビタミンDの欠乏状態は,腎臓における1α水酸化反応が低下し,活性型である1α,25-(OH)2-D3が合成されないためにみられるビタミンDの欠乏状態であるといわれている。ビタミンDの欠乏状態として,乳幼児ではくる病,成人では骨軟化症がみられ,軟骨の化骨障害または不全が特徴とされている。そのほかにも,発汗,顔面蒼白,運動障害,筋無力症状,肝脾腫などがみられる。
(3)過剰症 ビタミンDの大量投与は,腸管のカルシウム吸収ならびに骨からのカルシウム動員を促進して,腎臓で調節することのできないような高カルシウム血症をひき起こす。これによって,腎石灰化症や腎組織の壊死,腎不全や高血圧症などが発症する。
抗不妊因子として発見された脂溶性ビタミンで,天然にはα-,β-,γ-ならびにδ-トコフェロールtocopherolと,α-,β-,γ-ならびにδ-トコトリエノールtocotrienolの8種類が知られる。α-トコフェロールは自然界に最も広く分布し,ビタミンEとして普遍的な生物活性を示している。ビタミンEは動植物界に広く分布し,また,動物体内においてもほとんどの組織に分布している。
(1)生理作用 ビタミンEは生体内において,抗酸化作用ならびに膜の安定化作用を示している。その作用機序は非特異的な抗酸化作用であるといわれている。生体膜を構成しているリン脂質などの不飽和脂肪酸が過酸化反応によって酸化されるのを,ビタミンEは防止している。一方,膜に存在する非ヘム鉄やタンパク質などを保護し,また安定化することによって,生体膜の脂質過酸化反応を抑制しているともいわれている。このような機構によって,ビタミンEは生体膜を安定化し,また自動酸化を防止している。
(2)欠乏症 ネズミなどを用いる実験的ビタミンE欠乏症についての報告はあるが,ヒトではビタミンE欠乏症はほとんどみられない。しかしながら,未熟児や小児などでは,ビタミンE欠乏に伴う生体膜の抗酸化作用の低下が原因になって,赤血球の溶血による貧血をひき起こすこともあるといわれている。一般的な欠乏症状としては,筋薄弱化,脂漏,膵繊維症などがみられる。ビタミンEは不飽和脂肪酸の摂取量に比例して増減する。日本においては,ビタミンEは通常の食事中に十分に含まれているので,欠乏症の発生はほとんどみられない。
(3)過剰症 大量のビタミンEを長期間ラット,マウス,ウサギなどの実験動物に投与しても,慢性毒性,催奇形性などの悪影響は認められないという。しかしながら,多量の長期間投与は慎んだほうがよい。
血液凝固に関与する脂溶性ビタミンとして知られており,抗出血性ビタミンとも呼ばれ,K1,K2,K3の3種が知られる。現在では,自然界から多くのビタミンK関連物質が単離され,また合成もされている。ビタミンK1はアルファルファから単離され,フィロキノンphylloquinoneとも呼ばれている。ビタミンK2は腐敗魚粉から単離され,現在メナキノン-7menaquinone-7と呼ばれている。
(1)生理作用 肝臓内で合成される血液凝固因子Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹのためには必要な因子であることが明らかにされている。これらの血液凝固因子は,それぞれ前駆体の形で肝臓で合成され,ビタミンKに依存して生物学的に活性な凝固因子に変換する。この過程は,グルタミン酸をγ-カルボキシグルタミン酸に変換する反応である。これらの血液凝固因子以外にも,ビタミンKに依存してつくられるグルタミン酸残基は,骨,腎臓,胎盤,肺などにも含まれている。しかしながら,血液凝固因子以外のグルタミン酸残基の生理的な役割は,現在のところ,まだ明らかにされてはいない。
(2)欠乏症 健康なヒトにおいては,ビタミンKは食事から十分に摂取されており,また腸内細菌によっても合成されているので,欠乏症はみられない。しかしながら,ビタミンKの吸収障害の場合,あるいは抗生物質の投与などによって腸内細菌叢に異変を生じた場合などには,ときにビタミンKの欠乏状態がみられる。新生児出血,成人の閉塞性黄疸の場合などにみられる血液凝固の異常現象である。
(3)過剰症 未熟児にビタミンKを大量に投与すると,溶血が高まる。成人では,溶血性貧血や肝臓障害を起こす。
水溶性ビタミンで,チアミンthiamine,アノイリンaneurinとも呼ばれる。脚気を予防するビタミン(抗脚気因子)として発見された。鈴木梅太郎のオリザニンもこれにあたる。
(1)生理作用 ビタミンB1はチアミンピロホスホキナーゼにより,チアミンピロリン酸が合成されて,補酵素として作用している。この補酵素は主として糖質代謝に関与するもので,ビタミンB1の1日の所要量は摂取エネルギー1000kcal当り0.4mgとされ,成人男子では1日0.9~1.0mg,女子では0.8mgである。
(2)欠乏症 健康人の血液中のビタミンB1濃度は68.1±31.2ng/mlであり,40ng/ml以下になると欠乏症,すなわち脚気が起こる。ビタミンB1の欠乏症としては,神経痛,筋肉痛,関節痛,末梢神経炎,末梢神経麻痺,心筋代謝障害などが報告されている。激しい肉体労働時や消耗性疾患では,ビタミンB1の需要が増大する。さらに,食事からのビタミンB1摂取が不規則で,ビタミンB1が潜在的に欠乏しているような状況では,脳や神経系におけるグルコースの利用が円滑に行われなくなるので,多発性神経炎症状が起こりやすいといわれている。
(3)過剰症 ヒトでは,ビタミンB1の大量投与を長期間(数ヵ月)続けても副作用はみられず,血液や臓器にも病理学的変化はみられないといわれている。
ビタミンB複合体のうち,耐熱性の成長促進因子として発見されたものであり,化学名リボフラビンriboflavin。
(1)生理作用 リボフラビンは,植物や多くの微生物によって合成されるが,高等動物においては合成されない。生体内では,フラビンタンパク質またはフラビン酵素と呼ばれる酸化還元酵素として機能している。牛乳,卵,鶏肉,魚介類,胚芽,酵母,肝臓などに多く含まれており,また豆類,緑色野菜,海藻,シイタケなどにも多い。成人の1日必要量は1.0~1.4mgである。
(2)欠乏症 ビタミンB2の摂取不足,体内でのエネルギー消費の増大,腸内細菌叢によるビタミンB2合成の低下,ビタミンB2の吸収不良,補酵素への合成障害,酵素反応阻害などによって,欠乏状態をひき起こす。欠乏症状としては,口内炎,舌炎,咽頭痛,脂漏性皮膚炎,角膜辺縁血管増生などがみられ,小児では肛門周囲あるいは陰部に皮膚炎がみられる。精神安定剤,抗生物質,副腎皮質ホルモンなどの投与時,糖尿病,肝臓疾患,脳下垂体疾患でも欠乏症がみられるという。
(3)過剰症 リボフラビンは,1日の必要量の数百倍を長期間投与しても無害であり,血液や臓器にも病理学的変化は生じないといわれている。
ナイアシンniacinともいう。ビタミンB群に属する水溶性ビタミンの一種である。
(1)生理作用 補酵素,NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド),およびNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の成分として,酸化還元反応の水素の受容体として作用している。植物や動物の体内においては,トリプトファンからニコチン酸を合成することができる。トリプトファン60mgは,ニコチン酸1mgに相当するといわれている。1日の所要量は食物中のトリプトファン含量によっても変わるが,成人では11~17mgとされる。
(2)欠乏症 ニコチン酸の欠乏症としては,イヌの黒舌病,ヒトのペラグラpellagraなどがある。ペラグラは,動物性タンパク質の摂取が少なく,トウモロコシを多食している地方に,地方病としてみられる。ペラグラの主症状は,皮膚炎,消化器障害,精神障害などである。米のトリプトファンやニコチン酸の含量は,トウモロコシのそれとほとんど変わらないが,米を主食とする地方ではペラグラはみられない。それゆえ,ペラグラの発症要因は,ニコチン酸やトリプトファンの欠乏によるのではなく,他の要因によるとも考えられている。トウモロコシはロイシンの含量が高いので,ロイシンやイソロイシンのアンバランスによって,ニコチン酸や他のビタミンB群の複合的な欠乏状態をひき起こすためではないかとも考えられている。
(3)過剰症 ニコチン酸を多量に摂取すると,皮膚紅潮,搔痒(そうよう)感,胃腸障害を起こすといわれている。血清コレステロールを低下する作用も報告されているが,その機序は明らかでない。
水溶性ビタミンで,構造の密接に関連した三つの誘導体であるピリドキシンpyridoxine,ピリドキサールpyridoxal,ピリドキサミンpyridoxamineの総称である。この三つの誘導体は,酵素反応により相互に転換することができる。ビタミンB6は,動物では肝臓,腎臓,筋肉に多い。また,酵母,豆類,穀類に多い。
(1)生理作用 タンパク質の代謝に重要な役割を示している。また,大脳では,神経伝達物質の生成,ならびに刺激伝達に必要なアミン類の生成に関与している。
(2)欠乏症 ヒトでは腸内細菌によって合成されるので,欠乏症はほとんどみられない。ビタミンB6の拮抗剤を投与した場合には,痙攣(けいれん),皮膚炎などがひき起こされる。先天性の代謝異常症に,ビタミンB6酵素の異常によるものが知られている。これには,ビタミンB6依存性痙攣,ビタミンB6反応性貧血,シスタチオニン尿症,キサンツレン酸尿症,ホモシスチン尿症などがあり,痙攣,貧血,知能障害などがみられる。
(3)過剰症 ビタミンB6は,1日1000μgを数週間あるいは数ヵ月間継続した場合でも,過剰症や副作用は認められない。
ビタミンB群の一つであり,食品中には広く分布している。動物組織,未精白の穀物類,豆類に豊富に含まれている。微生物の生育因子,ニワトリひなの皮膚炎防止因子として発見され,その後,動物の成長にも不可欠なことが明らかにされた。
(1)生理作用 パントテン酸は,エネルギー代謝や解毒に重要な役割をもつCoAの構成要素として機能している。また,長鎖脂肪酸,リン脂質,ならびにステロイドの生合成にも関与している。
(2)欠乏症 ヒトにみられる特異的なパントテン酸欠乏の症状は,実験的に拮抗剤を投与した場合にだけ観察される。パントテン酸の欠乏は,他のビタミンB群の欠乏を伴うことが多い。欠乏症状としては,副腎,皮膚,末梢神経,消化管,生殖機能,抗体産生などの機能障害が観察されている。
(3)過剰症 パントテン酸は,大量投与により副作用は認められず,また過剰症についてもほとんど報告されていない。
ビタミンB複合体の一つであり,天然の食品に広く分布し,ビタミンH,補酵素Rとも呼ばれた。酵母の増殖に必要な因子として卵黄から単離された。
(1)生理作用 生の卵白を大量に摂取すると,卵白に含まれるアビジンが腸内でビオチンと結合して,ビオチンの吸収を妨げるために,卵白障害というビタミン欠乏症がみられる。ビオチンは,この障害を防ぐ因子として見つけられたので,抗卵白障害因子ともいわれた。ビオチンの利用効率は,食品の種類によって異なる。大豆やトウモロコシのビオチンは完全に利用されるのに対し,小麦のビオチンはほとんど利用されない。卵黄,動物組織,トマト,酵母は優れたビオチンの供給源である。
(2)欠乏症 腸内細菌によって合成されるので,欠乏症状はほとんどみられない。腸内細菌叢を減少させるような抗菌薬剤を投与すると,容易にビオチン欠乏が起こる。ビオチン欠乏の症状としては,結膜炎,皮膚や粘膜の灰色退色ならびに落屑(らくせつ),筋肉痛,疲労感などがあり,それとともに血糖値が著しく上昇する。
(3)過剰症 ビオチンは,ヒトならびに動物実験において,大量投与による副作用はみられないと考えられている。
肝臓に含まれる抗悪性貧血因子として単離されたB群ビタミンの一つである。コバラミンcobalaminとも呼ばれ,中心にコバルトイオンをもっている。植物ならびに酵母以外の生物に広く分布し,とくにウシ肝臓,卵黄,魚肉中に多く含まれている。酵母や高等植物の一部にも,ビタミンB12ならびにビタミンB12依存酵素の存在が認められているが,その詳細は明らかでない。
(1)生理作用 ビタミンB12は,多くの動物の正常な発育にとって不可欠であり,血球の生成,腸管の上皮細胞の成熟など核酸やタンパク質の合成をはじめ,脂質や糖質の代謝にも関係している。
(2)欠乏症 普通の食事をしていて,ビタミンB12の欠乏症になることはほとんどない。ビタミンB12の吸収障害,輸送異常ならびに代謝異常に伴って,ビタミンB12の欠乏状態がみられる。欠乏症状としては,巨赤芽球性貧血,赤色舌,運動失調,昏睡などがみられる。代謝異常によるものでは,アシドーシス,発育障害,嘔吐などがみられる。
(3)過剰症 ビタミンB12の過剰投与による組織学的障害はほとんど報告されておらず,またヒトにおけるビタミンB12過剰症も報告されてはいない。
ビタミンB12と同様に,悪性貧血に関与する水溶性ビタミンであり,ビタミンM,ビタミンBCとも呼ばれた。動物細胞においては合成することができないために,食品から葉酸を摂取する必要がある。
(1)生理作用 生体内の種々の反応におけるC1化合物の転移反応に関与する補酵素として作用している。また,アミノ酸代謝,タンパク質合成,メタン生成などにも関与している。
(2)欠乏症 葉酸が欠乏すると,大赤血球性の貧血になり,骨髄では巨赤芽球の出現がみられる。妊娠時には,葉酸は大量に消費されるので不足しがちになり,妊娠性巨赤芽球性貧血を発症することもある。ニワトリひなの食餌性貧血の予防と治療,さらに哺乳類の抗貧血因子として有効である。
(3)過剰症 ヒトに対する副作用は,1日5mg程度の葉酸を長期間投与しても観察されてはいない。しかしながら,ラットやウサギに大量投与(40~75mg/kg体重)すると,腎障害がみられるという。
化学名をアスコルビン酸ascorbic acidといい,抗壊血病作用をもつ水溶性ビタミンとして知られている。生体内において,酸化還元系に補酵素様の作用を示している。アスコルビン酸は,かんきつ類,イチゴ,メロンなどの果実,緑黄色野菜に多く存在している。体内の分布は,副腎,黄体,下垂体などに多くみられるが,筋肉組織には少ない。肝臓,脳,胸腺などにも比較的に含まれている。これらの分布は外部環境によって変動する。
(1)生理作用 アスコルビン酸は強い還元作用をもっている。その水溶液は酸性を示し,アルカリによって塩を生成する。アスコルビン酸は,水溶性ビタミンのなかで最も安定性が低く,とくに銅のような金属が微量に存在している場合には,加熱によって容易に分解される。しかしながら,凍結に対しては比較的安定である。アスコルビン酸は,ビタミン類のなかでは最も大量に必要とされるもので,その所要量は,成人男女ともに1日50mgとされている。アスコルビン酸は,コラーゲン合成に関与し,また免疫機能の増強効果をもつとも考えられている。この効果は,アスコルビン酸による,白血球の作用の強化のためにみられるものと考えられている。
(2)欠乏症 欠乏すると壊血病となり,全身の点状・斑状出血,歯肉の腫張・出血などの症状が出現する。また,コラーゲン生成に関与しているために,外傷の治癒が遅延する。
(3)過剰症 アスコルビン酸の副作用については,ほとんど知られていない。しかしながら,長期間,大量に投与すると,消化管に障害がみられることがあり,消化管内に存在するビタミン(たとえばビタミンB12)や薬物に作用したり,あるいは,それらの吸収に障害を示すなどという報告もある。しかしながら,鉄の腸管吸収は,アスコルビン酸の共存によって増大し,さらに,組織に貯蔵された鉄の遊離もアスコルビン酸によって増加することが報告されている。また,風邪や癌の予防ならびに治療に,アスコルビン酸の大量投与が有効であるともいわれているが,この説は必ずしも確認されてはいない。
最近,新しい栄養問題として,〈潜在性栄養素欠乏状態marginal nutrient deficiency〉が注目されている。潜在性の栄養素欠乏状態とは,〈なんらの臨床的な徴候はみられないが,その栄養素の欠乏に伴い,生化学的な機能に変化のみられる状態〉とされている。潜在性の栄養素欠乏状態は,身体内で補給することのできない微量栄養素であるビタミンやミネラルなどの欠乏に際して,比較的よく観察されるという。
この潜在性栄養素欠乏状態を考えるにあたり,われわれの身体状況について,健康と疾病との関連を概括的に考察してみることも必要である。疾病のほうから人間をみると,病気を有する人(病人)と,潜在的な病気をもつ人(半病人)に分けることができる。一方,健康のほうからみると,まったく健康と思われる人(健康人)と,健康ではあるが病気に移行する可能性を潜めている人(半健康人)に分けることができる。これらを横軸に並べると,健康,半健康,半病気,病気という4段階になる。これらは断続的なものではなく,連続したスペクトルをつくるとみなされる。
現在の日本で問題となるのは,半健康あるいは半病気の状態にあると思われる人たちが増大しているということである。このような人たちのなかには,潜在的に栄養素の欠乏状態にある人たちもしばしば見受けられる。季節はずれの野菜や果物にみられるビタミン含有量の低下,また保存,輸送の過程にみられるビタミンの崩壊,さらに加工食品の製造,保存の過程でみられるビタミンの喪失などにより,〈潜在性ビタミン欠乏状態〉が目だちはじめている。
ビタミンの欠乏状態が進行していくと,そのビタミン,あるいはそのビタミンの代謝産物の血流中の濃度,さらに,それらの尿中排出量に変動がみられるようになる。また,栄養素の代謝の指標とも考えられている酵素活性や,代謝産物などにも変動がみられるようになってくる。このような状態が進行すると,不安状態(いらいら),過敏状態,注意散漫,疲労感,頭重,頭痛,肩こり,めまい,しびれ,息切れ,便秘,下痢などといった精神・神経的な,あるいは身体的な不特異的徴候,いわゆる不定愁訴がみられるようになる。
さらにビタミンの欠乏状態が進行すると,そのビタミンの欠乏に伴う臨床的初期症状が観察されるようになり,細胞や組織に器質的な変化をもたらして,そのビタミン固有の重症欠乏症になると考えられている。すなわち,潜在性のビタミン欠乏状態は,ビタミン欠乏症の準備状態ということができるのである。
執筆者:堤 ちはる
ビタミンを補給するために用いられる薬剤。1種類のビタミンからなる単味剤と2種以上のビタミンを含む複合ビタミン剤とがある。複合ビタミン剤は総合ビタミン剤ともいうが,水溶性または脂溶性の片方だけのビタミンを含むものを複合ビタミン剤,双方とも含むものを総合ビタミン剤といって区別することもある。
ビタミンの本態が不明であった時代には,夜盲症やくる病など一部のビタミン欠乏症に対し,肝油などが有効であることがわかっていたにすぎなかった。しかし各ビタミンの化学構造が明らかになってくるにつれて,単離,合成が行われるようになり,医薬として用いられるようになった。現在では脂溶性ビタミンを水溶化することも可能になり,さらにアミノ酸や無機塩類,抗生物質などをも配合し,その協同作用を利用して,ビタミン欠乏症の予防や治療に用いる薬剤もつくられている。これらの薬剤は,有機合成化学や発酵学の進歩により,大量生産に成功し,製品化されている。とくに日本ではビタミン剤の生産が多く,1994年現在金額にして医薬品総生産額の約4%を占めている。
一時期,ビタミン剤の大量投与による治療が考えられたことがあったが,本来,生体内で微量で作用するビタミンに薬効があるかどうかはきわめて疑わしく,例外を除いて,欠乏症以外の効果は否定されているのが現状である。とくに脂溶性ビタミンは,体内での代謝は遅く,体内の脂肪に蓄積されて過剰症をひき起こすことがあるので,過剰に摂取することのないよう注意しなければならない。
→栄養 →食品
執筆者:松田 広
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体外から摂取する食品の成分のうち,主栄養素である糖質や脂肪,タンパク質のように,生体のエネルギー源として,あるいは構成成分として要求されるものではないが,代謝系や生理機能の維持に必要不可欠な有機化合物で,微量栄養素として生体に必須なもの.ビタミン発見の端緒となったのはそれぞれの特異的な欠乏症(avitaminosis)である.これらを治癒または予防する因子として,ビタミンが単離された.それらの構造は決定され,合成されている.ビタミンと構造の類似する物質は,ビタミンと拮抗してその作用を阻害するので,これをアンチビタミン(antivitamin)とよんでいる.ある種のビタミンは,それと化学的に構造の近い物質から体内で生成されるが,このような物質をプロビタミン(provitamin)と総称している.ビタミンはその溶解性から大別して,脂溶性と水溶性とに分類される.ホルモンも微量で有効な生体活性物質であるが,これは生体中で合成され,分泌されるのに対し,ビタミンは生体が合成しないか,してもきわめて不十分である.ビタミン類を表に示す.
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(的場輝佳 関西福祉科学大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 抜け毛・薄毛対策サイト「ふさふさネット」毛髪用語集について 情報
…このような栄養型を独立栄養(無機栄養,自栄養)という。これに対して動物の多くはきわめて限られた合成能力しかもたず,エネルギー源として炭水化物,脂肪,タンパク質などの高分子化合物を必要とするうえに,体を構成するタンパク質の材料である20余種のアミノ酸のうちの約10種(必須アミノ酸),補酵素などの構成成分として必要なビタミン類,不飽和脂肪酸なども要求し,それらのものを食物として摂食する必要がある。このような栄養型を従属栄養(有機栄養,異栄養)という。…
…1919年に現社名となる。33年にビタミンCの合成に成功,続いて38年にビタミンE,46年にビタミンAの合成にも成功し,ビタミンのロシュとして有名になった。第2次大戦後,香料,試薬,医療用機器,農薬の分野に進出,76年には液晶材料の販売も始めている。…
※「ビタミン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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