説話集。編者,成立時期ともに未詳。平安末期成立,鎌倉初期成立の両説がある。原題は失われており,書名は現代の研究者による仮称。和歌説話46話,仏教説話24話の計70話を収録。インドを舞台とするものが3話あるが,ほかはすべて日本の説話。すべての説話が〈今は昔〉と書きおこされている。説話集の前半は,大斎院選子,赤染衛門(あかぞめえもん),和泉式部,みあれの宣旨,伊勢大輔(いせのたいふ),清少納言,伯(はく)の母,藤原長能(ながとう),源道済(みちなり)などにまつわる和歌説話と,それらの説話から喚起されるイメージを含む和歌説話とが,連想を契機にして組み合わされて配列されている。後半は,観音をはじめとする仏菩薩の霊験説話を中心にし,それらの類想説話が配列されている。連想の糸をたどるように説話を配列する編纂方法は,《宇治拾遺物語》の方法に類似する。本書は,ほとんどすべてを何らかの先行文献によっていると考えられ,口承説話の採録はみとめがたい。《宇治拾遺物語》《世継(よつぎ)物語》所収説話と細部まで一致をみせる説話を含み,また,《今昔物語集》所収説話と一致をみせる説話をも含んでいる。これは,これらの書物が直接,間接に源隆国《宇治大納言物語》を編纂資料としていると考えることによって説明される。現在ではすでに散逸してしまった《宇治大納言物語》の実体を明らかにするうえでも,重要な資料である。
執筆者:出雲路 修
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平安末期の説話集。編者未詳。現存伝本は東京・梅沢記念館所蔵写本が唯一のもので、題簽(だいせん)、内題ともになく、本来の書名は不明。仮題が定着しているが、『梅沢本古本説話集』などともよばれる。所収説話の伝承関係から推定して1126年(大治1)から1201年(建仁1)の間の成立とする説が有力。前半の46話は王朝の女流歌人たちの逸話を中心とする和歌説話、後半の24話は観音霊験譚(かんのんれいげんたん)を多く含む仏教説話からなり、全体として王朝盛時の風雅の世界への回顧と仏菩薩(ぼさつ)の霊験・救済とを基調としている。『今昔物語集』や『宇治拾遺(うじしゅうい)物語』と共通の説話を多数含み、院政期の説話伝承を考える重要な手掛りを提供している。
[小島孝之]
『川口久雄校注『日本古典全書 古本説話集』(1967・朝日新聞社)』
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