過換気症候群(読み)カカンキショウコウグン

デジタル大辞泉 「過換気症候群」の意味・読み・例文・類語

かかんき‐しょうこうぐん〔クワクワンキシヤウコウグン〕【過換気症候群】

神経症呼吸中枢の異常により発作的に過呼吸を行ったため、血液中の二酸化炭素濃度が低下して起こる一連症状呼吸困難胸痛やしびれ・痙攣けいれんなどがみられる。

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精選版 日本国語大辞典 「過換気症候群」の意味・読み・例文・類語

かかんき‐しょうこうぐんクヮクヮンキシャウコウグン【過換気症候群】

  1. 〘 名詞 〙 精神的な原因から過呼吸となり、炭酸ガスを過剰に排出したため、血液中の炭酸ガス濃度が急に低下して生じる症状。呼吸困難、動悸、胸痛、しびれ、痙攣(けいれん)、失神などの症状がある。

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内科学 第10版 「過換気症候群」の解説

過換気症候群(呼吸調節の異常)

病態生理
 特に原因となる疾患がなく,主として心理的要因により,突然,頻呼吸,過呼吸が出現し,それに引き続いて,呼吸困難,意識障害,テタニー症状などの多彩な臨床症状を呈する機能異常である.心身症的色彩が強く,比較的若い女性に多い.過去に何度も同様な既往を有していることが多いが,初発の場合は器質的異常の有無を鑑別する必要がある.
臨床症状
 強い不安を訴え,突然,呼吸困難感が出現して頻呼吸となる.過換気が重度になると,呼吸性アルカローシスを生じ,その結果,電解質異常(血清カルシウムの低下)が惹起され,テタニー症状が出現してくる.また,意識障害,失神,痙攣などがみられることもある.これらの症状が患者の不安感,恐怖感をさらに増幅させる悪循環となり症状が継続する.
診断・鑑別診断
 心理的要因に伴う典型的頻呼吸であれば診断は容易であるが,血液ガス分析で,低二酸化炭素血症(PaCO2の低下)とpHの上昇(呼吸性アルカローシス)が認められれば診断が確定する.基本的に呼吸器系は正常のため,PaO2は上昇するのが通常である.もし,過換気(頻呼吸)状態で,PaCO2が低下しているにもかかわらず,PaO2の上昇がみられないときには,ほかの呼吸器疾患や,呼吸困難を呈する疾患を考える必要がある.上気道閉塞(誤嚥,窒息など),自然気胸,肺血栓塞栓症などの低酸素状態を惹起する病態や,心不全や貧血などの呼吸困難を呈する疾患を念頭におく必要がある.
治療
 治療は過換気を是正してPaCO2の低下を抑えることが主眼となる.一般的にはペーパーバック法(紙袋を患者の口・鼻にかぶせて呼吸させ,呼気中の二酸化炭素を再吸入させてPaCO2を上昇させる)が推奨されているが,実際には,かえって患者の不安を増強させパニックに陥ることもあり,難しいこともある.したがって,患者の不安を取り除くことが最も重要で,決して危険な状態でないことを言い聞かせ,患者をリラックスさせ頻呼吸を改善させるように努力しなくてはならない.どうしても鎮静が必要なときには薬物投与(ジアゼパム5~10 mg筋注など)が必要となることもある.発作を繰り返す患者に対しては,心療内科や精神科的アプローチが必要である.[赤柴恒人]
■文献
Bickelmann AG, et al: Extreme obesity associated with alveolar hypoventilation−a Pickwick syndrome. Am J Med, 21: 811-818, 1956.
Guilleminault C, Tilkian A, et al: The sleep apnea syndromes. Ann Rev Med, 27: 465-484, 1976.
厚生科学研究費補助金特定疾患対策研究事業.呼吸不全に関する調査研究(主任研究者栗山喬之).平成13年度総括研究総括書,pp146-147,2002.
睡眠呼吸障害研究会編:成人の睡眠時無呼吸症候群,診断と治療のためのガイドライン,メディカルレビュー社,東京,2005.

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家庭医学館 「過換気症候群」の解説

かかんきしょうこうぐん【過換気症候群 Hyperventilation Syndrome】

[どんな病気か]
 精神的ストレスなどがきっかけで始まった大きな呼吸によって、血液中の炭酸ガス(二酸化炭素)が肺から排出されすぎて少なくなった状態を過換気といい、それによっておこる全身の病的な変化を、過換気症候群といいます。大きな呼吸をするために呼吸困難を感じます。
 血液中の炭酸ガスは血液の酸・アルカリ度と密接な関係があり、炭酸ガスが減ると血液はアルカリ性となります。
 炭酸ガスが減ると脳の血管が収縮し、脳への血流も減り、頭がボーっとしたり、めまいがおこったりします。また、手指の血流が減ると、手がしびれ、血液のアルカリ度が増すと、ひどいときは全身にけいれんがおこることもあります。
[検査と診断]
 呼吸困難の原因が、ぜんそく発作(ほっさ)、自然気胸(しぜんききょう)、肺塞栓症(はいそくせんしょう)、狭心症(きょうしんしょう)、心筋梗塞(しんきんこうそく)などである可能性もあるため、胸部X線写真、心電図などの検査が行なわれます。また、動脈より採血し、動脈血中の炭酸ガスや酸素の濃度、酸性度・アルカリ度が調べられます。
 肺や心臓に異常がなく、動脈血中の炭酸ガスが減少していて、酸素が基準値以上あり、アルカリ性であれば、過換気症候群と診断されます。
 また、過換気になっていると、ぜんそく発作や狭心症発作をおこしやすいため、これらの病気にかかっていないかどうかも調べられます。
[治療]
 大きな呼吸をすることにより呼吸困難などがおこり、不安になって、さらに大きな呼吸をすることで症状が悪化し、ますます不安となってさらに大きな呼吸をするという悪循環におちいり、発作をおこします。
 この発作をおこして緊急入院した人には、血液中の炭酸ガスをもとにもどすため、ビニール袋などを頭にかぶせ、はいた息(呼気(こき))を再び吸わせる方法がとられたり、鎮静薬が与えられます。
 大きな呼吸をすることが悪循環の原因で、これはひとりずもうのようなものですから、大きな呼吸をしてしまって手のしびれなどを感じたら、それ以上大きな呼吸をしないように、自分で呼吸をコントロールすることが発作の予防となります。
 発作がしばしばおこる場合や、慢性の場合は、精神的な問題のために過換気となっていることが多く、精神療法などが必要な場合もあります。
 日常生活のストレスなどによって、一度、過換気になってしまうと、悪循環におちいって発作をおこすことになりますが、発作の原因を理解することによって予防できます。

かかんきしょうこうぐん【過換気症候群】

 不安感・緊張感や、意識されない心理的な葛藤(かっとう)など、さまざまな原因によって、発作的に呼吸が頻回になる病態をさします(「過換気症候群」)。
 過換気症候群の場合には、血液中に二酸化炭素の過剰がないのに呼吸が頻繁(ひんぱん)になるため、かえって二酸化炭素の濃度が正常よりも低くなってしまいます。その影響で、手足のしびれ感やけいれんがおこったり、重症のときには意識障害がおこることもあります。治療はペーパーバッグ法といって、紙袋などを口にあて、自分がはいた空気をくり返し吸うようにします。ただし、あまり長い時間行なうと今度は酸素が不足してしまうので注意が必要です。
 精神的な不安を抑えるためには、抗不安薬が用いられますが、長期的には、不安・葛藤を取り除く治療を根気よく継続することがたいせつです。

かかんきしょうこうぐんかこきゅうほっさ【過換気症候群(過呼吸発作)】

 強い不安や緊張感などが引き金となって過換気(過呼吸)が生じ、それによって手足のしびれ感や胸部圧迫感などの症状を呈するものを過換気症候群と呼びます。思春期の女子に多くみられる疾患で、転換ヒステリーと区別できないこともあります。
 こうした発作がおこったときには、周囲は慌てず、楽な姿勢をとらせて、大丈夫であること、心配しないでよいことを伝えるようにします。
 しばらく経過をみて、それでも軽快しないようなら、紙袋を使って口と鼻をおおい、紙袋の中でゆっくりと呼吸をさせる方法(ペーパーバック法)を試みるのも1つの方法です。
 ただし、これはあくまでも応急処置(対症療法)なので、こうした発作が頻回に続くようであれば、心理的な治療を考える必要があります。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「過換気症候群」の意味・わかりやすい解説

過換気症候群
かかんきしょうこうぐん
hyperventilation syndrome

心因以外にとくに原因となる器質的疾患がなく、発作性に呼吸困難、過呼吸状態を生じ、それに伴い多彩かつ一見重篤そうな臨床症状を示す疾患で、過呼吸症候群ともいう。心身症的色彩が強く、ときに呼吸器、循環器疾患に合併して発症することもある。発作は、激しい運動、疲労、疼痛(とうつう)、不安、興奮、緊張など、心身のストレスにより誘発される。一般に若年者に多く、女性は男性の約2倍で、とくに25歳以下の精神の不安定な女性に多くみられる。

 発作は自覚的な息苦しさに始まり、呼吸が深くなって数も増し(過換気)、これが精神的不安を助長し、それがさらに過換気を増大させるといった悪循環を形成し、悪化する。過換気によって血液中の炭酸ガスが過剰に吐き出され、動脈血炭酸ガス分圧の低下と水素イオン濃度(pH)の上昇、すなわち呼吸性アルカローシスをきたす。その結果、イオン化カルシウムの低下を生じて、神経、筋の興奮性を増し、また脳血管を収縮させて血流を減少させる。一方、不安は交感神経を興奮させ、それによる症状(換気および心機能の亢進(こうしん)など)も現れることになる。発作時には著しい過呼吸状態(数も深さも増す)を示すとともに、呼吸困難、動悸(どうき)、胸内苦悶(くもん)感、胸痛、頭痛、発汗、手足ならびに顔・口唇周囲のしびれ感、四肢のテタニー様けいれん、めまい、意識障害などをきたし、重症例では失神を生ずることもある。発作の持続時間は30~60分のことが多い。

 診断は、発作の誘因、患者の強い不安状態、呼吸の状態や訴えのわりには理学的所見や心電図などの所見に乏しいこと、多彩な臨床症状などに加えて、動脈血液ガス測定が可能であれば、動脈血炭酸ガス分圧の低下とpHの上昇、すなわち呼吸性アルカローシスを証明することにより確定できる。紙袋再呼吸法(後述)または5%炭酸ガス吸入による症状の改善も診断に役だつ。また非発作時には、意識的に過呼吸を行わせて発作を誘発することもできる。

 発作時には、息こらえをするか、数リットル程度の大きさの紙袋(ビニル製でもよい)で口と鼻を覆って呼吸させると、呼気中の炭酸ガスをふたたび吸入することになるので、動脈血炭酸ガス分圧が正常化し、発作は消失する。この紙袋再呼吸法を患者に体得させることがたいせつである。発症機序を理解させ、特別の器質的疾患によるものでなく、危険性のないことを説明して不安感を取り除くこともたいせつである。発作を繰り返す場合には、精神安定剤の投与や、心理療法を中心とした心身医学的治療などが行われる。

[高橋昭三]


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百科事典マイペディア 「過換気症候群」の意味・わかりやすい解説

過換気症候群【かかんきしょうこうぐん】

過呼吸症候群とも。心理的因子や,中枢神経系の機能障害などの身体的因子,あるいは両者が合併して起こる発作的な過換気と,それによって生じる機能障害。若い女性に多く,不安神経症ヒステリーなどの場合起こりやすいため,神経性呼吸困難ともいう。息苦しさを感じて,過度の呼吸を繰り返し,その結果過換気状態になって,血液中の酸素濃度と炭酸ガス濃度のバランスが崩れて呼吸性アルカローシスを引き起こし,呼吸困難,窒息感,テタニー様痙攣(けいれん),ときに失神などの症状が現れる。袋を口に当てて反復呼吸すると軽快する。重症例では,ジアゼパムなどの注射。反復する場合は,自律訓練法,心理的脱感作などの精神療法が必要。

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世界大百科事典(旧版)内の過換気症候群の言及

【腓返り】より

…筋肉が疲労しているときに,突然強く運動したり,運動の方向を変えて筋肉の急激な収縮が強いられたときに発生する。また,こむらがえりを過換気症候群hyperventilation syndrome(過呼吸症候群ともいう)の一つとする考えもある。水泳中には,なるべく息を吸い込もうとして過呼吸になり,酸素のとり過ぎになりやすい。…

※「過換気症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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