日本大百科全書(ニッポニカ) 「和家具」の意味・わかりやすい解説
和家具
わかぐ
和風様式の家具のこと。和家具ということばは、近代になり、西洋家具が入ってきて、従来使われてきた日本の伝統的な家具と区別する必要が生じてから用いられるようになったものである。その時期は明治末から大正時代あたりのようであるが、そもそも家具ということば自体、初めから現在のような意味で使われてきているわけではない。鎌倉時代には棟(むね)や梁(はり)など建物の部材をさし、近世では建具や畳、また膳(ぜん)、椀(わん)などをいった。明治になってもまだ、鍋(なべ)、釜(かま)から衣服や指輪などまで、つまり家の中にあるすべてを家具とよんでいる例もあり、現在のような概念が成立するのはやはり明治末から大正にかけてのころと考えられる。
[小泉和子]
家具の呼び方
家具を表すことばは時代によって変化してきた。奈良時代には資財、雑物(ぞうぶつ)、鋪設(ほせつ)物、装束(しょうぞく)などが、平安時代には調度、装束などが、中世には具足(ぐそく)、器財(きざい)が、そして近世には道具、屋財(やざい)、家財、家飾具(かしょくぐ)などが使われていた。また、とくに机や棚などは指物(さしもの)ともよばれていた。しかしいずれにしても現在の「家具」のように家具全体を表すことばでないのは、そうした概念自体が日本では育っていなかったためであろう。
[小泉和子]
和家具の種類
現在、和家具というと、桐箪笥(きりたんす)、茶箪笥、文机(ふづくえ)、座卓、鏡台などをさすが、歴史的にみれば和家具の種類はおよそ次のようになる。
[小泉和子]
屏障具
幕、帳(ちょう)、帳台、軟障(ぜじょう)、幌(とばり)、暖簾(のれん)、簾(すだれ)、障子、屏風(びょうぶ)、衝立(ついたて)、蚊帳(かや)
[小泉和子]
鋪設・座臥具
蓆(むしろ)、薦(こも)、畳、絨毯(じゅうたん)、毛氈(もうせん)、茵(しとね)、座蒲団(ざぶとん)、牀(しょう)、床子(しょうじ)、胡床(こしょう)、椅子(いす)、交椅(こうい)、曲彔(きょくろく)、兀子(ごっし)、草墪(そうとん)、藁墪(わらとん)、円座(えんざ)、縁台、床几(しょうぎ)、脇息(きょうそく)、寄懸(よりかかり)
[小泉和子]
収納具
籠(かご)、葛籠(つづら)、行李(こうり)、箱、櫃(ひつ)、唐櫃(からびつ)、長持、厨子(ずし)、厨子棚、棚、戸棚、箪笥、広蓋(ひろぶた)、挟箱(はさみばこ)、懸硯(かけすずり)、帳箱(ちょうばこ)、笈(おい)
[小泉和子]
暖房具
火桶(ひおけ)、火櫃(ひびつ)、炭桶(すみおけ)、炭櫃(すびつ)、火鉢(ひばち)、炬達(こたつ)、行火(あんか)、湯湯婆(ゆたんぽ)
[小泉和子]
厨房・供膳具
高坏(たかつき)、几(つくえ)、折敷(おしき)、衝重(ついがさね)、三方、供饗(くぎょう)、盤、盆、懸盤(かけばん)、台盤、飯台(はんだい)、茶袱台(ちゃぶだい)、膳、行器(ほかい)、中取(なかとり)、膳棚、蠅帳(はいちょう)、茶箪笥
[小泉和子]
容飾・沐浴具
鏡、鏡台、櫛笥(くしげ)、手箱、櫛台、盥(たらい)、湯槽(ゆぶね)
[小泉和子]
文房・教養具
机、文台(ぶんだい)、本箱、書棚、文匣(ぶんこう)、文箱(ふばこ)、硯箱(すずりばこ)、見台(けんだい)
[小泉和子]
雑
衣桁(いこう)、梯子(はしご)、脚踏(きゃたつ)など。
[小泉和子]
和家具の特質
和家具が欧米や中国などの家具と異なる最大の特色は、和家具の場合、起居様式における床座(ゆかざ)に大きく規定されていることである。床座とは、椅子や寝台を使って生活する椅子座に対し、直接床の上を生活面とすることである。このため当然、椅子や寝台などの脚物(あしもの)家具が発達していないし、また戸棚や箪笥などにも脚付きや台付きが少ない。座る生活は椅子座と違って室内を歩き回ったりしないため視線が正面に固定されるから、いきおい箪笥などでも側面や背面のデザインには注意が向けられないため、意匠的には正面性が強く、平面的になる。この点、欧米や中国などのものは、どこから見ても見られるようにデザインされていて非常に立体的である。
次に和家具の造形上の特色としては、直線的であること、非相称性(アシンメトリー)を好むこと、装飾が単純であることなどがあげられる。直線性については、直接には建築自体が直線的デザインであるため、中に置かれる家具もこれにあわせることになる結果だが、戸棚などでも西洋のようにカーブした曲面をもつものや円形のものなどはなく、すべて四角である。このためデザインとしては単調でしかも硬くなりがちである。そこでこれを救うのが非相称性であって、アシンメトリーにすることにより硬さがとれ一種の諧謔(かいぎゃく)味とか自由な感じが出る。違い棚などは代表的なものである。装飾が単純であるというのは、欧米などでは彫刻をつけたり、木材と金属と陶器などを組み合わせたりして複雑な効果を出すものが多いのに対し、日本ではそういうことは少ないということで、日本の場合装飾はもっぱら表面の仕上げによっている。これには加飾、木目、白木の方法がある。加飾は漆を塗ったり蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)を施したりする漆工によるものであり、木目はケヤキやクワなどの木目の美しい木の味を生かすものであり、白木はヒノキやスギ、キリなどの白い木肌を賞美するものであるが、このうちとくに白木を家具に用いて貴ぶというのは日本の特色である。
さらにいま一つ和家具のもつ特徴として、しつらいの伝統とでもいうものがある。しつらいとは、平安時代に完成された寝殿造における室内構成法で、建物自体には間仕切りも設備もされておらず、家具を用いてその都度目的に応じた住空間を設置する方法で、これがわが国の住宅の基本となっている。このため家具のなかでは間仕切り用の屏障具がとくに発達しており、また全体として分解・組立式家具、ユニット家具が発達している。平安時代に使われた帳台なども分解・組立式家具であり、また卓子なども並べれば広く使えるように規格寸法のユニットになっている。近世の重ね箪笥などもユニット家具といえる。また、しつらいの伝統のため家具の建築(ビルトイン)化指向が強いことも特徴で、襖(ふすま)、障子、畳、違い棚、書院、押入れなどはいずれも、もとは家具であったものが建物の中に組み込まれてしまったものである。この傾向は現在でも続いていて、戸棚や箪笥、下駄(げた)箱なども建築化されていくものが多い。
[小泉和子]
『小泉和子著『ブックオブブックス日本の美術60 和家具』(1977・小学館)』▽『小泉和子著『日本史小百科17 家具』(1980・近藤出版社)』