日本大百科全書(ニッポニカ) 「哀れなハインリヒ」の意味・わかりやすい解説
哀れなハインリヒ
あわれなはいんりひ
Der arme Heinrich
ドイツ中世の詩人ハルトマン・フォン・アウエの叙事詩。1195年ごろの作。名望を一身に集める騎士ハインリヒは突然、病に襲われる。病を癒(いや)す手だては無垢(むく)の乙女の生き血を得ることだけと聞き、失意の底に沈む彼に、荘園(しょうえん)管理人の娘が、わが身を犠牲にしようと申し出る。いったんはこれを受諾した騎士も、裸身で手術台に縛られた乙女の姿を見て翻然(ほんぜん)と悟り、彼女の犠牲を激しく拒む。神はこの心をよしとし給い、騎士の病は癒(い)え、彼は栄光を取り戻す。騎士と乙女は結ばれ、幸せな生涯を送る。小品ながらこれは、『旧約聖書』の「ヨブ記」を思わせる試練の物語と血の犠牲の説話を融合させた、緊迫感にあふれる佳品である。
[中島悠爾]
『相良守峯訳『哀れなハインリヒ』(『ハルトマン作品集』1982・郁文堂)』