脊椎動物において,頭部の前方へ突出し,表面が固い角質の鞘(さや)に覆われた上下のあごのこと。すべての鳥類,若干の爬虫類,およびごく一部の原始哺乳類がこれをもっている。鳥類の上くちばしの骨格は各1対の前顎(ぜんがく)骨・上顎骨・鼻骨から成る。これらに囲まれて1対の外鼻孔があり,口腔に通ずる内鼻孔は口蓋(こうがい)の中央に裂け目として開く。インコ類やカラス類などでは鼻骨と前頭骨の間に独特のちょうつがい関節がある。口を開くとき下くちばしを下げると同時に,これに連結した後方の方形骨が動き,それに連なった側方の頰骨(きようこつ)が前方へ押され,さらにこれに押されて上くちばしがちょうつがい関節を中心にして上転する。機械的に動くこのようなしくみを一般にキネシスkinesisといい,このために口を大きくあけることができる。
下くちばしの中央には舌がある。あご関節は,祖先にあたる爬虫類と同じく上の方形骨と下くちばしの関節骨の間にある。これらの骨格の外表面(後端の一部を除く)を覆う厚い角質は表皮の変形したもので,骨の表面に固く結合している。鳥のくちばしは鋭敏な触覚をもっていて,人の手のように多様な作業を器用にこなすことができる。
鳥の顎骨の構成は爬虫類のそれと基本的に同様だが,歯は完全に失っている。そのため食物に対して切断やそしゃくは行わず,つつくこと,ついばむこと,かみつくこと,くわえること,引っ張ること,吸うことなどに使われる。くちばしの外形は種子食,果実食,肉食,魚食,昆虫食,花蜜食などの食性に適応して,いくつかの型に分化している。晩成性の鳥の雛はくちばしの口角部に黄色い縁をもっているが,これは独立して採食しはじめるころに消失する。親鳥のくちばしの色や模様が雛の開口のリリーサーになり,また開いたときのくちばしの形や内面の色などが親鳥の給餌行動のリリーサーになっている場合が多い。
爬虫類では,スッポンやオサガメなど体表に角質をもたない種を除くカメ類がくちばしを備えている。カメの顎骨は鳥のように細長く突出せず,キネシスをもつものでもないが,歯をまったく備えず,代りに縁のとがった1枚の角質に覆われている点で鳥と共通している。その働きは,鋭い角質の縁で食物にかみつき,かみ切ることにあるから,歯の代りをはたしていることになる。
化石爬虫類では,中生代の大型植食性恐竜の1グループだった角竜類がオウムのくちばしに似た鋭い顎骨を備えていた。これらはおそらく角質に覆われ植物質をかみ切るのに使われたとみられるが,カメと異なってこのくちばしの後の上下の顎骨には植物食に適した多数の歯が並んでいた。植食性恐竜のもう一つのグループ,鳥脚類にはカモのくちばしに似た扁平な顎骨をもつものがあり,この顎骨を俗にくちばしと呼んでいる。また中生代の飛行性爬虫類だった翼竜類のプテラノドンは鳥と同様の歯のない巨大なくちばしをもっていた。さらに,爬虫類が哺乳類へ進化する中間段階にあった二畳紀の高等爬虫類ディキノドン類には,カメと酷似した上下のくちばしをもつものがあった。
哺乳類では,卵生の単孔類カモノハシがその名の示すようにカモによく似たくちばしをもつが,これは角質ではなく柔らかい皮膚に覆われている。しかし幼期には卵殻をかみ破る歯(卵歯)があるし,下顎の骨は歯骨だけで哺乳類の特色を示している。またある種のイルカのもつ前方へ突出した上下顎のことを俗にくちばしということもある。
なお,軟体動物イカ類の口のそしゃく器官であるいわゆるカラストンビのことを俗にクチバシと呼ぶこともあるが,たまたま機能と外形だけが似た一種の相似器官である。
執筆者:田隅 本生
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… 日本やイギリスの場合,議院内閣制の下で議会多数党と行政部とが密着しているが,アメリカの場合には三権分立制の下で,議会と行政部とはかなり明確に分離しており,行政部の構成員は議員とはなれない。実質的には政府側が法案を準備することが多いにせよ,いっさいの法案billは議員立法の形をとっており,成立した法律actもタフト=ハートリー法のごとく法案提出議員の名をもって呼ばれることが多い。それだけに議員の権限は広く,法案の実質審議を行う常任委員会,ことにその委員長の権限は強い。…
…
【無脊椎動物のあご】
無脊椎動物のあごは,一般に表皮から分泌されたクチクラ質が硬化して形成されたものである。頭足類には口腔内にくちばし状の顎歯(がくし)(俗にいうからすとんび)があり,背腹方向にかみ合わされる。輪虫類には咽頭内面に左右1対の歯列状のあごがある。…
…骨盤は大きく後肢が発達し遊泳に適していた。体長はくちばしの先から尾端まで180cmの大型の鳥。また同じくカンザス州の白亜紀後期層から産出したイクチオルニスは20cm大で,現生の鳥類にほぼ等しい飛翔力があり,かなり自由に空を飛び回ることができたと考えられている。…
※「嘴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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