改訂新版 世界大百科事典 「キツツキ」の意味・わかりやすい解説
キツツキ (啄木鳥)
woodpecker
キツツキ目キツツキ科Picidaeの鳥の総称。この科の鳥はおもに樹幹で生活するのに適応し,まっすぐで先のとがったがんじょうなくちばしと羽軸のかたい尾羽をもち,脚は短いが強力で,つめが鋭い。全長8~35cmのものが多いが,全長60cm近い大型の種もいる。羽色は,黒色,白色,赤色,緑色,黄色,褐色などのうち,2~3色の組合せをもつ種が多く,雌雄は主として頭部の色が異なる。
大部分の種は森林に単独かつがいですみ,樹幹の根もと近くに垂直に止まり,上へまっすぐか,らせんを描いて登りながら採食し,上まで登ると飛び立って別の木の幹に移動する。樹幹に垂直に止まって採食する場合は,羽軸のかたい尾羽で体を支え,さらに短い脚で体を幹近くに引き寄せ,前2本,後2本の対趾足(たいしそく)のうち,前2本のあしゆびの鋭いつめを樹皮にひっかけ,後向きの外側の1本を真横に向けて,体が左右にぶれるのを防ぐ。この姿勢で樹皮や枯れた幹に鋭いくちばしで穴を開け,先端に逆向きのとげがついた細くて長い舌を穴の中に入れ,舌の先端に甲虫類の幼虫をひっかけ,引き出して食べる。このほかに,樹皮の間に潜む昆虫やクモ,地上のアリも食べ,秋から冬にかけては多くの漿果(しようか)や堅果を食べる。大部分の種は渡りをしない。飛ぶときには翼を数回はばたいてから再びたたむので,波形を描いて飛ぶ。繁殖期には,雄が中空の枯れた幹や枝をくちばしですばやく連続的にたたき,タラララ……とかコロロロ……と聞える大きな音を出す。巣穴は雌雄が生木や枯木の幹にくちばしで掘り,穴の底を広げて産室をつくり,底にじかに1腹2~8個の白い卵を産む。雌雄交代で抱卵し,小型種では11~14日,大型種では17~18日で雛がかえる。雛は2~3週間で巣立つが,大型種では5週間もかかる。
マダガスカル,ニューギニア,オーストラリアおよび太平洋の島々を除く全世界に約210種が分布し,アリスイ類2種,コビトキツツキ類約30種と典型的なキツツキ類約180種に分けられる。アリスイ類はアフリカ,ヨーロッパ,アジアに分布し,地上でアリ類を食べる。コビトキツツキ類は全長10cm内外の小型種で,大部分が南アメリカに分布し,おもにやぶの中で昆虫類をとる。典型的なキツツキ類は,アフリカ,ヨーロッパ,アジア,アメリカ大陸に広く分布する。日本には,アリスイ,クマゲラ,ヤマゲラ,アオゲラ,オオアカゲラ,アカゲラ,コアカゲラ,コゲラ,ミユビゲラ,ノグチゲラの10種が留鳥,または漂鳥として生息している。
執筆者:齋藤 隆史
神話,伝承
キツツキはラテン語でピクスといい,ローマ神話によればサトゥルヌスの子ピクスPicusが魔女キルケの愛を拒んだためにこの鳥に変身させられたと伝えられる。またオウィディウスによれば,ロムルスとレムスがオオカミの乳で育ったおり,キツツキにも食物の供給を受けたといわれる。軍神マルスの聖鳥,予言の鳥とみなされることもあった。ギリシアではオークの木(母神の象徴)をくちばしでたたくことから,性的欲望の象徴とされた。
和名は〈木つつき〉の意味とされるが,一説にはテラツツキ(取ってつつくの意)が古名であり,これがケラツツキに変じて江戸期以降はキツツキとなったともいう。したがって,アカゲラやクマゲラなどの名はケラツツキの短縮形と考えられる。伝承としては,仏法に背いた物部守屋がキツツキと化し,鷹に変身した聖徳太子と争って死んだとする説話がある。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報