改訂新版 世界大百科事典 「国債管理政策」の意味・わかりやすい解説
国債管理政策 (こくさいかんりせいさく)
〈国債管理(公債管理)〉は財政および金融の二つの側面からみる必要がある。政府は財政需要を満たすために国債を低利でかつ大量に発行したいという強い要求をもっている。一方,金融市場においては利用可能な資金量には一定の限界があり,この限度を超えて国債発行が継続すると財政インフレーションを招くことになる。国債管理とは,財政インフレを回避しつつ政府資金をいかに安定的に調達するか,財政の要求と金融市場の制約をどのように調和的に解決するのか,という問題である。
国債管理政策には二つの類型がみられる。一つは,国債市場を金融市場から隔離する政策である。国債を金融市場の制約から隔離すれば,政府は低利かつ大量の国債発行が可能になる。だがこの場合,国債発行額が利用可能な資金量を超えて膨張する危険がある。そして,過剰発行に伴うインフレ抑制の攻撃目標は,民間資金需要の抑制に向けられる。日本では満州事変が勃発した1932年以降この政策が採られたが,その帰結は日銀信用の膨張とインフレの激化であった。国債市場隔離政策は,財政の側からすればそれがいかに有用であっても,インフレ回避はさらに重要な要求であり,したがってこの政策は採用されるべきではない,と一般に理解されている。もう一つの政策は,政府といえども金融市場の制約に従わねばならない,とする市場原理尊重型の政策である。アメリカでは,アコード(財務省と連邦準備制度との間の了解)の成立(1951)によって国債価格維持政策が放棄され,従来の国債市場隔離政策から市場原理尊重型へ政策転換が行われた。国債市場隔離政策は財政政策と低金利政策とが一体となっているが,この政策を放棄したアメリカでは,国債管理政策と財政政策,金融政策は明確に区分されており,国債管理政策とは民間部門に保有されている国債残高構成の操作と定義されている。民間部門で保有されている国債の種類・条件などを政策的に操作することによって,つまり金融効果を媒介として,国債管理の目標を追求しているのである。日本においても,75年以降の大量国債発行によって国債市場隔離政策を維持することが困難となってきており,国債価格維持政策が放棄され,発行条件の弾力化が進展しつつある。すなわち,財政インフレの回避という観点から隔離政策の修正が行われ,80年ころから金融市場の自由化が進んでいる。
→国債
執筆者:中島 将隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報