国債管理(読み)こくさいかんり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「国債管理」の意味・わかりやすい解説

国債管理
こくさいかんり

民間の保有する国債残高の構成を操作することによって、経済の安定、財政負担の軽減などを意図するものであり、具体的な内容としては、(1)新規に資金を借り入れるために発行する国債の種類、発行方式と発行条件に関する財政当局の決定、(2)満期債の借換えのために発行する国債の種類、発行方式と発行条件に関する財政当局の決定、(3)公開市場操作に関して売買する国債の種類に関する中央銀行の決定、などがあげられる。この場合、公開市場操作で売買する額の決定は金融政策の問題であり、財政赤字もしくは黒字から生じる国債の発行額や償還額の決定は財政政策の問題であるとされている。したがって、国債管理(政策)は財政政策と金融政策の接点をなし、国債の発行および累積残高が増大している現在の日本では、重要な政策の一つとなっている。

 国債管理政策の第一の目的は、経済安定政策(景気調節および国際収支均衡)である。国債発行額全体のなかで長期債比重を小さくすると、長期債の価格は上昇し短期債の価格は下落する。その結果、短期利子率を上昇させて国際収支の赤字を防ぐ一方、長期利子率を低下させて設備投資を刺激し有効需要を拡大させる効果をもつ(オペレーション・ツイスト)。さらに、短期債は長期債に比して流動性が高いため経済全体の流動性を高め、消費や投資を刺激し、有効需要を拡大させる効果がある。

 第二の目的は、財政利子負担の最小化である。短期利子率が長期利子率に比して相対的に低いときは短期債を発行し、長期利子率が低いときに長期債を発行すれば、財政利子負担を軽減することができる。たとえば、金利の高い好況期には短期債を、金利の低い不況期には長期債を発行すればよい。

 第三の目的は、国債の円滑消化と国債市場の安定化である。国債の需要者が特定の満期に選好をもっている場合、その選好に応じた種類の国債を政府が発行すれば、需要者にとってその満期の国債が他の満期をもつ国債に比べてもっとも流動性が高く、キャピタル・ロスを被る危険性が少ない。もし政府が特定の満期をもつ国債に偏って発行すると、それ以外に満期をもつ国債に選好のある需要者にとって、リスク負担が大きくなる。このような状況下では国債の円滑な消化は進まず、消化を順調に行うには、国債を多様化するか、より高いプレミアムを付す必要がある。より高いプレミアムを付さずに強制的に保有させると、市場の安定性を損なう。

 国債の多様化に関するこれら三つの目的は、いわゆる国債管理政策の目標としてあげられるものであるが、これら三つの目的を同時に達成することもできれば、そうできない場合もある。たとえば景気停滞期には、安定政策の観点からは短期債、財政負担の観点からは長期債の発行が望ましいことになり、目標相互間に矛盾を生じる。ところで、国債管理政策が成功するか否かは、利子率の期間構造がどのような要因によって決定されるかに依存している。国債需要者が将来利子率に関して危険回避的であり、特定の満期に選好をもっているならば、国債利子率は各満期ごとの市場で決まることになり、国債管理政策は有効となる。

[藤野次雄]

『館龍一郎・浜田宏一著『金融』(1972・岩波書店)』『中島将隆著『日本の国債管理政策』(1977・東洋経済新報社)』『貝塚啓明他編『金融・証券講座Ⅲ』(1982・東洋経済新報社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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