国富論(読み)こくふろん(英語表記)An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations

  • 国富論 An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

原題を直訳すると『諸国民の富性質と原因に関する研究』。イギリス古典経済学の A.スミスが 1776年に公刊した。全5編。 10年の歳月を投入して完成されたこの大著によって,社会のの生産と分配という今日的意味での経済学上の課題が初めて理論的,体系的に分析された。資本主義的生産が支配的になりつつあった 18世紀のイギリス社会を念頭おき自由主義経済政策の意義を客観的に裏づけようとしたものであったが,社会の内面的機構を理論的かつ全面的に分析した点で,それ以前の単なる断片的な政策主張の経済論 (重商主義的諸パンフレット) とは本質的に異なり,経済学史上画期的著作となった。本格的な経済学はこれによって初めて樹立され,経済学史上最大の古典と評価される。

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百科事典マイペディアの解説

英国の経済学者A.スミス主著。原題は《An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations》,《諸国民の富》とも訳。1776年刊。近代のすべての経済学派の出発点となった古典。国民の年々の労働が富の源であると説き,分業による交換の発生から交換価値の尺度を労働に求め,文明社会では価値は労働に利潤と地代が加わったものであるとし,さらに労働が依存する資本を分析する。利己心の発動が交換と資本の調和ある発展をもたらすとする自由主義経済思想を全面的に展開,国家干渉を排する安価な政府論等の重要命題をも明らかにした。
→関連項目セー

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世界大百科事典 第2版の解説

アダム・スミスの主著で,経済学の最初の体系的著作。全2巻。1776年刊。日本では,1882年に石川暎作による翻訳刊行がはじまってから,全訳だけでも8種類あり,題名も《富国論》《国富論》《諸国民の富》と多様である。これは必ずしも日本独特のことではなく,ドイツ,フランス,ロシア(ソ連),イタリア,中国などで,それぞれ数種類の翻訳がでている。このような人気は,本書が経済的自由主義の古典であるだけでなく,ホッブズ,ロックのあとをついだ近代自由主義思想の古典であることによる。

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大辞林 第三版の解説

経済学書。アダム=スミス著。1776年刊。資本主義社会の構造を、分業と労働価値説とに基づいて分析した古典学派の代表作。諸国民の富。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

イギリスの経済学者アダム・スミスの主著。1776年刊。『諸国民の富』とも訳される。原書名は『An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations』(諸国民の富の性質と原因に関する研究)で、5編からなる。スミスの奥行の深い道徳哲学や自然法学のなかから生み出された書物であり、単なる経済学の古典にとどまらず、広く市民社会思想の古典としての位置を占めている。それゆえに、それは後の経済学に受け継がれただけでなく、ヘーゲルやマルクスによって一つの市民社会体系として受け止められた。日本近代史のなかでも、それは富国策としてばかりでなく、市民社会化の指針として受け入れられてきた。

 スミスは、この書で富の源泉を探究したが、当時は、重商主義の金銀貨幣=富観と、重農学派の農業だけが富の源泉だという見方とが対立していた。スミスは、これに対して、年々の労働が富の源泉であり、したがって、一国の富は、第一に、農工商などの生産的労働における分業の細分化によって、第二に、生産的労働者を雇用する資本蓄積の度合いによって左右されるとみなした。そして、これを妨げている封建制や重商主義の停滞性・浪費性を批判した。全5編のうち1、2編は、分業、貨幣、価値、価格、分配、資本蓄積などの理論的分析を、3、4編は、封建的土地制度や重商主義の貿易・植民地政策の批判を、5編は、国家財政を主題としている。

 スミスにとって最大の問題は、根強い独占根性を有する一部の大商人・大製造業者の働きかけによって、国家の政策や立法が不当にゆがめられていることであった。そのため、植民地貿易などを通じて独占利潤が生じ、資本や労働の最適配置が妨げられ、総体としての富の増加が抑えられてしまう。また、その独占的貿易政策のため、友好国たるべきフランスと長期にわたる敵対状態に陥り、さらに、アメリカ独立戦争も起こってしまった。その経費をまかなうために赤字公債も累積しつつあった。したがって、1、2編で論証された自然的自由のあり方に即して政策や法を正すことが、3~5編を貫くスミスの課題であった。このような文脈のなかで「見えざる手」や「安価な政府」の観点が展開された。

[星野彰男]

『大河内一男監訳『国富論』全3冊(中公文庫)』『大内兵衛・松川七郎訳『諸国民の富』全5冊(岩波文庫)』『星野彰男・和田重司・山崎怜著『国富論入門』(有斐閣新書)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

(原題An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations) 経済学書。アダム=スミス著。原題は「諸国民の富の性質と原因に関する一考察」。一七七六年刊。個人の利潤追求に基づく労働が「見えざる手」に導かれて秩序を生み、国の富を増大するという理論から、重商主義を批判し、自由放任経済を唱えた。資本主義社会を最初に体系的に把握したもので、自由主義の古典とされる。「富国論」「諸国民の富」の題名でも翻訳された。

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世界大百科事典内の国富論の言及

【イギリス経験論】より

…したがって,そうした経験的世界の構造を一貫して見通そうとしてきたイギリス経験論は,実は,イギリスの近代史がたどってきた歴史的現実それ自体の理論的自覚化として,明らかに,固有の歴史性とナショナリティとをもったイギリスの〈国民哲学〉にほかならなかった。その意味において,イギリス経験論の創始者ベーコンが,イギリス哲学史上初めて母国語で《学問の進歩》を書き,また,その掉尾を飾るスミスの主著が《国富論(諸国民の富)》と題されていたのは,けっして単なる偶然ではなかったのである。【加藤 節】。…

【株式会社】より

…18世紀半ば以降は,このような法人格をもたない非公認会社の時代であった。当時の会社企業についてアダム・スミスは《国富論》(1776)で次のような見解を示している。まず第1に,他人の貨幣を管理する会社の重役は,自己の貨幣に対するほどの慎重さを欠くから,会社企業は個人企業やパートナーシップのような資本の所有と経営が結合した企業形態に比べて経営能率が低い。…

【経済学】より

…もちろん,J.ロビンソンをはじめとして批判は多いが,ロビンズの考え方は現在にいたるまで近代経済学の指導原理の一つとなっている。
【スミス《国富論》】
 経済学が今日のような形での一つの学問分野としてその存在を確立されたのはA.スミスの《国富論》に始まると一般に考えられている。《国富論》の初版は1776年に刊行されたが,書名は直訳すれば《諸国民の富の性質と原因に関する研究》であり,これは〈政治経済学political economy〉と同じ意味に用いられている(political economyの語が使われなかったのは,1767年刊のJ.スチュアートの著書にすでに使われていたからと考えられている)。…

【経済学説史】より

…しかし重農主義においては,土地だけが純生産物を生むと考えられ,前貸しとしての資本の概念は確立されていたが,恒常的所得としての利潤の概念は存在しなかった。 古典派経済学の創設者は《国富論》(1776)の著者A.スミスであり,重農主義者と同じく自然法思想により自由放任を提唱,重商主義を論難した。私利の追求は価格機構のみえざる手に導かれて公益を促進するというのである。…

【スミス】より

…イギリスの道徳哲学者,経済学者。主著《国富論》はあまりに有名。スミスという姓がイギリスではひじょうに多いので,アダム・スミスと姓・名をあわせて呼ぶのがふつうである。…

【道徳感情論】より

…このような心理過程を〈同感〉という概念で特徴づけ,それが安定的な社会集団の生成と維持にとって欠かせないものだと論じている。後に出版される有名な《国富論》とこの《道徳感情論》との間に,スミスの社会哲学上の大きな転換があったかどうかについての論争もある。《国富論》は経済社会全体の組織的・機構的解明を主題としており,倫理学的色彩の強い《道徳感情論》とはおのずと強調点が異なっているのはいうまでもない。…

【見えざる手】より

…個々人の私益追求のエネルギーが結果的に社会全体の利益増進に役立つことを示すのに,アダム・スミスは著書《国富論》第4編第2章,および《道徳感情論》第1編第4部において,〈見えざる手に導かれてled by an invisible hand〉という表現を用いた。19世紀になると〈見えざる神のみ手〉と誇張して,独占利潤を含めた無法な私益追求までも正当化しようとする傾向を生じたが,スミスの本意では,私益追求に伴う弊害が市場での主体間競争によって除去され浄化されることを大前提としているのである。…

【労働価値説】より

…しかし体系的な形では18世紀後半のA.スミスがはじめてそれを論じたといってよいだろう。スミスはその《国富論》(1776)において,労働こそが人間が自然に対して支払う〈本源的購買貨幣〉であることを明らかにするとともに,労働の量が価値の真実の標準尺度であることを指摘し,それを彼の経済学の体系の基礎に据えた。しかし,その規定が商品を生産するのに投下された労働量によるのか(投下労働価値説),それとも商品が支配することのできる労働量によるのか(支配労働価値説)を必ずしも明りょうにはしなかった。…

※「国富論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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