地方公共団体の仕事は多様であるが,その中には国および他の地方公共団体から執行を委任された事務が多数を占めている。これを一般に委任事務というが,講学上それは〈機関委任事務〉と〈団体委任事務〉に分類される。前者は地方公共団体の長その他の機関に執行が委任された事務,後者は団体に執行委任された事務と解釈されている。機関委任事務は,地方自治体の機関が国その他公共団体の機関たる資格において処理することを理由に,地方議会にはそれについての議決権が認められていない。国政事務の都道府県,市町村への委任処理は第2次大戦前からみられるが,これが重要な地方自治上の問題となったのは戦後である。直接公選による首長は市民の代表機関であり,国の地方機関ではない。そこで,国会の制定する個別法による委任が導入されたのである。とくに機関委任事務は上記の点と職務執行命令訴訟制度によって支えられてきた。
ところで,機関委任事務といってもその性格は多様である。国政選挙事務や指定統計事務のようにもっぱら国の利害にかかわるものから,国と地方相互に関係する事務までを含んでいる。さらに問題を複雑にしているのは,同一行政の執行が機関委任と団体委任の双方を含んでいることにある。たとえば,生活保護は国の責任とされながらも,保護措置は機関委任,保護施設の設置は団体委任とされる。このような法令は数多く存在しており,地方自治体の仕事を内部で分断している。経費面においても,地方財政法は地方公共団体が負担する義務を負わない経費,および国が全部ないし一部を負担する経費を列挙しているが,実際の経費交付基準は個別法令にゆだねられ地方自治体が決定に参加する余地はない。しかし問題の本質は,経費負担の改善にあるのではなく,権限と責任と経費との間になんらの整合性のないまま国の事務が地方に委任されていることにある。
1995年7月に地方分権推進法に基づき設置された地方分権推進委員会は,96年3月29日の〈中間報告〉において,機関委任事務を廃止して原則として自治事務(仮称)とするとした。ただし,現行の機関委任事務のうち国の利害に密接に関係する事務については,法令の規定に基づいて地方自治体が受託すべき法定受託事務(仮称)を例外として設けるとした。この段階で,法定受託事務として例示されたのは,国政選挙,指定統計,旅券の交付,外国人登録などであった。
また地方分権推進委員会は,第4次勧告(1997年10月3日)において,国・自治体の紛争処理機関の設置とそれへの勧告権の付与を打ち出した。自治体には,機関委任事務とは異なり,自治事務,法定受託事務ともに法令の解釈をめぐって国と対抗する道が開けたのであり,独自の法令解釈能力を向上させることが問われる。
→固有事務 →知事 →地方自治
執筆者:新藤 宗幸
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2000年(平成12)の地方分権改革以前の観念で、地方公共団体が国または他の公共団体から委任を受けて処理する事務をいう。正しくは団体委任事務といい、地方公共団体の本来の仕事である固有(公共)事務に対するものであった。
[阿部泰隆]
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