改訂新版 世界大百科事典 「行政責任」の意味・わかりやすい解説
行政責任 (ぎょうせいせきにん)
ある行政行為の結果が環境(人,物,自然等)に損害や被害を与え,それが一定の法的・社会的準則からみて許されないものと考えられる場合,その行為が問責されること。〈行政の責任領域〉とか〈行政の守備範囲〉というように行政が責任をもって取り組むべき,あるいは解決すべき課題(行政需要)の総量を表す場合もある。
行政責任が成り立つには行政担当者が,その職務上とった行為(作為)あるいはとらなかった行為(不作為)の結果として,ある事態の発生を招来させたことが確認される必要がある(〈因果責任〉)。そこでは職務上期待される因果の予見能力が前提となっている。これをめぐって主として次の2点が問題となる。一つは,行政担当者が事故や被害を防止する権限を法規上持っている場合,その権限を行使することが義務であるか,それとも裁量(いわゆる権限規定)であるかどうかである。これは権限不行使の違法性をめぐる争いである。二つは,行政担当者がある事故ないし被害の発生を予見し,注意義務を怠らなかったとしても,その防止に必要な手だてを講じうるだけの資源(予算と人員)と方策(技術や手法)が不足ないし欠如し,その結果としてある行為がとれず現に事故や被害が発生した場合,この不作為について事後的な弁明責任(無過失責任)を問えるかどうかである。これは因果責任の負担能力を高める問題である。
行政責任では,職務上具体的な行為をとった担当者が〈個人〉として問責されることはまれであり,更迭等人事考課上の内部処置はありうるが対外的には職位が問責される。損害賠償のように行政庁が責任を負うのはその代表例である。これは行政組織が階統型の権限体系をとり,内部の意思決定が組織全体の集合事象であると同時に,より上位が組織管理上の〈監督責任〉を負っていることに基づいている。問題の深刻さによっては事情の説明と引責は組織のトップにまで及びうる。
執筆者:大森 弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報