改訂新版 世界大百科事典 「公費負担医療」の意味・わかりやすい解説
公費負担医療 (こうひふたんいりょう)
公費負担医療は,保険医療とともに日本の医療保障の柱となっている。保険医療は医療保険によって行われ,個人の責任がその基礎となっている。これに対し公費負担医療は,たとえば伝染病や公害による医療は個人の責任よりも社会の責任でなされるべきである,という考え方に立って行われるものである。産業社会の進展にともなって職住の環境の激変や社会構造の変化が精神的・身体的な疾病を多発させ,それらに対する社会的責任の範囲も拡大している。社会的疾病に対する医療だけでなく,未熟児や身体障害児などの社会的弱者,生活困窮者などの経済的弱者に対する医療も,公費負担医療として行われている。公費負担医療がどのような基準によって行われるかに関して一般的原則はないが,社会的責任の重要性が発生したそのつど,立法や予算措置を講ずることによって,対象となる医療の公費負担化が行われている。公費負担医療の負担者は通常は国であり,地方自治体が独自に行う公費負担医療の場合,それを福祉医療と呼んで国の公費負担医療と区別することがある。
公費負担医療はその性格によって,経済保障医療(生活保護法による医療扶助),社会防衛医療(伝染病予防法,結核予防法,精神保健福祉法(旧精神衛生法),母体保護法(旧優生保護法)などによる医療),災害補償的医療(〈原子爆弾被害者の医療等に関する法律〉による原爆医療,戦傷病者特別援護法による戦傷病者医療,公害健康被害補償法による公害医療),社会福祉医療(母子保健法による未熟児に対する養育医療,児童福祉法による身体障害児に対する育成医療,身体障害者福祉法による更生医療,老人保健法による老人医療)などに分類される。このほか,原因が不明であったり,治療法の確立していないスモン,ベーチェット病などの特定疾患に対する難病対策医療も,公費負担医療の一つである。なお公費負担医療は,その費用の全額が公費によって負担されているとは限らない。原爆医療による医療などは全額公費負担医療であるが,大部分のものは医療保険による負担を併用する形で公費負担が行われており,精神保健福祉法による医療や老人保健法による医療などの場合には患者負担や一部負担が課せられる。
執筆者:藤井 良治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報