大学事典 「国立大学法制」の解説
国立大学法制
こくりつだいがくほうせい
the legal system on national public universities
国立大学は国が設置する大学であるが,2004年度に発足した国立大学法人制度によって,国立大学法人(日本)が設置する大学を指す概念となった。国立大学法人制度は,他の大学制度すなわち公立大学や私立大学の場合と同じく,学校教育法や大学設置基準などにより,組織編制・教員・施設・設備等,大学として必要な一般的な規制を受けるが,このほか国立大学の設置・管理・運営に係る法制(国立大学法人法ほか)によっても規定される。総じて国立大学は,戦前期の帝国大学や官立大学および官立専門学校等の時代から,欧米の先進的な学術研究成果の導入や日本の近代化に必要なエリート人材,専門人材を多数輩出してきた実績から,数の上では私立大学に遠く及ばないものの,日本の高等教育にとって非常に重要な地位を占めている。
国立大学法人制度の発足以降の国立大学はすべて国立大学法人によって設立される大学であり,個々の国立大学名称,主たる事務所(大学本部)の所在地(都道府県),理事の員数は,国立大学法人法2条による別表第1に明示されている。ただし,法人化以前の国立大学においては,教育研究に係る組織編制は国立学校設置法(日本)に基づき,同法施行令(政令)で学部レベルまで,また省令で学科および課程,講座および学科目レベルまで規定されていたことに比べると簡略化され,学則など法人が定める規則や中期目標・中期計画という現実の運用にゆだねられている。また,設置者としての国立大学法人は,学校教育法5条の規定により国立大学の管理および経費負担に責任を有しているが,経費の大半は国からの運営費交付金(日本)によって賄われている。
国立大学法人制度は,1990年代以来の国の行財政改革の結果生まれた独立行政法人に係る法制に多くを依拠するものではあるが,大学という制度がもつ「教育研究の特性に常に配慮しなければならない」とされている(国立大学法人法3条)。このことは,法人の長である学長の任命手続きや法人に与えられる中期目標の設定手続き等に反映されている。国立大学は法人格をもつ組織であり(同法6条),各国立大学法人には役員として学長および監事2人のほか,大学ごとに法定された員数以内の理事を置くこととされ(同法10条),学長は国立大学法人の申出に基づいて文部科学大臣が任命し,監事は直接に同大臣が任命,理事は学長が任命する(同法12,13条)。理事は学長を補佐して国立大学法人の業務を掌理し,また役員会を構成して学長の意思決定に参画する(同法11条)。なお,国立大学法人の役員および職員(教員を含む)は非公務員であるが,刑法その他の罰則の適用については法令により公務に従事する職員とみなされる(同法19条)。
運営面において,これまでの国立大学は,帝国大学時代の伝統や戦前の多様な高等教育機関であったことの歴史的経緯などから,いわゆる部局自治の考えが強く,部局の教授会の意向を受けたボトムアップ的な意思決定システムが主流を占めていたが,法人化後の国立大学は学長を中心とする運営体制が重視されるようになり,これを助ける審議機関として,経営協議会と教育研究評議会が置かれることになった。とくに経営協議会については委員の2分の1以上は外部の有識者でなければならず(国立大学法人法20条),社会に開かれた国立大学であることが求められている。また業務運営そのものについては,法人化以前は公私立大学と同様,学校教育法に基づく大学の目的に沿ってそれぞれの大学の判断によって行われてきたが,法人化に伴い,一般的な独立行政法人と同様,主務大臣(文部科学大臣)が定める「中期目標」に基づき,大学が作成し大臣が認可する「中期計画」に従い行われることとなっている(同法30条)。
このうち中期目標は,文部科学大臣が各国立大学法人に対し示す目標で,国立大学が6年間において達成すべき教育研究の質の向上や業務運営の改善および効率化に関する事項等が含まれる。なお大学の特性に鑑み,文部科学大臣が中期目標を定め,またはこれを変更しようとするときは,あらかじめ国立大学法人の意見を聴き,当該意見に配慮することや,文部科学省に置かれる国立大学法人評価委員会(日本)の意見を聴かなければならない(国立大学法人法30条)。また,中期計画は国立大学法人が中期目標を達成するためにとるべき措置等について定めるもので,文部科学大臣の認可を受けなければならず,また認可を受けた中期計画は遅滞なく公表しなければならない(同法31条)。
国立大学法人は,毎事業年度ごとに当該年度の業務運営に関する計画を定め,これを主務大臣に届け出るとともに公表しなければならない。また各事業年度に係る業務の実績について,国立大学法人評価委員会の評価を受ける。さらに国立大学法人は,中期目標の期間終了後に国立大学法人評価委員会の評価を受けなければならず,評価の結果,文部科学大臣が必要な措置を講ずるものとされている(国立大学法人法31条)。このようにして,国立大学法人の社会的責任(アカウンタビリティ)が担保される仕組みがとられている。
著者: 山本眞一
参考文献: 国立大学法人法制研究会編『国立大学法人法コンメンタール』ジアース教育新社,2000年~
参考文献: 大﨑仁『国立大学法人の形成』東信堂,2011.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報