改訂新版 世界大百科事典 「地方議員」の意味・わかりやすい解説
地方議員 (ちほうぎいん)
地方公共団体の議会の議員。普通地方公共団体議会の議員(都道府県会議員,市町村会議員)と特別区議会の議員はすべて直接公選であり,任期は4年である。議員定数は人口段階別に地方自治法に定限が定められ,その範囲内において条例で定められている。地方議員選挙には公職選挙法に基づき立候補資格,選挙資金,選挙活動などについて厳しい規制が加えられる。首長立候補者は被選挙権をもてばよいが,地方議員は当該自治体に居住する者でなくてはならない。選挙区は都道府県にあっては市と郡,政令指定都市は行政区,市町村はとくに必要のあるときに条例で設けることができる。地方議員の資格,行動,権限は議会の内外にわたって保障されると同時に制約が課されている。地方議員は国会議員,他の普通地方公共団体の議員および常勤の職員との兼職を禁じられている。また,地方議員は当該地方自治体から事業請負はできないし,当該地方自治体が経費を負担する事業を請け負う法人の役員となることはできない。議会内において議員は正副議長に選任された者を除いて,必ず一つの常任委員会委員に就任しなければならない。議員は地方議会の議決するべき事項のうち予算を除く事件について定員の8分の1以上の賛成があれば議案を提出できる。また,議決機関の一員として議会に付与されている調査権,検閲権,首長の不信任,特別職公務員の選任の同意などの権限を行使できるが,自己もしくは配偶者,父母,祖父母,子,孫,兄弟姉妹の一身上に関する事件,およびこれらの者が従事する業務に関係する事件の審議には参加できない。議員の失職は,公職選挙法の規定により被選挙権を失ったとき,事業請負禁止規定に該当すると議会が認定したとき,除名の懲罰を受けたとき,長により議会が解散されたとき,住民による議会の解散ないし議員解職請求の成立したときである。
ところで,このような地位と権限は,二元的代表機関の一方の一員として当該地方自治体の意思決定に参画することを保障するためのものである。だが,厳しい制限選挙の下におかれた第2次大戦前からの沿革的理由に左右され,戦後も地方議員には名誉職的観念が強かった。地方議員は町内会,部落会,職能団体などの地縁的組織を背景とした地域有力者によって占められ,首長の予算権,人事権などに選出地域の利害代表として介入するとともに,保守系上級議員の集票組織の有力な一員として行動してきた。だが,高度経済成長による価値の多元化は,地方議会に多大な影響を及ぼした。ほぼ1960年代後半から地方議会にも多党化現象がみられ,議員の出身階層,学歴,支持基盤はしだいに多様となっている。議員の中にはそれを職業とする者も増えており,地方議会はかつてのような名望家支配の状況にはない。地方議員は政党系列の末端で集票機能を担うが,国会は官僚や巨大利益集団出身者によって占められており,地方議員は必ずしも国会への登竜門とはなっていない。
→地方議会
執筆者:新藤 宗幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報