乾燥・半乾燥・乾燥亜湿潤地域における、気候変動と人間活動を含む多様な要因による土地の劣化のことをいう。その結果、土地の生産力は低下し、住民は最後には生活基盤を失うことになる。
砂漠化には直接的な原因(誘因)と、誘因に圧力を加える間接的な原因(素因)があり、誘因としては次の四つがある。
(1)過伐採 半乾燥地域から乾燥亜湿潤地域にかけては疎林が分布しているが、疎林の生長は非常に遅い。そのため、アフリカと南アジアの住民は枯れ木や枝を燃料としてきた。しかし人口の急増、とくに都市の拡大により薪炭が商品となったため、生長量をはるかに超える量の樹木が伐採されて疎林が大規模に縮小している。疎林が消えると陽光が草地に直接当たり、草の量も減少する。
(2)過放牧 開発途上国での人口の急増や畜産物の値上りなどで家畜が増加すると、遊牧地域やアメリカ大陸、オーストラリア大陸などの企業牧場の牧草量の再生産が困難になる。その結果牧草が減少したり、家畜の飼料とならない乾性植物が侵入してきて、最終的には放牧が不可能になる。
(3)過耕作 アフリカやアジアの乾燥地帯では不安定な土壌を保護するため、2~3年に1作の休閑農法が行われている。人口の増加などにより食料が不足するところでは、休閑期間の短縮や連作が行われたり、より乾燥した放牧地の耕地化が進められた。連作が続くと土地がやせるし、干魃(かんばつ)が発生すると、より乾燥したところの耕地は放棄される。その結果肥沃(ひよく)な表層土が侵食され、土地の劣化が進む。
(4)過灌漑(かんがい) 乾燥地帯の土壌には微量ながら塩類が含まれており、地下水、とくに被圧地下水にも含まれている。そのため、排水設備が整備されていない耕地に灌漑が続くと、塩類を含んだ地下水位が上昇する。地下水位が1メートル前後まで上昇すると、毛細管現象により地下水は地表から蒸発し塩類は地表に残る。土壌に含まれる塩類が増加すると、農作物は生育不良となり、最後には耕地は放棄される。
素因としては次の三つがある。
(1)干魃 乾燥地帯は降水量の変化が大きいところである。降水量が多い期間に増加した家畜や拡大した耕地は干魃が発生するとダメージを受け、過放牧・過耕作を加速化させる。
(2)人口過剰 砂漠化が著しい開発途上国は第二次世界大戦ごろまで、「多産・多死」の地域で人口増加率は1%程度であった。その後、健康管理が配慮されるようになるとともに、人口が急速に増加した。しかし、この増加した人口を支える産業があまり発達せず、土地の過剰耕作が進んだ。
(3)政治・経済政策の失敗 この素因は多様であるが一例をあげると、中央政府の指導者の判断が現場の自然環境に詳しいテクノクラートの判断より優先され、このことが砂漠化をもたらすことがある。旧ソ連時代の中央アジア・中国が社会主義国になった後の内モンゴルでの、遊牧地の耕地化と砂漠化がその例である。
[赤木祥彦]
こうした現象が地球規模の環境問題として知られるようになったのは、1968年から1973年にかけてアフリカのサハラ砂漠の南側にあるサヘル地域を襲った大干魃が引き金であった。この干魃による被害は多数の人が餓死するほど大きかったため、国連もこれをきっかけに動きだし、1977年、ケニアのナイロビで国連砂漠化防止会議United Nations Conference on Desertification(UNCOD)が開かれ、多国間の国際協力が始まった。しかし現実には砂漠化の進行は食い止められてはいない。
[横田弘幸]
国連環境計画(UNEP(ユネップ))が1991年に発表したデータによると、地球上の全陸地約149億ヘクタールのうち、乾燥地帯は約61億ヘクタールにのぼる。このうち、完全な砂漠が約9億ヘクタール、残る約52億ヘクタールはまだ耕作可能な乾燥地とされる。だが実際には、アジア、アフリカを中心に、その70%にあたる約36億ヘクタールが砂漠化の影響を受けているという。そこには約9億人が暮らしているが、砂漠化が進むとともに土地を捨て、都市部へと移り住む「環境難民」が生まれた。その結果、都市部では急激な人口増によるスラム化が進むなど、砂漠化が開発途上国での都市問題に拍車をかける結果となっている。
1992年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロでの環境と開発に関する国連会議United Nations Conference on Environment and Development(UNCED、地球サミット)で採択された行動計画「アジェンダ21」の要請を受け、1994年6月、「深刻な干ばつ又は砂漠化に直面する国(特にアフリカの国)において砂漠化に対処するための国際連合条約United Nations Convention to Combat Desertification(砂漠化対処条約、UNCCD)」が採択された。この条約では、砂漠化が進行している国に砂漠化防止行動計画の作成を義務づけたほか、先進国の資金援助、技術移転の支援などが定められている。1996年12月に発効し、日本も1998年(平成10)9月に締約国となった。2011年10月時点の締約国数は193か国とECである。
[横田弘幸]
『赤木祥彦著『沙漠の自然と生活』(1990・地人書房)』▽『門村浩・武内和彦・大森博雄・田村俊和著『環境変動と地球砂漠化』(1991・朝倉書店)』▽『赤木祥彦著『沙漠ガイドブック』(1994・丸善)』▽『赤木祥彦著『図説 沙漠への招待』(1998・河出書房新社)』▽『赤木祥彦著『沙漠化とその対策――乾燥地帯の環境問題』(2005・東京大学出版会)』▽『恒川篤史他編『乾燥地科学シリーズ』全5巻(2007~2010・古今書院)』▽『吉川賢著『砂漠化防止への挑戦――緑の再生にかける夢』(中公新書)』
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(杉本裕明 朝日新聞記者 / 2007年)
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…本部はケニアの首都ナイロビに置かれている。発足以来,地球環境モニタリング・システム(GEMS)をはじめとする地球の汚染状況の的確な把握や,国際条約・協定の締結,環境保全に関する各種国際会議の開催・支援の活動を続けており,オゾン層保護条約の条約案の作成やウィーンにおける会議の開催やモントリオール議定書策定のための作業部会の設置(〈オゾン層〉の項を参照),地球温暖化防止条約づくりのための交渉(〈国連環境開発会議〉の項の[地球温暖化防止条約]を参照),砂漠化防止対策など多くの重要施策を手がけてきている。 砂漠化防止対策については,1968‐73年のアフリカ・サヘル地域の干ばつを背景として,UNEPは1977年に〈国連砂漠化防止会議〉を主催,この会議をうけてUNEP内部に〈砂漠化防止計画活動センター〉を設立,活動を続けてきた。…
※「砂漠化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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