改訂新版 世界大百科事典 「埋積谷」の意味・わかりやすい解説
埋積谷 (まいせきこく)
waste-filled valley
谷底が厚い堆積物によって埋め立てられている谷を指す。谷底の地表面は幅広く平坦で,谷底と谷壁の境界が明瞭である。また谷の長さに比べて谷底の幅が広い支谷が樹枝状に延びる。一般に氷河堆積物,融氷河流堆積物,河成・海成の沖積層などの厚い堆積物で埋め立てられていることが多いが,ときには火山活動による溶岩や火砕流または急激な土壌浸食によって生じた岩屑などで充てんされている。堆積層に覆われて地下に埋没しているかつての谷地形は埋没谷buried valleyあるいは化石谷と呼んでいるので区別する必要がある。かつて地表であった谷底や谷壁を,堆積物によって覆い隠し,その上に広い堆積面をつくる作用を埋積作用と呼ぶ。埋積作用は,地盤の沈降あるいは海水準の上昇,河床勾配を減少させるような傾動,さらに気候変化や河川争奪による河川流量の減少や,岩屑・荷重の増加,火山活動による火山噴出物の供給,人為的な作用(例えば乱伐や開墾・開発による山地・丘陵の荒廃)による岩屑の流出などによって起こる。臨海地域では後氷期の海面上昇によって生じた溺れ谷が海成・河成の沖積層を堆積して,最終氷期における河床や段丘面などを埋積して,河川下流部に広い沖積低地を発達させ,その上流の台地を刻む谷は埋積谷となって谷底平野をなす。
執筆者:米倉 伸之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報