日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩素燐灰石」の意味・わかりやすい解説
塩素燐灰石
えんそりんかいせき
chlorapatite
燐灰石総群(燐灰石スーパーグループapatite supergroup)の一つ。もっとも普通に産するフッ素燐灰石の塩素置換体に相当するが、端成分に近いものは擬六方の対称をもつ単斜晶系に属するため、これを考慮する場合は、単斜型塩素燐灰石monoclinic chlorapatiteとして区別される。このことは合成物についても確かめられている。なお、燐灰石総群はこのような細分も考慮すると、全体で30種を超える。酸素原子を除いて考えると、2008年に記載された新鉱物マフリアノフ石mavlyanovite(化学式Mn5Si3)も基本的には同構造である。また同構造の鉱物はケイ酸塩(たとえばイットリウムブリト石britholite-(Y)、化学式Ca2Y3[(OH)|(SiO4)3])や硫酸塩(たとえばチェザーノ石cesanite、化学式Na3Ca2[(OH)|(SO4)3])にもみられる。自形はフッ素燐灰石と同様、六角柱状、あるいは板状をなし、また微細粒からなる塊状集合を形成する。
スカルン鉱物生成後の脈として産し、また塩基性火成岩の層状貫入岩体の少量成分をなす。花崗岩(かこうがん)中のいわゆるリン酸塩ペグマタイトで晩期の生成物として既存のリン酸塩と置き換わることもある。その他超塩基性岩中、あるいは滑石片岩の少量成分をなす。隕石(いんせき)中からも報告がある。日本では神奈川県足柄上(あしがらかみ)郡山北(やまきた)町玄倉(くろくら)から石英閃緑(せんりょく)岩中に脈をなす燐灰石の一部がこれに相当する。スカルンの場合、共存鉱物は透輝石、緑閃石、滑石、チタン石、ダトー石、石英、方解石などで、塩基性岩では苦土橄欖(くどかんらん)石、頑火輝(がんかき)石、金雲母(きんうんも)、蛇紋(じゃもん)石、磁鉄鉱などである。もちろん累帯構造をなす場合は他の燐灰石と共存する。この場合フッ素燐灰石が知られている。同定は外形やほとんど発達しない劈開(へきかい)、硬度、比重などによるが、他の燐灰石族とは区別できない。命名は化学組成と燐灰石apatiteの合成による。
[加藤 昭 2016年1月19日]
塩素燐灰石(データノート)
えんそりんかいせきでーたのーと
塩素燐灰石
英名 chlorapatite
化学式 Ca5[Cl|(PO4)3]
少量成分 F,OH
結晶系 六方または単斜(擬六方)
硬度 ~5
比重 3.17
色 白,帯黄~帯緑白,帯紅白,灰緑白
光沢 ガラス
条痕 白
劈開 無
(「劈開」の項目を参照)