壺装束(読み)ツボソウゾク

デジタル大辞泉 「壺装束」の意味・読み・例文・類語

つぼ‐そうぞく〔‐サウゾク〕【×壺装束】

平安時代から鎌倉時代にかけて、上・中流女子徒歩外出または旅行する際の服装小袖ひとえうちきなどを着重ね、歩行しやすいようにすそを引き上げて身丈みたけに合わせ、ふところを腰帯で結んで、余りを腰に折り下げたもの。市女笠いちめがさをかぶることもある。腰の部分が広く、裾がつぼんでいる形からいう。つぼしょうぞく。

つぼ‐しょうぞく〔‐シヤウゾク〕【×壺装束】

つぼそうぞく

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精選版 日本国語大辞典 「壺装束」の意味・読み・例文・類語

つぼ‐そうぞく‥サウゾク【壺装束】

  1. 〘 名詞 〙 平安時代から鎌倉時代頃にかけて中流以上の女性が徒歩(かち)で旅行または外出するときの服装。小袖の上に、小袿(こうちき)、または袿を頭からかぶって着(「かずき」という)、紐で腰を結び、衣の裾を歩きやすいように折りつぼめて手に持つか、または手でからげて持ち歩き、垂髪を衣の中に入れ、市女笠(いちめがさ)を目深くかぶるもの。つぼしょうぞく。
    1. 壺装束〈扇面法華経〉
      壺装束〈扇面法華経〉
    2. [初出の実例]「たまさかには、つぼさうぞくなどして、なまめき化粧じてこそはあめりしか」(出典:枕草子(10C終)三三)

つぼ‐しょうぞく‥シャウゾク【壺装束】

  1. 〘 名詞 〙つぼそうぞく(壺装束)
    1. [初出の実例]「わかき女房のつほしゃうそくしたるが」(出典:寛文版発心集(1216頃か)五)

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改訂新版 世界大百科事典 「壺装束」の意味・わかりやすい解説

壺装束 (つぼしょうぞく)

平安時代以後に行われた中流以上の女性の外出ないし旅行姿。特別な衣服形態があったわけではなく,裾の長い衣服を歩きやすくするために,腰で〈つぼ折り〉(つぼめてはしょった形)にして着用した姿をいう。元来が旅行,物詣(ものもうで),外出などの私的な軽装であるため,とくにやかましいきまりはなかった。ふだんの外出などには,たとえば小袖を着て前をつまどって帯にはさみ,長い髪は小袖の中に着込めて,草履を履き,市女笠(いちめがさ)をかぶるか,そのかわりに頭から衣をかつぎにする。旅行などの場合には,切り袴に(うちき)を腰のところで帯で締めてかい取り,沓(くつ)やわらじを履き,脚絆(きやはん)をつけ,虫の垂衣(たれぎぬ)のついた笠をかぶり,胸に守袋を下げる。また壺装束の際,赤いひもを首からかけて結び垂れていることがあるが,これは神に奉仕する意味のたすきをかけた形で,社寺へ物詣に出た姿であることを示している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「壺装束」の意味・わかりやすい解説

壺装束
つぼしょうぞく

平安時代から鎌倉時代にかけての公家(くげ)や武家女子の外出姿。広袖(ひろそで)形式で身丈が長い袿(うちき)の裾(すそ)を引き上げて着る姿が壺のような形にみえるため、このように名づけられたのであろう。この上に被衣(かづき)を着たり、市女笠(いちめがさ)をかぶることもある。市女笠の縁に葈(むし)の垂絹(たれぎぬ)といって、薄い麻布を巡らせて垂らしたものも使われた。壺装束のとき、普通、袴(はかま)は履かないが、乗馬の際は指貫(さしぬき)か狩袴(かりばかま)を履いた。履き物は緒太(おぶと)という草履(ぞうり)か、草鞋(わらじ)を履き、乗馬には深沓(ふかぐつ)の一種の半靴(ほうか)を履いた。絵巻物の『粉河寺(こかわでら)縁起』『春日権現(かすがごんげん)霊験記』などに壺装束が描かれている。

[高田倭男]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「壺装束」の意味・わかりやすい解説

壺装束
つぼしょうぞく

つぼそうぞくともいう。平安時代の女性の外出や,旅に出る場合の姿とその着装をいう。 (きぬ) や小袖を着た上から,別の衣や小袖を頭上にかぶって顔をあらわにせず,裾を引上げて腰のあたりに紐で結んだ装いである。壺は「つぼぬ」,つまりつぼめ折ってからげる意味である。市女笠 (いちめがさ) をかぶった場合には笠の周囲にカラムシ (苧麻) の衣を垂らし,これを虫の垂衣 (たれぎぬ) といった。のちにこの服装が変化して被衣 (かつぎ) 風俗となった。

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百科事典マイペディア 「壺装束」の意味・わかりやすい解説

壺装束【つぼしょうぞく】

平安時代以後の女性の外出・旅行姿。衣服を腰でつぼ折り(つぼめてはしょった形)にして歩きやすくしたもの。市女笠(いちめがさ)をかぶり,時には頭から衣をかぶって衣被(きぬかずき)(被衣(かずき))にすることもあった。社寺への物詣(ものもうで)の際には神に奉仕する意味で赤い紐(ひも)(懸帯(かけおび))を首からかけて結びたらした。

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世界大百科事典(旧版)内の壺装束の言及

【漂泊民】より

…鹿の皮衣をまとい,鹿杖(かせづえ)をつく浮浪人や芸能民,聖,蓑笠をつけ,あるいは柿色の帷を着る山伏や非人,覆面をする非人や商人,さらに縄文時代以来の衣といわれる編衣(あみぎぬ)を身につけた遊行僧の姿は,みな漂泊民の特徴的な衣装であった。また日本においては女性の商人・芸能民・旅人も多かったが,この場合も,壺装束という深い市女笠(いちめがさ)をかぶり,襷(たすき)をかけた巫女の服装に共通した姿をしたり,桂女(かつらめ)のような特有の被り物(かぶりもの)をするのがふつうであった。11世紀以後,男女を問わず,天皇家の供御人(くごにん)や大寺社の神人(じにん)・寄人(よりうど)となり,自由通行権を保証され,遍歴・交易に従事する職能民が多くなったが,この人々は神人の黄衣のような特有の服装を身につけ,また過所(かしよ),短冊,札などを所持したのである。…

※「壺装束」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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