改訂新版 世界大百科事典 「被衣」の意味・わかりやすい解説
被衣 (かずき)
〈かつぎ〉ともいい,〈かづき〉とも訓じる。女子が外出するときにベール,面紗(めんしや)などで顔を隠す習慣は,インド,イラン,トルコなどの東方諸国をはじめ,西ヨーロッパにも古くから見られるが,日本においては中世以降,衣を頭からかぶる風習が起こった。はじめは多く単(ひとえ)の衣を便宜上用いていたようであるが,近世にはいって女子の結髪が大きくなると,とくに頭にかぶるためのみの目的をもって作られた被衣があらわれた。すなわち麻や薄い絹の絽(ろ)地で襟肩が普通の着物より20cmほど前に下がってつけられており,紺地に山形のジグザグ模様などを染め,家紋をつけたものが多い。ただこれは面(おもて)をまったく隠してしまうために,刺客などに悪用されることがあるというので江戸では早くからその使用が禁止され,もっぱら京都方面で用いられた。明治以後も,地方によっては嫁入りや凶事の際に用いられることがあった。
執筆者:山辺 知行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報