木下順二(1914-2006)の戯曲。1949年1月《婦人公論》発表,同年10月ぶどうの会が岡倉士朗演出・山本安英主演によって初演し,85年4月まで1024回上演された。《佐渡島昔話集》所収の話をもとに,戦中,入営を前に初稿《鶴女房》を執筆し,それを改訂した作品。猟師の矢に傷つき苦しむ鶴を助けた無垢な百姓与ひょうのもとに美しい女つうが嫁いでくる。実は,つうは助けられた鶴なのだが,彼女の織った千羽織が高い金で売れるということがきっかけになって,2人の愛の世界はこわれてしまう。見るなと言っておいたのに織り場を見られたつうは鶴の姿に戻って夕焼けの空に去ってゆく。現実の方言をもとにした普遍的方言をせりふ表現として作り出しつつ,正統的戯曲方法によって描いた作者の代表作で,抑圧された女性や勤労者観客の支持を得,史学,民俗学,言語学などの面からも注目された。
→鶴女房
執筆者:野村 喬
団伊玖磨(1924-2001)のオペラ作品。木下順二の戯曲をほとんどそのまま台本として用い,1950年から51年にかけて作曲され,52年1月30日藤原歌劇団(ソリストは原信子,大谷冽子,木下保,柴田睦陸)によって初演され,以後スイス(1957),西ドイツ(1959),アメリカ(1960)など海外でもとりあげられた。この1幕2場からなるオペラは,日本語の特性を生かしたレチタティーボ風の歌を用い,ライトモティーフを効果的に使用し,抒情的であると同時に劇的な世界を生みだす。1985年までにすでに500回近く上演され,日本の創作オペラの代表作になっている。
執筆者:船山 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
木下順二(きのしたじゅんじ)の戯曲。一幕。1949年(昭和24)1月号の『婦人公論』に掲載、翌年弘文堂刊。ぶどうの会が49年10月に天理教講堂(奈良県)で初演、翌年1月に東京の毎日ホールで上演された。戦時下、中野好夫(よしお)の勧めで民話を題材にして書いた戯曲の一つ『鶴女房』(未発表)を戦後書き改めたもの。『佐渡島昔話集』(柳田国男(やなぎたくにお)編『全国昔話記録』所収)にあった鶴の恩返しの話に基づく。愚直な若者与ひょうは、美しい女房つうが、かつて命を救ってやった鶴とは知らない。村人にそそのかされた与ひょうは、欲に目がくらみ、つうが織ってくれた千羽鶴の織物をもっと欲しいとねだり、そのうえ、約束を破って機(はた)を織るつうの姿をのぞく。鶴は少なくなった自分の羽根を使い最後の布を織り上げ、夕焼け空に消えていく。
岡倉士朗演出、伊藤熹朔(きさく)装置、穴沢喜美男照明、團伊玖磨(だんいくま)音楽、山本安英(やすえ)主演の初演は、美しく優れた舞台を創造し、第2回毎日演劇賞を受賞(1950)した。以後、山本のつうの役のみは変わらず、1983年には1000回公演を達成した。学校、職場などでの上演も数多く、英語、中国語、ロシア語などにも翻訳され、海外でも上演された。また、1952年には團伊玖磨作曲によってオペラ化され、54年には武智鉄二(たけちてつじ)演出の能様式による上演もされ、それぞれ評判をよんだ。
[祖父江昭二]
『『夕鶴・彦一ばなし』(新潮文庫)』▽『『「夕鶴」とその世界』(『木下順二集1』所収・1988・岩波書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…狂言はこの時期に至って,他に類例のない簡潔な構成や手法,おおらかで明るい内容,狂言役者の的確で力強い演技力等が認められ,1950年代には〈狂言ブーム〉という言葉さえ生まれた。これは同時に狂言の演技様式を生かした新演劇運動をも導き,飯沢匡作の新作狂言《濯ぎ川》の上演,岩田豊雄作《東は東》,木下順二作《彦市ばなし》の狂言様式による上演,同じく木下順二作《夕鶴》の能様式による上演に狂言師が参加するなど,新作狂言・新様式狂言の制作となって現れた。その後も狂言の海外公演や外国演劇との交流もさかんになり,狂言界にも新しい気運が起こりつつある。…
…鶴女房譚は,婚姻の破局を説いて終わり,典型的な異類婚姻譚と理解することができる。なお,木下順二の《夕鶴》(1949)は,佐渡島に伝えられる話を素材にして成立した民話劇である。【粂 智子】。…
※「夕鶴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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