日本大百科全書(ニッポニカ) 「外国人参政権」の意味・わかりやすい解説
外国人参政権
がいこくじんさんせいけん
狭義には、外国籍の定住者・永住者の選挙権・被選挙権のことであるが、広義には公務員への就任、管理職への登用の問題、および自治体における直接請求権や意見提出・参加権までも含むことがある。日本国憲法上、外国人の参政権は、国政に関してはいずれも認められないというのが最高裁判所の立場であり(1993年2月26日)、学説上も支持されている。一方、地方選挙への参政権について学説は禁止・許容で分かれてきたが、最高裁は地方参政権を与えても憲法違反にはならないと判示した(1995年2月28日)。もっとも学説的には、議員と長を区別して、長が権力性ある事務の執行者であることから、長の選挙権・被選挙権を付与することに消極的である。以上のことから、日本における外国人への参政権の付与は政治的判断にかかっていることが明らかである。
これまで、民主・公明・共産の各党がそれぞれ「永住外国人に対する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権等の付与に関する法律案」(永住外国人地方選挙法)を国会に提出しているが、審議されずにきた。いずれの法律案も対象となるのは(1)出入国管理及び難民認定法の永住者資格を有する者、(2)日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理特例法に定める特別永住者である。提案されている参政権の内容は、地方公共団体の長および議会議員の選挙権・被選挙権のほか、議会解散、長および議員の解職、条例の制定改廃請求など地方自治法上の直接請求権を含むとされている。
諸外国、とりわけヨーロッパにおいては、一定期間の合法的居住を要件として、出身国にかかわらず地方参政権を認める動きがみられ、スウェーデン、オランダ、デンマーク、ノルウェー、フィンランドなど多数の国で制度化されている。これらの国々の多くは、永住資格を要件にしたり、その取得要件に近い居住期間を採用しているが、日本の場合には地方参政権が認められたとしても永住許可資格が10年の継続居住を原則としているなど、3~5年で付与している前記の国々に比してハードルは高い。このような状況に対して独自の取り組みを行う地方公共団体が増えている。たとえば、1996年(平成8)に川崎市が初めて設置した外国人市民代表者会議による外国籍住民の市政参加の動きは、その後多くの地方公共団体に広がっており、あわせて公務員への就任についても壁をとり除く方向での検討が行われている。しかし、2005年1月、最高裁は外国籍公務員の管理職への昇任を拒んだ東京都の措置を合憲とする判断を示した。
こうした状況のなかで、100を超える自治体が自治基本条例(自治体の基本理念や運営原則等を定めた条例)において、選挙を除く外国人の参加権(住民投票など)を認めており、2009年9月より連立政権を主導する民主党にも外国人地方参政権法案提出の動きがある。
[辻山幸宣]
『徐竜達著『定住外国人の地方参政権 開かれた日本社会をめざして』(1992・日本評論社)』▽『田中宏著『Q&A外国人の地方参政権』(1996・五月書房)』▽『長尾一紘著『外国人の参政権』(2000・世界思想社)』▽『近藤敦著『外国人参政権と国籍』(2001・明石書店)』