昭和期の小説家
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
小説家。滋賀県南五箇荘村の近江商人の旧家の生れ。本名茂。三高を経,東大経済学部卒業。三高時代は戯曲習作にふけり,東大在学中の1925年,梶井基次郎,中谷孝雄ら三高出身者と同人誌《青空》を創刊,以後小説に専念する。27年,呉服木綿問屋を営む父が死に,跡を継ぐため一時文学を断念した。33年,家業を弟に譲って《麒麟》の同人となり,社会小説《鵜の物語》を書き,好評を博す。続いて発表した《草筏(くさいかだ)》(1935-38)で大いに注目され,第1回芥川賞候補となる。《草筏》は《筏》(1954-56),《花筏》(1957-58)とともに,近江商人藤村家の数代にわたる興亡と血の問題とを描く長編三部作をなす。晩年の《澪標(みおつくし)》(1960)は力作で,私小説の極致とよんでよいものがある。
執筆者:関口 安義
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小説家。本名茂。明治35年12月23日富裕な近江(おうみ)商人の子として滋賀県に生まれる。東京帝国大学経済学部在学中の1925年(大正14)、三高以来の友人梶井基次郎(かじいもとじろう)らと同人誌『青空』を創刊し習作を発表する。卒業後家業を継ぐため一時文学を断念するが、33年(昭和8)『鵜(う)の物語』を書いて再出発を遂げる。『麒麟(きりん)』『世紀』などの同人となって商店ものの諸作を執筆するなかで、35年、第1回芥川(あくたがわ)賞候補となり、後の『筏(いかだ)』(1954~56)、『花筏』(1957~58)と三部作をなす『草筏』を起稿、3年後に完結する。江州(ごうしゅう)商人外村一族の血筋を内面的に掘り下げた傑作である。戦後は『夢幻泡影』(1949)に亡妻の死を悼み、『澪標(みおつくし)』(1960。読売文学賞受賞)に自身の性欲史を描くが、やがて再婚した夫人とほぼ同時期に癌(がん)に冒される。『落日の光景』(1960)には死と向き合った心境が静かな筆致でつづられている。昭和36年7月28日没。
[高橋真理]
『『外村繁全集』全六巻(1962・講談社)』
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