日本大百科全書(ニッポニカ) 「筏」の意味・わかりやすい解説
筏
いかだ
木や竹、草の茎など浮力のある物を紐(ひも)などで結び集めて浮力と安定性を増し、水上に浮かべて運搬などの目的に使用するもの。アシでつくったものはとくに葦舟(あしぶね)とよばれる。道路や鉄道が未発達な時代、あるいは地方によっては陸運より水運のほうが効果的であった時代、水運の初めのものとして筏がつくられた。目的に応じて周囲に手すりをつけたり、航行用に帆をつけたりなどの改良がなされ、多様な形態を示す。移動に際しては、水に浮かべて川を流し下る場合と、棹(さお)(竿)や櫂(かい)、櫓(ろ)、帆などによる場合とがある。用途は二つに大別され、奥地で切り出した木材を輸送するためにそれらを組んで下流の集散地まで河川を流して下っていく場合(筏流しとよばれる)と、簡単な船として使用する場合(筏船とよばれる)とがある。前者の場合、日本では和歌山、岐阜、長野地方でみられ、通常は、こぎ手とかじ取りの2、3人が筏を操る。国外ではヨーロッパや東南アジアにこの形態がみられる。後者の筏船として使用する場合は、単に河川だけでなく海洋上でも利用され、漁労、水上運搬、水上生活の場などが目的となる。
世界のさまざまな筏の例をあげてみると、まずヨーロッパでは、木材運搬として内陸水面を船で引かせる筏や、ロシアの大河川を下る住居付きの大規模な木材運搬の形式がある。アフリカでは森林地帯に簡単な筏が使用されるほか、バルサ材を使用した筏船も発達している。西アジア、中央アジアは木材が乏しいので未発達であるが、インドでは小型の木製筏船がよく発達している。これは木の幹を束ねて竹で固定した長さ1.5メートル程度のもので、使い捨てに近い。東南アジアでは木材を下流に運搬する手段として広く使用され、ボルネオ島やメコン川上流では竹の筏も盛んに利用される。中国では木材の運搬のほかに運河の航行、漁船の目的で使用される。朝鮮にはパルソンとよばれる漁労用の筏、台湾では安平付近で使用される竹製の筏、テッパイがある。テッパイは漁船や渡船として使用される。オセアニアでは広く水上運搬具として利用され、とくにオーストラリア北西部、ビスマーク諸島、アドミラルティ諸島、ソロモン諸島などにみられる。北アメリカでは一部を除いてみられないが、南アメリカではコロンビア、エクアドルなどで農閑期に筏を住居として魚をとるほか、ペルー北部では帆のついた筏が使用されていた記録がある。
葦舟としては、パピルスでつくった古代エジプトの例のほか、アフリカや南アメリカにある。ティティカカ湖の大型の葦舟は漁労や運搬用に用いられている。
[豊田由貴夫]
木材流送用の筏の組み方
伐採した木材を谷間に落とし(山落としという)、そこから1本ずつ鉄砲流し(水量が少ない渓流に堰(せき)をつくって貯水し、一度に放流して木材を流す)、管(くだ)流し(木材を連結せずばらばらに流す)などの方法で、水量の豊富な筏場まで流し、網場(あば)と称する所で筏を組み立てる。組み方は、河川の状態などにより異なり、普通、横列に組むときは、材端を藤(ふじ)づるや針金で巻き付けたり、材端に目途(めど)とよばれる穴をあけるか、または鉄環を打ち込んで、これに藤づるや針金を通して連結する。さらにこれを縦列に連結するときは、河川の屈曲状態にあわせ、目途と目途を藤づるで結ぶか、前後の筏が動かないように両側に長材を添えて連結する。また、水量の少ない上流河川では小形の筏をつくり、水量の豊富な下流にきて大形の筏に組み直して流送する。東南アジアの一部では、比重1以上の硬木の筏の上部に竹を組んで浮力をつける方法もとられている。
[山脇三平]
移送方法
河川中流部の網場で組まれた筏を下流へ流す作業を筏流しといい、1930年代から1940年代ごろまで木曽(きそ)川、熊野(くまの)川、大堰(おおい)川(保津(ほづ)川の上流の一部)、米代(よねしろ)川など各地の河川で行われた。筏には、さきのり、なかのり、あとのりとよばれる筏師が1~3人乗り、櫂(かい)、棹、ときには制動棒などを使って操った。
海上で木材を輸送するために組む筏を海洋筏という。これには縦連式、矢羽根(やばね)式、重積式などの組み方があり、船で曳航(えいこう)する。第二次世界大戦中、北洋材の大量輸送に用いられた。現在でも、港湾内の大貯木場から輸入材を平筏に組み、河川下流沿いの木材工場まで曳航する方法が行われている。
[山脇三平]