外耳道異物(読み)がいじどういぶつ(英語表記)Foreign body in ear

六訂版 家庭医学大全科 「外耳道異物」の解説

外耳道異物
がいじどういぶつ
Foreign bodies in external auditory canal
(外傷)

どんな状態か、原因は何か

 多くの場合、子どもがおもちゃ鉄砲玉、小石、豆、ビーズなどを耳に入れます。昆虫が耳に飛び込むこともあります。

症状の現れ方

 異物では無症状から耳閉塞感(じへいそくかん)(耳がふさがった感じ)、難聴耳鳴り、反射性の(せき)、異物感までさまざまです。昆虫が入れば、耳痛が強くなります。

検査と診断

 専門医額帯鏡(がくたいきょう)や顕微鏡でみれば診断は簡単です。

治療の方法

 異物除去の際の問題は、外耳道や鼓膜を傷つけないことです。そのためには、異物の外耳道内での位置や小児が協力的かどうか、異物を取り出す道具がそろっているかどうかなどが関係します。

①洗浄

 耳洗用水銃あるいはディスポーザブルの50ml用注射器の先端に2㎝くらいのネラトンカテーテルを装着して行います。水の温度は体温と同じにしないと、めまいが起こります。

②異物(こう)鉗子(かんし)での摘出

 顕微鏡下に先端がフックのように曲がった鈎を、鼓膜を傷つけないように異物の鼓膜側に挿入し、異物を外に引き出すようにします。あるいは鉗子でつかめるような異物であれば、これを用いてもよいでしょう。

③吸引管による摘出

 細い吸引管で異物を吸い付けて、取り出します。

④昆虫の場合

 まず4%か8%のリドカインを噴霧し、次いでオリーブ油アルコールを注入して昆虫を動かないようにし、そのうえで前述の洗浄、吸引、鉗子、異物鈎のいずれかを用います。

応急処置はどうするか

 昆虫などが耳のなかで動いて痛みがある時は、応急処置としてウイスキーかブランデーを、体温ぐらいに温めてから耳に注入してもよいでしょう。

神﨑 仁


外耳道異物
がいじどういぶつ
Foreign body in ear
(耳の病気)

どんな病気か

 耳の穴、つまり外耳道に異物が入ってしまった状態をいいます。子どもでは意図的に入れたおもちゃの部品(プラスチックの弾丸、プラモデルパーツなど)、小石、豆、紙をまるめたものなどがみられます(図8)。大人では昆虫類のほか、耳かきの時に折れてしまった耳かき棒やマッチのかけらがみられます。

 子どもの場合、まだうまく話ができない年齢では、異物が外耳に入っていることに周囲の大人が長い間気づかないことがあります。また、いたずらで耳に入れたことを叱られるのを恐れ、大人に言わないこともあります。その場合、大人がその子どもの耳掃除をした時、また、入れたものが水分を吸って腐敗し、におってきて初めて気づくことがあります。

 異物を除去してもまた繰り返し同じ行為を続ける子どもがいます。その場合は何らかの心理的問題を含んでいる可能性があるため、叱るだけでなく、小児心理に精通した専門機関に相談することをすすめます。

治療の方法

 昆虫が入った場合(図9)、その昆虫が生きているかぎり外耳道内で動くため、大きな騒音と激痛を訴えます。外から懐中電灯のような明かりを耳に当てると、虫が光に集まる習性で出てくることがあります。それでも出てこない場合は昆虫を殺すことが先決で、外耳道内に食用油を流し込むとよいでしょう。

 ただし、過去に耳の手術を受けた既往歴がある人や中耳の炎症が続いている場合は、自分で行わず、専門医に任せたほうがよいでしょう。

 外耳道は狭いうえ、曲がっています。異物が入ったことに気づいた場合でも、よほど入口で取りやすい場所以外は、耳鼻科医を受診することをすすめます。自分で取ろうとした結果、外耳道に傷をつけたり、逆に異物を奥に押し込んで鼓膜を傷つけることがあるためです。一般的には耳鼻科医のもとで専用の器具があれば、ほとんどの異物を除去することができます。

 まれに外耳道に固くはまってしまった場合、たとえば鉄の玉のように取ろうとしてもすべってしまい、取ることが困難な場合などは、手術をせざるをえない場合もあります。

中山 明峰


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「外耳道異物」の意味・わかりやすい解説

外耳道異物
がいじどういぶつ

耳の穴(外耳道)へ入った異物のこと。小児では玩具(がんぐ)、木片、豆類、小石、ガラス玉などを遊戯中に外耳道へ押し込むことがある。このような場合は、直後に症状がまったくないことが多く、親にも知らせずに忘れてしまう。数日後、異物が水分を含んで膨張したり、異物による圧迫や外傷のために外耳道炎をおこし、痛みが出てきて医師を訪れることがまれではない。成人では昆虫が侵入したり、耳あかを耳かきやマッチ棒でとっていて、その先端が折れるなどして異物となるほか、職業的なものとしては溶接火花の金属片などが外耳道に入り異物となることがある。

 治療としては、簡単な場合にはピンセットなどを用いて除去する。昆虫の場合、一般に光源を外耳道の入口に近づけると虫が自然に出てくるとよくいわれるが、虫によっては逆に奥のほうへ逃げ込み、鼓膜を破る場合もあるので危険である。清潔な水などを外耳道に十分注入し、虫が死んでから除去するのがよい。大きなガラス玉や豆では、ピンセットなどで除去しようとしても手掛りがなく、全身麻酔下で異物除去用の鉤(かぎ)などを使って除去する。まれには、外耳道を拡大する手術が必要となることもある。

[河村正三]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

家庭医学館 「外耳道異物」の解説

がいじどういぶつ【外耳道異物 Foreign Bodies in the External Auditory Canal】

[どんな病気か]
 元来、からだにないものが耳の孔(あな)に入ったり、故意に入れたりした状態です。
 子どもは、豆、丸めた紙、小石、ビーズなどを入れてしまうことが多いものです。成人は、マッチの軸の薬のついているほうを入れてしまったり、夏場に昆虫が入ったりします。
[症状]
 大きさにもよりますが、外耳道がつまったような異物感があります。
 昆虫の場合は、耳の中でガサガサと大きい音がしたり、ときに皮膚や鼓膜(こまく)にかみついて耳が痛んだりします。
 豆などは、長期になると水分を吸ってふやけ、外耳道を塞(ふさ)いで難聴(なんちょう)が生じ、痛みが出たりします。
[治療]
 水を流し込んで異物を洗い出したり、異物専用鉗子(かんし)や鉤(こう)を使って取り出します。
 昆虫の場合は、キシロカインという麻酔薬(ますいやく)を耳の孔に入れ、麻酔をかけた状態にして取り出したり、吸引用の管で吸い出します。
 ゴキブリなどは、手足のトゲのような毛のため、後退ができず、奥へ奥へと入り込むので耳の痛みと雑音がひどく、除去にも難渋します。こんなときは、虫のからだをバラバラに分解して取り出します。
 不用意に取り出そうとするとかえって奥に押し込んだり、鼓膜を破り、その孔からさらに奥にある中耳(ちゅうじ)のほうに異物を入れてしまい、いっそう取り出しにくくするだけでなく、新しい病気(中耳炎)をおこすこともあります。
 家庭で取り出そうとせずに、すぐに耳鼻咽喉科(じびいんこうか)を受診し、適切な処置で除去してもらいましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「外耳道異物」の意味・わかりやすい解説

外耳道異物
がいじどういぶつ

有生異物 (昆虫のように生きたもの) と無生異物 (小石など) とがある。有生異物では,主として雑音と疼痛を訴える。外耳孔を電灯に向けて虫を誘い出す方法もあるが,成功しない場合にはオリーブ油,エタノール,グリセリンなどを点耳し,虫を殺してから取除く。無生異物では,外傷を伴わないときには一般に症状が軽いが,豆類が膨化した場合などは疼痛や耳閉塞感が生じる。耳内をむやみにいじると2次損傷の危険もあるので,専門医に受診して取除いてもらうのがよい。

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