(6)多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA)
(旧名Wegener肉芽腫症Wegener's granulomatosis) 概念
多発血管炎性肉芽腫症(GPA)は全身性の壊死性肉芽腫性血管炎,上気道と肺の壊死性肉芽腫,腎の壊死性半月体形成性腎炎の3徴を認める血管炎である.PR3-ANCAが高率に陽性で,ANCA関連血管炎の1つである.わが国ではまれな疾患であり,推定患者数は約1800人である(2011年).30〜60歳に好発し,男女比はほぼ1:1である. 病理 病理学的には,①上気道と肺の壊死性肉芽腫(図10-8-7),②小・細動脈の巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性血管炎(図10-8-8),③壊死性半月体形成性腎炎(図10-8-9)が認められる.この「肉芽腫」の存在がMPAとの鑑別点である.ほかのANCA関連血管炎と同様に,血管炎や糸球体腎炎の病変局所に免疫グロブリンや補体の沈着を認めない(pauci-immune). 臨床症状
上気道症状(E),肺症状(L),腎症状(K)に分けられる.初期にはE症状がみられ,化膿性・血性の鼻汁を呈する.副鼻腔炎,化膿性中耳炎,鼻腔・口蓋の潰瘍,鼻中隔穿孔がみられることもある.進行すると,本症に特徴的とされる「鞍鼻」をきたす.眼球突出,結膜炎,上強膜炎,めまい,難聴をきたすこともある.L症状は85%にみられ,咳,血痰,呼吸困難を呈する.好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)と異なり,気管支喘息はみられない.K症状は最終的には発症2年以内に80%にみられ,蛋白尿,血尿,赤血球円柱,腎不全症状を呈する.その他,血管炎の所見として,下肢の紫斑,多発性単神経炎がみられる.ELKすべての症状を呈する症例を全身型,Kを欠く症例(Eのみ,Lのみ,E+L)を限局型といい,治療法が異なる. 検査成績
MPAと同様に赤沈亢進,CRP陽性,白血球増加,血小板増加や,糸球体腎炎所見(血尿,蛋白尿,円柱尿)がみられる.C-ANCA(PR3-ANCA)は全身型の90%以上で陽性となり,診断にきわめて有用である.画像検査では,EまたはL領域の肉芽腫性病巣が結節性陰影または占拠性陰影として認められる(図10-8-10). 診断・鑑別診断
GPAの診断は臨床症状・生検組織所見・検査所見により行う.生検は鼻粘膜,肺,腎で施行し,上記の病理所見を認める.鑑別診断としては,E,Lの肉芽腫性疾患(サルコイドーシス)や,MPAなどのほかのANCA関連血管炎が重要である.Chapel Hill分類によると,GPAには肉芽腫の存在が必須であり,一方,上気道や下気道の「非肉芽腫性の」小型血管炎はMPAの範疇に入る.EGPAはGPAの病型にさらに好酸球増加やアレルギー性疾患の合併が加わったものと考えられ,MPO-ANCAが高率に陽性になるが,特徴的な病態で鑑別される(表10-8-4). 経過・予後
全身の多臓器障害を伴う重症型のGPAは,無治療では2年後に90%が死亡する.しかし,免疫抑制薬(シクロホスファミド)と大量の副腎皮質ステロイド薬の併用で予後は大きく改善し,5年後の死亡率は約20%となった.GPAの主たる死因は敗血症や肺感染症であり,上気道の肉芽腫性病変のため鞍鼻や視力障害を後遺症として残す症例もある. 治療
全身型GPAで活動早期の例に対しては,全身型MPAと同様の強力な大量ステロイドと免疫抑制薬による寛解導入療法を行う.寛解導入後は維持療法を12~24カ月行う.[尾崎承一] ■文献
Falk RJ, et al: Granulomatosis with polyangiitis (Wegener's): An alternative name for Wegener's granulomatosis. Ann Rheum Dis, 70: 704, 2011.
Jennette JC, Falk RJ, et al: 2012 revised international Chapel Hill consensus conference nomenclature of vasculitides. Arthritis Rheum, 65: 1-11, 2013.
Mukhtyar CL, et al: EULAR recommendations for the management of primary small and medium vessel vasculitis. Ann Rheum Dis, 68: 310-317, 2009.