夢の代(読み)ユメノシロ

デジタル大辞泉 「夢の代」の意味・読み・例文・類語

ゆめのしろ【夢の代】

江戸後期の実学啓蒙書。12巻。山片蟠桃やまがたばんとう著。文政3年(1820)成立。合理主義的立場から、地理的、社会的分業自由経済必要性などを説いたもの。

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精選版 日本国語大辞典 「夢の代」の意味・読み・例文・類語

ゆめのしろ【夢の代】

江戸後期の実学啓蒙書。一二巻。大坂町人、山片蟠桃著。文政三年(一八二〇)跋。天文、地理、神代経済、無鬼などの一二編からなる。実生活に基づいた合理主義的立場から俗説不合理批判、地理的・社会的分業や商業活動の必要性などを論じたもの。また、地動説を首唱し、西欧の科学・医学を積極的に受け入れる立場をとった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「夢の代」の意味・わかりやすい解説

夢の代
ゆめのしろ

江戸後期の大坂の町人学者山片蟠桃(やまがたばんとう)の著作。12巻12冊。江戸後期を代表する実学啓蒙(けいもう)書である。初め『宰我(さいが)の償(つぐのい)』と題したが、懐徳堂(かいとくどう)の師中井履軒(りけん)の指示により『夢の代』と改めた。1802年(享和2)の初稿6巻3冊を補訂して翌年7巻7冊とし、中井竹山(ちくざん)・履軒の筆注を参考として、かねてからの草稿あるいは上書などを加えて1820年(文政3)、失明にも屈せず12巻に大成した。天文、地理、神代(じんだい)、歴代、制度、経済、経論、雑書、異端、無鬼(上・下)、雑論の編成。五井蘭洲(ごいらんしゅう)、中井竹山・履軒ら懐徳堂学統の影響を強く受け、徹底した合理主義にたって自然・人文現象を峻別(しゅんべつ)した。蘭学(らんがく)の知識も深く西欧科学に信頼を寄せ、地動説を支持し明暗界宇宙論を提示、近代医学の成果を紹介し、『日本書紀』の応神(おうじん)紀以前の記述を信ぜず、あらゆる俗信を否定、江戸時代最高の無鬼論(無神論)を展開するなど、その主張は今日国際的に評価されている。晩年失明のため自筆本は存在せず、写本は50点を超える。

[末中哲夫]

『末中哲夫著『山片蟠桃の研究 夢之代篇』(1971・清文堂出版)』『『山片蟠桃の研究 著作篇』(1976・清文堂出版)』

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改訂新版 世界大百科事典 「夢の代」の意味・わかりやすい解説

夢の代 (ゆめのしろ)

江戸後期の実学的合理主義の啓蒙書。大坂の町人学者山片蟠桃著。1802年(享和2)起稿した《宰我の償》を師の中井竹山・履軒の校閲を得て増補・改題し,数年後に大成したが,目を患って失明,20年(文政3)秋完稿した。天文,地理,神代,歴代,制度,経済,経論,雑書,異端,無鬼(上,下),雑論の12巻よりなる。西洋文明の実証性を高く評価し,いち早く地動説を理解して新宇宙観を示し,地球世界の地理を論じ,ついで日本の歴史・制度の変遷を説く。とくに神話と歴史を峻別して神代史を粉砕し,応神朝から史実性をもつと主張する。さらに経済の自由を唱え,物価は需給の関係で決まるといい,幕府諸藩の経済策を痛烈に批判した。〈経論〉〈雑書〉では懐徳堂流の合理的新解釈を行い,〈異端〉での激しい仏教批判,〈無鬼〉での徹底した無神論の展開は当代随一である。しかし儒教道徳を堅持し,封建体制を賛美した。《日本思想大系》に全文収録。
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百科事典マイペディア 「夢の代」の意味・わかりやすい解説

夢の代【ゆめのしろ】

江戸後期の教訓書。12巻。山片蟠桃(ばんとう)著。師の中井竹山中井履軒(りけん)兄弟の説を子孫の教訓として集録したという。1802年に起稿した《宰我(さいが)の償(つぐのい)》を竹山・履軒の校閲を得て改題・増補し,数年後に一応成ったが,その後失明のため1820年に完成した。天文・地理・神代・歴代・制度・経済・経論・雑書・異端・無鬼・雑論の11部に分ける。西洋文明の実証性を評価し,地動説や無神論を説き,また神話と歴史を峻別(しゅんべつ)し,記紀においては応神朝から史実性をもつと主張。儒教道徳は堅持されていたが,社会経済学的視点と,徹底した合理思想をもって貫かれる。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「夢の代」の解説

夢の代
ゆめのしろ

江戸後期の町人学者山片蟠桃(やまがたばんとう)の主著。天文・地理・神代・歴代・制度・経済・経論・雑書・異端・無鬼(上下)・雑論の12巻からなる。懐徳堂の中井竹山・履軒(りけん)の校閲をへて1820年(文政3)完成。知の枠組みはいわゆる懐徳堂朱子学だが,そこに一貫する徹底した合理的視点は,従来の朱子学的窮理概念の変容を示す。地動説にもとづく新しい世界像,合理的歴史像の提示,市場経済の分析など近代的合理性が高く評価されるが,合理性の特質を最もよく表しているのが,「神も鬼も存在しない」という無鬼の主張である。「日本思想大系」所収。

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旺文社日本史事典 三訂版 「夢の代」の解説

夢の代
ゆめのしろ

江戸後期,大坂町人山片蟠桃 (ばんとう) の著書
失明した蟠桃が子芳達らに口述筆記させ1820年完成。12巻。地理的・社会的分業や商業活動の必要など実生活に基づいた合理主義精神に貫かれた卓抜な論や,人間の力以上のものはないという無神論などを展開した。

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世界大百科事典(旧版)内の夢の代の言及

【鬼神論】より

…近世思想史上の一争点であった〈鬼神〉の存在について,人間の生死を〈陰〉〈陽〉二気の集合離散と見る立場から,人間の死後,〈陰〉は〈鬼〉,〈陽〉は〈神〉となって天地に帰ると合理的に説明しているが,一面では超自然の怪異もみとめている。ために後年,山片蟠桃(やまがたばんとう)の《夢の代》の無鬼論,平田篤胤(あつたね)の《鬼神新論》の有鬼論の双方から批判された。【野口 武彦】。…

※「夢の代」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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