江戸後期の大坂の町人学者山片蟠桃(やまがたばんとう)の著作。12巻12冊。江戸後期を代表する実学啓蒙(けいもう)書である。初め『宰我(さいが)の償(つぐのい)』と題したが、懐徳堂(かいとくどう)の師中井履軒(りけん)の指示により『夢の代』と改めた。1802年(享和2)の初稿6巻3冊を補訂して翌年7巻7冊とし、中井竹山(ちくざん)・履軒の筆注を参考として、かねてからの草稿あるいは上書などを加えて1820年(文政3)、失明にも屈せず12巻に大成した。天文、地理、神代(じんだい)、歴代、制度、経済、経論、雑書、異端、無鬼(上・下)、雑論の編成。五井蘭洲(ごいらんしゅう)、中井竹山・履軒ら懐徳堂学統の影響を強く受け、徹底した合理主義にたって自然・人文現象を峻別(しゅんべつ)した。蘭学(らんがく)の知識も深く西欧科学に信頼を寄せ、地動説を支持し明暗界宇宙論を提示、近代医学の成果を紹介し、『日本書紀』の応神(おうじん)紀以前の記述を信ぜず、あらゆる俗信を否定、江戸時代最高の無鬼論(無神論)を展開するなど、その主張は今日国際的に評価されている。晩年失明のため自筆本は存在せず、写本は50点を超える。
[末中哲夫]
『末中哲夫著『山片蟠桃の研究 夢之代篇』(1971・清文堂出版)』▽『『山片蟠桃の研究 著作篇』(1976・清文堂出版)』
江戸後期の実学的合理主義の啓蒙書。大坂の町人学者山片蟠桃著。1802年(享和2)起稿した《宰我の償》を師の中井竹山・履軒の校閲を得て増補・改題し,数年後に大成したが,目を患って失明,20年(文政3)秋完稿した。天文,地理,神代,歴代,制度,経済,経論,雑書,異端,無鬼(上,下),雑論の12巻よりなる。西洋文明の実証性を高く評価し,いち早く地動説を理解して新宇宙観を示し,地球世界の地理を論じ,ついで日本の歴史・制度の変遷を説く。とくに神話と歴史を峻別して神代史を粉砕し,応神朝から史実性をもつと主張する。さらに経済の自由を唱え,物価は需給の関係で決まるといい,幕府諸藩の経済策を痛烈に批判した。〈経論〉〈雑書〉では懐徳堂流の合理的新解釈を行い,〈異端〉での激しい仏教批判,〈無鬼〉での徹底した無神論の展開は当代随一である。しかし儒教道徳を堅持し,封建体制を賛美した。《日本思想大系》に全文収録。
執筆者:有坂 隆道
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江戸後期の町人学者山片蟠桃(やまがたばんとう)の主著。天文・地理・神代・歴代・制度・経済・経論・雑書・異端・無鬼(上下)・雑論の12巻からなる。懐徳堂の中井竹山・履軒(りけん)の校閲をへて1820年(文政3)完成。知の枠組みはいわゆる懐徳堂朱子学だが,そこに一貫する徹底した合理的視点は,従来の朱子学的窮理概念の変容を示す。地動説にもとづく新しい世界像,合理的歴史像の提示,市場経済の分析など近代的合理性が高く評価されるが,合理性の特質を最もよく表しているのが,「神も鬼も存在しない」という無鬼の主張である。「日本思想大系」所収。
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…近世思想史上の一争点であった〈鬼神〉の存在について,人間の生死を〈陰〉〈陽〉二気の集合離散と見る立場から,人間の死後,〈陰〉は〈鬼〉,〈陽〉は〈神〉となって天地に帰ると合理的に説明しているが,一面では超自然の怪異もみとめている。ために後年,山片蟠桃(やまがたばんとう)の《夢の代》の無鬼論,平田篤胤(あつたね)の《鬼神新論》の有鬼論の双方から批判された。【野口 武彦】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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