日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会的分業」の意味・わかりやすい解説
社会的分業
しゃかいてきぶんぎょう
division du travail social フランス語
現実の社会は、異質的な人間と機能の相互依存的な複雑な組合せとして成り立っている。その組合せの過程または状況を分業といい、それには技術的分業と社会的分業がある。前者は個々の職場組織の内部における仕事の専門分化であり、後者は社会の内部における産業や職業の職能的専門分化を意味する。
デュルケームは『社会分業論』(1893)のなかで、社会的分業によって異なる職能間の相互依存、補完関係が必然的に発達し、そこに単純な機械的連帯を超えた有機的連帯が生じて効率のよい高水準の社会統合が可能となると指摘した。同時に、各職能に従事する個人も、それによって全体への貢献をなし、一定の物質的社会的報酬を配分され、個人としての自由と尊厳を保ちながら他者との道徳的連帯を育成できると論じた。またパーソンズは、分業関係にある各職能を社会体系の下位体系としてとらえ、その機能的相互依存関係を主題として構造・機能説を唱えた。しかし、社会的分業が進むと、一方では技術的分業との相乗効果として個別職能における個人の極端な専門分化による人間疎外を生じ、他方、複雑な全体社会の統合のための計画と、それに基づく人員、資源、権力の配分をどう決めるかという難問に直面することとなる。社会的分業については、それが階級分裂と人間労働の非人格化につながるとみるマルクス流の否定的見解もある。
[杉 政孝]
『E・デュルケーム著、田原音和訳『社会分業論』(1971・青木書店)』▽『T・パーソンズ著、佐藤勉訳『社会体系論』(1974・青木書店)』