大学管理機関(読み)だいがくかんりきかん

大学事典 「大学管理機関」の解説

大学管理機関(設置者)
だいがくかんりきかん

[設置者管理主義と大学管理機関]

日本では,大学を含む学校は学校教育法2条の規定により,国(国立大学法人等を含む)地方公共団体(公立大学法人を含む)および学校法人のみが設置できることとされ,これらの「設置者」の種別に応じて,学校は国立学校公立学校私立学校に大別される。なお,私立学校の設置者を学校法人に限定する法制には例外があり,構造改革特別区域に限った特例措置として株式会社による大学設置が2003年(平成15)の構造改革特別区域法改正により認められ,2004年に最初の株式会社立大学(日本)が誕生した。

 国立大学の法人化および公立大学法人制度の創設に伴い,学校教育法2条が改正され,同条の規定において国立大学法人は「国」に含まれ,公立大学法人は「地方公共団体」に含まれることとされている。しかし,これらの法人が国や地方公共団体とは別個の法人格を有することになり,法人の職員(教員を含む)公務員でなくなったことは,大学の管理運営にとって法制上の大きな変化をもたらした。

 学校の管理運営に関し,学校教育法5条は「学校の設置者は,その設置する学校を管理し,法令に特別の定のある場合を除いては,その学校の経費を負担する」と規定している。この規定は,学校の管理運営の権限と責任を担うのは設置者であるという「設置者管理主義(日本)」の原則を示したものといわれる。大学といえども,学校教育法体系の下,実定法上は初等中等教育諸学校と同様,包括的な管理権が設置者にある。設置者の最高意思決定機関が「大学管理機関(日本)」であり,私立大学の大学管理機関は学校法人の理事会,法人化後の国立大学の大学管理機関は学長,法人化された公立大学の大学管理機関は理事長または学長である。

[私立大学と学校法人の関係]

大学の管理運営に関する設置者の権限・責任を考えるには,設置者たる法人と大学の区分が明瞭とはいえない国公立大学よりも,第2次世界大戦後の教育法制において私立学校法(1949年制定)に基づく学校法人を設置者とする長い歴史を有する私立大学(日本)のほうが分かりやすい。

 前述した学校教育法5条に基づく設置者の学校に対する管理権は,文部科学省の公権解釈によれば,人的管理,物的管理および運営管理を含む包括的な管理権であるとされる。理事会(日本)が決する「学校法人の業務」(私立学校法36条2項)とは,設置する学校に対する包括的な管理にほかならない。設置者の包括的な管理権は,少なくとも実定法上は,大学についても初等中等教育諸学校と同様である。この解釈によれば,私立大学のすべての事項が,経営事項か教学事項かを問わず,学校法人の理事会の権限下にあることになる。教学事項(日本)について理事会が学長や教授会の意向を尊重する慣習は幅広く見られるが,法的な管理権そのものが及ばないということにはならない。実定法上は,学校教育法92条3項に基づき「校務をつかさどり,所属職員を統督する」学長との権限関係が論点となる。このような公権解釈は,私学の自主性や建学の精神を体現する学校法人の役割を重視する立場から,私立大学にとっての大学の自治は,学校法人と大学を一体的に捉えて考えるべきとする一部私学関係者の見解と親和的である。

 これに対し,憲法学や教育法学の学説には,憲法23条の保障する「学問の自由」に基づく「大学の自治」を理由として,教員人事および教学事項を含む大学の重要事項には理事会の管理権は及ばず,教授会に権限があるとする見解も見られる。こうした見解は,大学の自治を「教授会自治(日本)」とみなす憲法解釈(学説としては多数説)に基づき,これを私立大学にも適用するものである。この憲法解釈の是非を論じるに当たっては,上述した学校法人理事会との権限関係のほか,国公立大学と共通する学長との権限関係も論点になる。教授会自治の憲法解釈は,学校教育法に基づき校務をつかさどる学長ではなく,同法で審議機関と位置付けられる教授会を実質的な決定機関とみなす。

[法人化後の国公立大学―大学管理機関としての学長]

国公立大学(日本)の管理運営法制は,法人化によって一変した。法人化された国公立大学においては,教員を含む法人職員が非公務員化されたことから,教育公務員特例法は適用されないこととなり,評議会や教授会が有していた学長や学部長・研究科長の選考および教員人事(採用・承認,勤務評定)に関する実定法上の決定権は失われた。文部科学省はこの点について,教育公務員特例法の規定は,公権力の行使から人事に関する大学の自治を守るため,上意下達の命令関係を前提とする公務員法制の例外を設ける趣旨であったので,法人化・非公務員化によってその必要性は失われ,各法人は学長・学部長の選考や教員の採用等について自由に手続きを整備できるようになった旨,説明している。

 また,法人化後の国立大学の学長(日本)および理事長の置かれない公立大学の学長は,学校教育法に基づく大学の学長としての職務(校務をつかさどり,所属職員を統督する)のみならず,国立大学法人法または地方独立行政法人法に基づく法人の長(日本)としての職務(法人を代表し,その業務を総理する)を担う。後者の役割において,学長は私立大学を設置する学校法人の理事会と同様に大学管理機関である。
著者: 大森不二雄

参考文献: 文部省内教育法令研究会編「学校の管理及び経費の負担」『教育法令コンメンタール』第2巻第1章第5節,第一法規出版(加除式書籍).

参考文献: 堀雅晴「私立大学における大学ガバナンスと私学法制をめぐる歴史的検証―2004年改正私学法の総合的理解のために」『立命館法学』316号,2007.

参考文献: 君塚正臣「国立大学法人と大学の自治」『横浜国際経済法学』17巻3号,2009.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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