大学通信教育(読み)だいがくつうしんきょういく

大学事典 「大学通信教育」の解説

大学通信教育
だいがくつうしんきょういく
university correspondence education

[制度と歴史]

大学における通信教育は,1947年(昭和22)に制定された学校教育法にその根拠が定められており,「大学は,通信による教育を行うことができる」(旧70条,現在は84条)とされている。また,同年12月に大学基準協会が決定した大学通信教育基準は,「この基準に定められた通信教育は,学校教育法により,通常の課程と並んで正規の課程として行われるものである」(趣旨2)と規定している。これまで正規の教育として位置づけられていなかった通信教育に,法制上の根拠が与えられたわけである。これに基づき,1950年,法政,慶應義塾,中央,日本女子,日本,玉川の6大学の通信教育が正規の大学教育の課程として認可(文部省認可通信教育)された。

 また1981年には,放送大学学園設立契機に文部省令として大学通信教育設置基準が公布され,短期大学通信教育設置基準とともに翌年施行された。1983年に設立された放送大学は85年に放送授業を開始し,98年からは放送エリアを全国に拡大した。その後,大学院においても「通信による教育を行う研究科」を置くことができるようになり(学校教育法101条),1998年に修士課程が,2002年に博士課程が,そして2003年には専門職学位課程も認められた(ただし,法科大学院と教職大学院では通信制は認められていない)。さらに2004年には,構造改革特別区域におけるインターネット大学(インターネット等のみを用いて授業を行う大学における校舎等施設に係る要件の弾力化による大学設置事業:特定事業番号832)が認められた。

[授業の方法と卒業要件

1998年の大学通信教育設置基準改正により,従来の「印刷教材等による授業」,「放送授業」,「面接授業」(いわゆる「スクーリング」)に加えて,「メディアを利用して行う授業」(いわゆる「メディア授業」)が認められ,大学通信教育で実施できる授業の方法は四つとなった(3条1項)。また2001年の改正で,「面接授業」と「メディア授業」は全く同等に扱われることとなり(6条2項),50年以上にわたって一律に課されてきた「面接授業」は卒業のための絶対要件ではなくなった。さらに,卒業に必要な124単位のすべてを「メディア授業」によって修得することも可能になった。ただし専門職大学院においては,「印刷教材等による授業」および「放送授業」を実施することができず,インターネット大学においてはこれらに加えて「面接授業」も実施することができない(つまり「メディア授業」のみ可)

[現状]

2016年度に通信教育を実施しているのは44大学(うち2大学がインターネット大学),27大学院(修士課程25,博士課程10,専門職学位課程2),11短期大学で,学生数は大学が21万1175人(正規の課程16万3354人,その他4万7821人),大学院が8466人(3907人,4559人),短期大学が2万3020人(2万854人,2166人)で,合計24万2661人(18万8115人,5万4546人)となっている(いずれも放送大学を含む)。大学通信教育では,大学卒業資格を目的とする学生のほかに,教員免許状保育士・図書館司書社会教育主事・博物館学芸員等の資格,社会福祉士・精神保健福祉士建築士等の受験資格の取得を目的とする学生も多く学んでいる。

近年傾向

大学通信教育の近年の顕著な傾向は,大学においては,①設置校数の急激な増加(1994年以降の20年間で3.6倍に増加)と1校当たりの学生数の減少(同期間に約5分の1に減少),②専攻分野の多様化(芸術系,心理学系,自然科学系,学際的分野など),③通信制のみの大学の開設(2016年度は44校中6校),④入学者の高学歴化(高等教育機関の修了者が約65%,うち大学卒業者が約40%)と編入学者の占める割合の増加(約70%),⑤卒業率の上昇(1990年度の約11%が2011年度には約30%)などである。卒業率上昇の要因としては,高等教育を経験した編入学者が増加したこと,面接授業(スクーリング)の実施方法が弾力化されたこと(メディア授業による代替を含む),学習サポート体制(ICT活用を含む)の充実などが考えられる。

 大学院においては,①入学定員が少ない,②筆記試験や面接による入学者選抜を行う,③研究指導を中心に丁寧な個別指導を行う,④メンター,TA(ティーチング・アシスタント),アドバイザー等を配置する,⑤ICTを活用する(ただし,メディア授業を実施する大学院は少ない),⑥高い修了率と継続率,⑦学費は通学制に準ずる高額であるなど,これまでの通信教育の既成概念を打ち破るいくつかの特徴が見られる。短期大学においては,ビジネス系と保育(幼児教育)系を中心に,専門学校との併修制度(専門学校に入学するのと同時に短期大学の通信教育課程に入学し,二つの学校の同時卒業をめざす制度)を実施する学校が多い。こうした傾向は,大学通信教育が「通学制」の大学の単なる代替から脱却し,おもに高学歴の社会人を対象とする再教育機関として独自の役割を担うようになったことを示しているといえる。
著者: 鈴木克夫

参考文献: 公益財団法人私立大学通信教育協会『2017大学通信教育ガイド(大学・短大編)』,2016.

参考文献: 公益財団法人私立大学通信教育協会『2017大学通信教育ガイド(大学院編)』,2016.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の大学通信教育の言及

【通信教育】より

…戦後の一時期,旧学制から新学制への移行として中学通信教育が行われたが,現在では意味を失っている。したがって大学通信教育,高等学校通信教育,社会通信教育の三つに大別することができる。
[大学通信教育]
 学校教育法に基づき1950年に初めて6大学に認可され,その後拡充されて,96年現在法政,慶応など15大学に約21万人が,短期大学では10大学に約4万人が在籍している。…

※「大学通信教育」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」