学校教育法は99条において「大学院のうち,学術の理論及び応用を教授研究し,高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うことを目的とするものは,専門職大学院とする」としている。大学院設置基準は,一般の大学院における課程が修士課程および博士課程であるのに対して,専門職大学院の課程を専門職学位課程とし(2条),専門職大学院設置基準において,その標準修業年限を2年または1年以上2年未満の期間としている(2条2項)。教員組織として「専任教員のうちには,…専攻分野における実務の経験を有し,かつ,高度の実務の能力を有する者を含むものとする」(5条3項)とあり,いわゆる実務教員を必置としていることが特徴的である。さらに同設置基準では,一般の専門職大学院のほかに,法科大学院および教職大学院を別扱いで規定しており,法科大学院の課程の標準年限は3年(18条2項),教職大学院のそれは2年(26条2項)としている。
学校教育法104条は,「大学院(専門職大学院を除く。)の課程を修了した者に対し修士又は博士の学位を,専門職大学院の課程を修了した者に対し文部科学大臣の定める学位を授与するものとする」としており,それを受けた学位規則の規定で,一般の専門職大学院の修了者へは修士(専門職),法科大学院のそれには法務博士(専門職),教職大学院のそれには教職修士(専門職)の学位が授与される。
専門職大学院を置く大学にあっては,大学全体の認証評価のほかに,当該専門職大学院の教育課程,教員組織その他教育研究活動の状況について,政令で定める期間ごとに,認証評価を受けなければならず(学校教育法109条3項),その期間は5年以内と定められている(学校教育法施行令40条)。また,「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律」で,法科大学院の認証評価では適格認定が必要であることが定められている(5条)。
なお,大学院設置基準の規定する一般の大学院の目的は,修士課程の場合「広い視野に立つて精深な学識を授け,専攻分野における研究能力又はこれに加えて高度の専門性が求められる職業を担うための卓越した能力を培うことを目的とする」,博士課程の場合「専攻分野について,研究者として自立して研究活動を行い,又はその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養うことを目的とする」とされており,専門職大学院でなくとも実質的には法曹以外の高度専門職者養成が可能である。また日本の専門職大学院のモデルはアメリカ合衆国のプロフェッショナル・スクール(professional school)とされているが,アメリカのプロフェッショナル・スクールは,アーツ・アンド・サイエンス系の学部(スクール)に対して職業系の学部の総称として使われ,必ずしも大学院だけを指さない場合もあるので注意を要する。
著者: 舘 昭
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
法科大学院、教職大学院など社会的・国際的に活躍できる高度専門職業人の養成を目的とした教育機関。学校教育法を改正し、同法第99条第2項に基づき、2003年度(平成15)から制度化された。研究者ではなく実務家の養成がねらいで、法務、教職のほか、経営(ビジネス・スクール)、会計(アカウンティングスクール)、技術経営(MOT)、公共政策、公衆衛生、知的財産、臨床心理などがある。科学技術の進展や、経済・社会のグローバル化に対応するため、欧米をモデルに導入された。専門職大学院は2020年度(令和2)時点で全国に118校(166専攻)あり、入学定員は1万0081人。制度導入当初は全国の大学、専門学校が競うように専門職大学院を設置したが、その後、閉校や募集停止が続き、在学者数は2009年度(2万3381人)をピークに減少・低迷傾向にある。文部科学省は2015年度から、司法試験の合格率などで補助金額を決める新制度を導入して法科大学院の再編を促しているほか、産業界と連携し社会ニーズの高い教育プログラムづくりなどを後押ししている。
標準的な修業年限は2年であるが、法科大学院は3年である。修了するには30以上の単位取得が必要で、法科大学院は93単位以上、教職大学院は45単位以上が必要。修了すると修士(専門職)号が与えられるが、法科大学院修了者のみ法務博士(専門職)の学位が与えられる。法科大学院修了者には司法試験の受験資格が与えられ、会計士大学院修了者には公認会計士試験の一部科目が免除されるなど、国家試験の受験資格や科目免除などの一定の特典が与えられる。専門職大学院は、理論と実務をつなぐ教育を基本としつつ、(1)少人数教育、双方向的・多方向的な授業、事例研究、現地調査などの実践的な教育方法をとる、(2)研究指導や論文審査は必須(ひっす)としない、(3)実務家教員を一定割合置く、などを制度上定めている。教育の質を保証するため、文部科学大臣より認証を受けた認証評価団体から5年以内ごとに評価を受けることを義務づけられている。
[矢野 武 2021年2月17日]
(金子元久 東京大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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