勧善懲悪覗機関(読み)カンゼンチョウアクノゾキカラクリ

デジタル大辞泉 「勧善懲悪覗機関」の意味・読み・例文・類語

かんぜんちょうあくのぞきからくり〔クワンゼンチヨウアクのぞきからくり〕【勧善懲悪覗機関】

歌舞伎狂言世話物。8幕。河竹黙阿弥作。文久2年(1862)江戸守田座初演講談大岡政談」を脚色したもの。極悪非道の医者村井長庵と律義実直な手代久八を、一人二役で演じ分けるのが趣向になっている。通称「村井長庵」。

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精選版 日本国語大辞典 「勧善懲悪覗機関」の意味・読み・例文・類語

かんぜんちょうあくのぞきからくり クヮンゼン‥【勧善懲悪覗機関】

歌舞伎。世話物。八幕。河竹黙阿彌作。文久二年(一八六二)江戸守田座初演。「大岡政談」の村井長庵の話を脚色したもの。妹婿重兵衛夫婦を殺して金を奪い、浪人藤掛道十郎に罪をなすりつけるなど、長庵の強悪大岡裁きで解決する。吉原に売られた重兵衛の娘小夜衣(さよぎぬ)と愛人千太郎の道行常磐津名曲として流行した。通称「村井長庵」。

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改訂新版 世界大百科事典 「勧善懲悪覗機関」の意味・わかりやすい解説

勧善懲悪覗機関 (かんぜんちょうあくのぞきがらくり)

歌舞伎狂言。世話物。8幕11場。河竹黙阿弥作。1862年(文久2)閏8月江戸森田座初演。別名題《村井長庵巧破傘(むらいちようあんたくみのやれがさ)》,通称《村井長庵》。幕末の名作者河竹黙阿弥が,当時の名優4世市川小団次のために書きおろした作品。小団次は,義弟を殺し,妹を人手にかけさせる極悪非道な町医者村井長庵と,神田の質屋伊勢屋の手代で実直な善人久八の二役をつとめ,大当りをとった。村井長庵が実弟十兵衛を殺し,その妻を友人に殺させ,娘2人を吉原へ売ったという事件が起きたのは1717年(享保2)4月。時の名奉行大岡越前守裁断を受けたというが,真偽は定かでない。この事件が実録本《大岡仁政録》に収められ,講談になった。黙阿弥はそれを脚色したのである。前半のみどころは,序幕の重兵衛殺しから二幕目の辻番所で罪を浪人藤掛道十郎になすりつけるところ,続いて三幕目の長庵の家の場で,坊主頭の図太い中年男の悪党ぶりがみものである。後半は久八の筋で,伊勢屋の若旦那千太郎の使い込みの責めを負った久八が,紙屑屋になって道十郎の家族を助けるところが見せ場である。七幕目には千太郎と小夜衣の常磐津の道行があり《恨葛露濡衣(うらみくずつゆにぬれぎぬ)》といって有名。大詰は,過って千太郎を刺した久八と長庵が,同じ奉行所の白州で大岡越前守に裁かれ,長庵は有罪,久八は過失致死で無罪になる。大岡政談物の一つであるが,同じ黙阿弥の《鋳掛松》と同じく主題は〈金〉である。三河の貧乏百姓のせがれで希望をもって江戸へ出てきた村井長庵は,金がないために出世もできない。せめて人生を享楽しようとするが,それにも金がいる。金のために悪事に走る中年男の絶望的な人生。一方,現在ほとんど上演されない四幕目の伊勢屋は,実直で蓄財にはげむ町人の典型久八,吝嗇家伊勢屋五兵衛,浪費家千太郎を描いて,江戸町人の気質を長庵の絶望と対照させている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「勧善懲悪覗機関」の意味・わかりやすい解説

勧善懲悪覗機関
かんぜんちょうあくのぞきからくり

歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。8幕。通称「村井長庵(むらいちょうあん)」。河竹黙阿弥(もくあみ)作。1862年(文久2)閏(うるう)8月、江戸・森田座で4世市川小団次(こだんじ)らにより初演。享保(きょうほう)2年(1717)大岡越前守(えちぜんのかみ)の裁きで処刑されたといわれ、実録本『大岡仁政録』に収められた村井長庵の話を講談をもとに脚色。極悪非道の医者村井長庵は妹おそよの亭主重兵衛を赤羽根橋で殺して金を奪い、罪を浪人藤掛道十郎(ふじかけどうじゅうろう)になすりつけて獄死させ、手下の早乗三次(はやのりさんじ)と組んで質屋伊勢屋(いせや)をゆすったり、三次におそよを殺させたりするなど、さまざまな悪事を重ねるが、ついに召し捕られ、名奉行(ぶぎょう)大館左馬之助(おおだてさまのすけ)(大岡越前守)の裁きで服罪する。これに伊勢屋の手代久八(きゅうはち)が主家の倅(せがれ)千太郎や藤掛の妻おりよを助けて苦労する話、藤掛の娘で吉原の遊女小夜衣(さよぎぬ)と千太郎の情話などを織り込んでいる。悪に徹した人物を主役にした異色作で、じみながら作者会心の作という。初演以来、長庵と忠義いちずな久八という対照的な二役を1人で演じ分けるのが一つの趣向になっている。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「勧善懲悪覗機関」の意味・わかりやすい解説

勧善懲悪覗機関
かんぜんちょうあくのぞきからくり

歌舞伎狂言。世話物。8幕 11場。2世河竹新七 (→河竹黙阿弥 ) 作。文久2 (1862) 年初演。通称『村井長庵』。「大岡政談」で有名な極悪人村井長庵に取材。3幕目「麹町長庵住居の場」は江戸の洒脱な町人生活を描いて好評を得た。7幕目の道行に用いられる常磐津『恨葛露濡衣 (うらみくずつゆのぬれぎぬ) 』は名曲として有名。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「勧善懲悪覗機関」の解説

勧善懲悪覗機関
かんぜんちょうあく のぞきからくり

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
河竹新七(2代) ほか
初演
文久2.閏8(江戸・守田座)

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