大智度論(読み)ダイチドロン

デジタル大辞泉 「大智度論」の意味・読み・例文・類語

だいちどろん【大智度論】

大品だいほん般若経」の注釈書。100巻。竜樹著と伝えられる。鳩摩羅什くまらじゅう訳。仏教百科全書的な書。智度論。大論

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精選版 日本国語大辞典 「大智度論」の意味・読み・例文・類語

だいちどろん【大智度論】

  1. 大品般若経(摩訶般若波羅蜜経)の注釈書。一〇〇巻。龍樹著と伝える。サンスクリット原典チベット訳とも現存しないが、鳩摩羅什(くまらじゅう)が後秦の弘始七年(四〇五)に一〇万頌に及ぶ原典のうち初めの三四巻を全訳し、残りは適宜抄訳したという。空(くう)立場に立ちながら肯定的に諸法実相を説き、大乗菩薩道を明らかにする。引用文献が多く、解説がくわしく、仏教百科の役割を兼ねる。別称、摩訶般若釈論。智度論、智論、大論、釈論などと略称する。

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改訂新版 世界大百科事典 「大智度論」の意味・わかりやすい解説

大智度論 (だいちどろん)

インド大乗仏教の論書。《大論》《釈論》と略称する。サンスクリット原典はなく,クマーラジーバ(鳩摩羅什)訳の漢訳のみが現存する。著者竜樹とされるが,疑問も出されている。《大品(だいぼん)般若経》の注釈で,全100巻の膨大なものであるが,原書はその10倍もあり,クマーラジーバは最初の34品(《大品般若経》の序品に相当)のみ全訳し,以下は抄訳したという。注釈書であるが,むしろ大乗仏教の百科全書ともいうべきもので,きわめて広範な問題を含んでいる。また,原始仏典をはじめ部派仏教の論書から初期大乗経典まで幅広く引用し,仏教史の研究上からも重要である。《中論》などの竜樹の論書が多く〈空〉の立場に立つのに対し,本書は〈諸法実相〉の肯定面を重視し,菩薩の実践を説いている。この点から中国,日本の仏教に大きな影響を与え,天台,華厳浄土,禅など,いずれも本書に大きなよりどころを求めている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大智度論」の意味・わかりやすい解説

大智度論
だいちどろん

仏教書。100巻。略して『智度論』『大論(だいろん)』などともいう。龍樹(りゅうじゅ)(ナーガールジュナ)の著書と伝えられ、鳩摩羅什(くまらじゅう)が漢訳した。著者については異論もあるが、漢訳の際かなり加筆改変されたと考えられる。『大品般若経(だいほんはんにゃきょう)』の一語一句に詳しい注釈を加え、そのなかに著者の思想を縦横に織り込んでいる。「序品(じょほん)」だけの注釈に34巻を費やし、以後は訳者の抄訳で、原本どおりに訳せば10倍余に達したであろうとの付記がある。漢訳のみで他に伝わらず、これに触れるテキストもインド、チベットにはない。引用文献は、原始仏教から当時の大乗仏教経典や仏教文学の全般にわたり、インドの諸思想にも達して、計百数十種に及ぶ。広く仏教の諸問題を述べるが、とくに空(くう)の思想、菩薩(ぼさつ)の実践、六波羅蜜(ろくはらみつ)などが詳しい。中国、日本で広く読まれ、その影響も大きい。

[三枝充悳]

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百科事典マイペディア 「大智度論」の意味・わかりやすい解説

大智度論【だいちどろん】

インドの大乗仏教の論書。《摩訶般若波羅蜜経》(大品(だいぼん)般若)の注釈書。著者は竜樹(りゅうじゅ)。漢訳は100巻で,鳩摩羅什(くまらじゅう)の訳。原本は伝わらない。大乗仏教の百科全書的著作で,中国・日本では《大論》と呼ばれ重視された。ほかに《釈論》《大智論》などとも称する。
→関連項目三論玄義曇鸞般若経

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大智度論」の意味・わかりやすい解説

大智度論
だいちどろん

インドの仏教者龍樹の著。鳩摩羅什が漢訳。 100巻。『智度論』『摩訶般若波羅蜜経釈論』ともいう。『大品般若経』の解釈をしながら,その思想を論述している。龍樹の主著『中論』には『般若経』の思想が中心となって述べられているのに対し,『大智度論』には『法華経』などの思想も包含されており,それによって般若空を解説している。羅什訳によれば,第1巻から第3,4巻まで初品を解釈し,そのあとは簡略に述べられている。

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世界大百科事典(旧版)内の大智度論の言及

【般若経】より

…これらを集大成したものが玄奘訳《大般若経》600巻である。注釈書として,インド,チベットでは弥勒の著とされる《現観荘厳論(げんかんしようごんろん)》が重んじられたが,中国,日本では竜樹の著とされる《大智度論》100巻(クマーラジーバ訳)が最もよく読まれた。般若経典は読誦により呪術的効果があるとされるが,《大般若経》の転読は,各巻の数行だけ読んで全体を読んだのと同じ効果を期待する儀式で,奈良時代以来広く行われている。…

【竜樹】より

…竜樹の真作とされるものには,そのほかに《廻諍論(えじようろん)》《空七十論》《広破論》などがある。漢訳にのみ存し真作が疑われるが,中国,日本に重要な影響を与えたものに,《十二門論》《大智度論(だいちどろん)》《十住毘婆沙論(じゆうじゆうびばしやろん)》がある。竜樹の思想は,クマーラジーバ(鳩摩羅什)によって中国に伝えられ,その系統から〈三論宗〉が成立した。…

※「大智度論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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