中論(読み)チュウロン

デジタル大辞泉 「中論」の意味・読み・例文・類語

ちゅうろん【中論】

仏教書。4巻。竜樹りゅうじゅの「偈頌げじゅ(根本中頌)」を青目しょうもく注釈鳩摩羅什くまらじゅう漢訳したもの。竜樹初期の作とされ、因縁によって生じたものはすべて空であるとして、有無を超えた空観による中道を宣揚した書。中観ちゅうがん論。

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精選版 日本国語大辞典 「中論」の意味・読み・例文・類語

ちゅうろん【中論】

  1. [ 一 ] 仏典。三論の一つ。龍樹の著わした偈頌(げじゅ)青目が注釈したものを後秦の鳩摩羅什(くまらじゅう)が漢訳。四巻。因縁によって生ずるものはすべて空であると知る空観こそ中道であるという理を説く。中観論。
  2. [ 二 ] 後漢の儒学書。二巻。徐幹撰。治学・法象・修本・虚道などの二〇編からなる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「中論」の意味・わかりやすい解説

中論
ちゅうろん

大乗仏教のもっとも中心となる書物。2~3世紀インドの大学者の龍樹(りゅうじゅ)(ナーガールジュナ)の著した約445の詩(偈頌(げじゅ)といい、全体は27章からなる)であるが、後世付加された注釈のなかに含まれ、偈頌だけの原本は未発見。原名をムーラマドヤマカ・カーリカーMūlamadhyamaka-kārikāまたはマードヤミカ・シャーストラMādhyamika-śāstraという。初期大乗仏教を基礎づけた書物で、それ以降の大乗仏教はすべてその思想を受け継ぎ、そのため龍樹は八宗(仏教の全宗派)の祖と称せられる。その中心思想を一言でいえば、縁起(えんぎ)―無自性(むじしょう)―空(くう)で表される。八つの否定(八不(はっぷ))をもって始まり、なんであれ、独立の実体ないし本質、すなわち自性、および自性をたてようとする考えを、独自の相依(そうえ)による縁起説によって完全に否定し、それを深く体得したところを空とし、さらに中道(ちゅうどう)とも説く。仏教の諸テーマはもとより、広く言語・真理・存在・運動・時間・関係性その他にきわめて深い洞察があり、いまは宗教哲学の最高書とされ、また仏教思想を理解するためにかならず読まれる。青目(しょうもく)・仏護(ぶつご)・清弁(しょうべん)・安慧(あんね)・月称(げっしょう)などの諸注釈が、サンスクリット本、チベット訳本、漢訳本として計7種あり、中国、日本では青目釈・鳩摩羅什(くまらじゅう)訳の四巻本がもっぱら読まれた。

[三枝充悳]

『三枝充悳著『中論偈頌総覧』(1985・第三文明社)』『三枝充悳著『中論 縁起・空・中の思想』全3巻(1984・第三文明社・レグルス文庫)』『中村元著『ナーガールジュナ』(1980・講談社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「中論」の意味・わかりやすい解説

中論 (ちゅうろん)

インド大乗仏教の論書。竜樹(ナーガールジュナ)著。サンスクリット原典,チベット語訳,漢訳(クマーラジーバ訳)が現存。インドの中観派,中国の三論宗の中心典籍。簡潔な偈文からなり,27章に分けられている。その思想は,《般若経》の空観の思想をうけ,論理的・哲学的に整理したもので,部派仏教やインド哲学の諸派の思想が,いずれもそれぞれの原理を固定化・実体化すると矛盾に陥ることを示して帰謬法によって論破し,無自性,縁起,空の立場を表明している。そのうえで,世俗諦(せぞくたい)(世俗の立場からの真理),第一義諦(究極的な真理)の二つの立場から真理は表明されるとする。注釈として,青目(しようもく)(ピンガラPiñgala)のもの(漢訳現存)や月称(チャンドラキールティCandrakīrti)の《プラサンナパダーPrasannapadā》(サンスクリット原典現存)などがある。
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百科事典マイペディア 「中論」の意味・わかりやすい解説

中論【ちゅうろん】

インド大乗仏教の代表的論書。竜樹の著。サンスクリット原典では488頌(しょう),漢訳では445頌。28章に分かれる。《十二門論》《百論》とともに三論(さんろん)の一つ。空と縁起,世俗諦(せぞくたい)と勝義諦の2問題に仏教全般の問題を帰着させ,空(くう)によりながらも,しかも空に執着しない中道を説く。また羅什(らじゅう)の漢訳は青目(しょうもく)の注を含み4巻。
→関連項目中観派

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「中論」の意味・わかりやすい解説

中論
ちゅうろん
Mādhyamaka-śāstra

インド人ナーガールジュナ (龍樹) の簡潔な偈文 (『中頌』または『根本中頌』と呼ばれる) をピンガラ (青目。4世紀前半) が注釈したもので,鳩摩羅什が多少加筆して翻訳した漢訳がある。『中頌』はナーガールジュナの初期の作品で,27章 449偈 (漢訳は 445偈) から成っている。その内容は『般若経』に基づく大乗空観の立場から,原始仏教以来の縁起説に独自の解釈を与え,部派仏教だけでなくインド哲学思想一般をも批判した。この書は大乗仏教に理論的基礎を与えたものとして,その後の大乗仏教の思想展開に多大の影響を及ぼした。インドではこの書によって中観派という学派が興り,瑜伽行 (ゆがぎょう) 派と並んでインド大乗仏教の二大思潮を形成した。

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世界大百科事典(旧版)内の中論の言及

【クマーラジーバ】より

…その訳業は,35部294巻ともいわれ,流麗達意の訳文は中国人に親しまれた。その中には,般若,法華,維摩などの経典,竜樹の《中論》など三論,《成実論》があり,弟子の僧肇(そうじよう),道生(どうしよう),僧叡(そうえい),僧導らを通じて,三論宗,成実宗が成立する基礎が築かれた。【松本 史朗】。…

【提婆】より

…著作には《四百論》《百論》《百字論》があるが,《智心髄集》という仏教綱要書は提婆に帰せられるものの,後代の作である。なお《百論》は《中論》《十二門論》とともに三論宗で重視されたため,古来,中国,日本でよく学ばれた。【松本 史朗】。…

【竜樹】より

…これを評価して,中国や日本では〈八宗の祖師〉と仰がれている。彼は,その主著《中論》(正確には《中頌》)において説一切有部(せついつさいうぶ)を代表とするいっさいの実在論を否定し,すべてのものは真実には存在せず,単に言葉によって設定されたのみのものであると説いている。この主張を受け継いで成立したのが中観派である。…

※「中論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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