小説家。愛知県名古屋市生まれ。慶応義塾大学法学部中退。少年時代からレイモンド・チャンドラーをはじめとするハードボイルド小説に親しむ。1979年(昭和54)第1回『小説推理』新人賞に応募した短編「感傷の街角」が受賞して作家デビュー。作者の分身と思われる若き調査員佐久間公を主人公とするこの作品は、その後『標的走路』(1980)、『漂白の街角』(1985)、『追跡者の血統』(1986)とシリーズ化され正統派ハードボイルド作家として注目を集める。その一方で冒険小説風味をほどこした『標的はひとり』『野獣駆けろ』(1983)、高校生を主人公とするユーモア/コメディ・タッチの『アルバイト探偵』(1986)シリーズなど、多彩なスタイルの作品を次々と発表。89年(平成1)には満を持して刊行した私立探偵小説『氷の森』が一部読者の間で熱狂的支持を得る。
しかし大沢在昌の名を一般読者に知らしめたのは、体制に反逆する一匹狼の刑事をリアルに描き出した『新宿鮫』(1990。吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞)以降で、この作品により人気が沸騰し幅広い読者層を掴(つか)む。続編の『毒猿』(1991)も好評を博し、シリーズ第四作の『新宿鮫 無間(むげん)人形』(1993、のち改題『無間人形』)が第110回直木賞を受賞する。また近未来を舞台にした『B・D・T掟(おきて)の街』(1993)、『天使の牙』(1995)などSF的な設定の作品も発表、現状に甘んじることなく、常に挑戦していくところに、大沢在昌の作家としての姿勢の一端がうかがわれる。さらに佐久間公を10年ぶりに復活させた『雪蛍』(1996)では40代になった探偵に作者自身のハードボイルド観を語らせ、次いで発表した『心では重すぎる』(2000)ではそれをもう一段階発展させる意欲も見せた。
私立探偵という存在は、事件の依頼があって初めて行動する。多くの場合は失踪人捜査となるが、それまではいかなる面識も関係もなかった人物およびその家族たちと、調査を依頼された時点で初めて出会うのだ。そういう意味では探偵はあくまで第三者でしかありえず、ビジネスライクな関係となるはずなのだが、実はそうはならないところに私立探偵小説の難しさがある。というのも、捜査を進めていくうちに、どうしても関係者たちのプライバシーにも踏み込んでいかなければならない場合があることに気づくのだ。それでいながら、あくまで探偵は傍観者=第三者の立場にいなければならない。仕事とはいえ、これほど矛盾に満ちた状況もない。大沢在昌は、そこで「探偵とは職業ではない。生き方だ」とする私立探偵観を打ち出したのだった。そんな大沢在昌の主張に同調する者は多く、もはや若手というよりも日本のハードボイルド界のリーダー的存在であり、重鎮としての存在意義のほうが大きい。
[関口苑生]
『『心では重すぎる』(2000・文芸春秋)』▽『『感傷の街角』『標的走路』(双葉文庫)』▽『『アルバイト探偵』『氷の森』『雪蛍』(講談社文庫)』▽『『深夜曲馬団』(ケイブンシャ文庫)』▽『『新宿鮫』『毒猿』『無間人形』(光文社文庫)』▽『『天使の牙』『漂泊の街角』『追跡者の血統』『B・D・T掟の街』(角川文庫)』▽『『標的はひとり』(カドカワノベルズ)』▽『『野獣駆けろ』(講談社ノベルス)』▽『『風化水脈』(カッパ・ノベルス)』
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
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