天衣紛上野初花(読み)クモニマゴウウエノノハツハナ

デジタル大辞泉 「天衣紛上野初花」の意味・読み・例文・類語

くもにまごううえののはつはな〔くもにまがふうへののはつはな〕【天衣紛上野初花】

歌舞伎狂言世話物。7幕。河竹黙阿弥作。明治14年(1881)東京新富座初演。2世松林伯円しょうりんはくえん講談天保六花撰てんぽうろっかせん」の脚色で、河内山宗俊こうちやまそうしゅんのくだりと、三千歳みちとせ直侍なおざむらいのくだりが個別に上演されるが、後者は、ふつう「雪暮夜入谷畦道ゆきのゆうべいりやのあぜみち」の外題を用いる。通称河内山」「河内山と直侍」。

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精選版 日本国語大辞典 「天衣紛上野初花」の意味・読み・例文・類語

くもにまごううえののはつはなくもにまがふうへののはつはな【天衣紛上野初花】

  1. 歌舞伎。世話物。七幕。河竹黙阿彌作。明治一四年(一八八一)東京新富座初演。松林伯円の講談「天保六花撰」よりの脚色で、河内山宗俊の松江家乗込みや、片岡直次郎と大口屋三千歳(みちとせ)入谷の寮での色模様が中心になる。通称「河内山と直侍(なおざむらい)」。

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改訂新版 世界大百科事典 「天衣紛上野初花」の意味・わかりやすい解説

天衣紛上野初花 (くもにまごううえののはつはな)

歌舞伎狂言。世話物。7幕。河竹黙阿弥作。1881年3月東京新富座初演。別名題《三幅対上野風景》。通称《河内山と直侍》。配役は河内山宗俊を9世市川団十郎,片岡直次郎を5世尾上菊五郎,金子市之丞・比企東左衛門を初世市川左団次,筆職人寺田幸兵衛・高木小左衛門を中村宗十郎,松江出雲守・手代半七を坂東家橘(14世市村羽左衛門),暗闇の丑松・宮崎数馬を5世市川小団次,按摩丈賀を尾上梅五郎(のちの4世尾上松助),三千歳・腰元浪路を8世岩井半四郎ほか。松林伯円の講談《天保六花撰》の脚色で,すでに7年前に《雲上野三衣策前(さんえのさくまえ)》として東京河原崎座で上演しているが,改めて大一座のために書き直したものである。

 剣術指南の金子市之丞が湯島天神の境内で撃剣大会を開く。下谷の遊び人暗闇の丑松がそれに難くせをつけけんかとなる。その仲裁をしたのがお数寄屋坊主の河内山宗俊であった。宗俊はその後質屋の上州屋で桑の木の木刀で五十両貸せとゆすりに行く。このとき,松江侯へ奉公に上がっている上州屋の娘浪路が殿の妾となれと言われ困っていると聞き,助けてやろうと手付の金百両を受け取る。宗俊は上野の法親王の使僧化け,弟分の直侍(片岡直次郎)を供侍に仕立て松江家上屋敷へ乗りこみ娘浪路を取り戻す。帰り際に北村大膳に正体を見破られるが,逆に凄みを利かせるので家老高木小左衛門は家名を傷つけまいと穏便に帰す。宗俊は松江侯を罵倒して引き揚げる。直次郎は吉原大口屋の三千歳と恋仲である。三千歳は直次郎のために百両の金を貢ぐが,その金は金子市之丞が出したもので,返せなければ身請けをすると迫られる。直次郎は河内山から預かった百両を市之丞に渡して三千歳を救う。市之丞は直次郎を日本堤に待伏せするが,襲った駕籠には宗俊が乗っていて果たせない。直次郎は,旗本比企(ひき)東左衛門邸の蔭富(かげとみ)(賭博の一種)で,島屋の手代が取られた二百両を奪い返したことからお尋ね者として追われる身となる。入谷の蕎麦(そば)屋で三千歳が近くの大口屋の寮で養生していると聞き,三千歳と別れに寮へ行く。市之丞が現れ,直次郎を罵ったあげく,三千歳の年季証文を投げつけて去る。市之丞こそ三千歳の兄であることが後にわかる。暗闇の丑松の密告で捕手が迫り,直次郎はのがれるが結局は自首する。のち宗俊の申し開きによって直次郎は出獄することになる。

 〈宗俊〉のくだりと〈三千歳直侍〉のくだりとを中心として,一方は大名を相手取って啖呵をきる痛快な場面,一方は入谷の蕎麦屋から大口屋の寮まで(この部分を独立させて《雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)》の名題で上演する),清元の名曲《忍逢春雪解(しのびあうはるのゆきどけ)》(通称《三千歳》,2世清元梅吉作曲,4世清元延寿太夫初演)を用いた情緒豊かな部分とが傑出している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「天衣紛上野初花」の意味・わかりやすい解説

天衣紛上野初花
くもにまごううえののはつはな

歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。7幕。河竹黙阿弥(もくあみ)作。通称「河内山(こうちやま)」「直侍(なおざむらい)」。1881年(明治14年)3月、東京・新富座で9世市川団十郎の河内山宗俊(そうしゅん)、5世尾上(おのえ)菊五郎の片岡直次郎、8世岩井半四郎の大口屋三千歳(おおぐちやみちとせ)・腰元浪路(なみじ)、初世市川左団次の金子市之丞(いちのじょう)らにより初演。松林伯円(しょうりんはくえん)の講談『天保六花撰(てんぽうろっかせん)』を脚色、作者が1874年に書いた『雲上野三衣策前(くものうえのさんえのさくまえ)』を増補改訂したもの。

 お数寄屋(すきや)坊主の河内山は、松江出雲守(いずものかみ)に軟禁された腰元浪路を救うため、上野の宮(みや)家の使僧に化けて乗り込み、まんまと浪路を取り戻しての帰りがけ、玄関先で北村大膳(きたむらだいぜん)に見破られるが、逆に居直って相手を脅し、家老高木小左衛門(こざえもん)の計らいで無事に立ち帰る。一方、御家人くずれの直侍こと片岡直次郎は、旗本比企東左衛門(ひきとうざえもん)の蔭富(かげとみ)(富籤(とみくじ)を利用した博打(ばくち))を暴き、金を巻き上げたことからお尋ね者になり、江戸を去る前に愛人の三千歳と入谷の寮で別れを惜しみ、恋敵(こいがたき)の剣客金子市之丞の情けで三千歳を請け出すことができるが、弟分暗闇(くらやみ)の丑松(うしまつ)の密告により捕手に追われ、雪の中を逃げてゆく。

 明治歌舞伎の全盛期を飾る名優ぞろいの一座にはめた代表作で、とくに三幕目「松江邸」の玄関先で河内山が啖呵(たんか)を切る場面が眼目。直侍が三千歳を訪ねる六幕目は、江戸の世相を活写した「そば屋」から、清元(きよもと)『忍逢春雪解(しのびおうはるのゆきどけ)』(通称「三千歳」)を使って色模様を展開する「大口屋寮」にかけ、作者の詩情を発揮する箇所で、『雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)』の名題(なだい)で独立して上演することも多い。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「天衣紛上野初花」の意味・わかりやすい解説

天衣紛上野初花
くもにまごううえののはつはな

歌舞伎狂言。世話物。河竹黙阿弥作。 1881年3月東京新富座初演。7幕 21場。2世松林伯円の講談『天保六花撰』を脚色したもの。質店上州屋の娘のお藤が松江侯の妾に強請されるのを聞いた御数寄屋坊主の河内山宗俊が,上野の宮のにせ使僧となって,直次郎 (直侍) を供に仕立てて乗込み,娘を取戻したうえ大金をせしめる3幕目の「松江侯邸の場」と,吉原大口屋の遊女三千歳 (みちとせ) と直侍の情話を扱った6幕目の「入谷大口屋寮の場」が名高い。同場に用いられる清元の『忍逢春雪解 (しのびあうはるのゆきどけ) 』は,俗に『三千歳』といわれる名曲。

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百科事典マイペディア 「天衣紛上野初花」の意味・わかりやすい解説

天衣紛上野初花【くもにまごううえののはつはな】

河竹黙阿弥作の歌舞伎劇。通称〈河内山(こうちやま)〉。1881年初演。松林伯円の講談《天保六花撰》を脚色。侠気(きょうき)あるお数寄屋坊主河内山が町家の娘を救うため,上野の宮の使僧に化け,直侍(なおざむらい)こと片岡直次郎を家来にして大名の邸に乗り込む〈松江邸〉のほか,直侍と遊女三千歳(みちとせ)の情話を描いた〈そば屋〉〈入谷の寮〉の段が有名。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「天衣紛上野初花」の解説

天衣紛上野初花
くもにまごう うえののはつはな, くもいにまごう うえののはつはな

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
河竹新七(2代)
初演
明治14.3(東京・新富座)

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世界大百科事典(旧版)内の天衣紛上野初花の言及

【天保六花撰物】より

…河内山は質屋上州屋の娘が松江侯の妾に望まれて困っていると知り,上野の使僧に化けて松江の邸へ乗り込み娘を取り戻し,その礼金を直次郎に渡す。これを改作したのが1881年3月新富座上演の《天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)》で,この作では金子市之丞のくだり,直次郎と三千歳の情話をからませた。新作として1934年6月東京劇場初演の長谷川伸作《暗闇の丑松》,同年12月東京劇場初演のやはり長谷川伸作《金子市之丞》がある。…

【三千歳】より

…1881年3月,5世尾上菊五郎,8世岩井半四郎ほかで東京新富座初演。《天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)》の6幕目〈大口屋寮の場〉の狂言浄瑠璃。大口屋の寮に出養生にきているおいらんの三千歳のもとへ,お尋ね者になった片岡直次郎が高飛びをする前に最後の別れに雪の中を忍んでくる。…

※「天衣紛上野初花」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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