精選版 日本国語大辞典 「天邪鬼」の意味・読み・例文・類語
あまん‐じゃこ【天邪鬼】
あまん‐じゃく【天邪鬼】
- 〘 名詞 〙 「あまのじゃく(天邪鬼)」の変化した語。
- [初出の実例]「そのあまんじゃくの剣のありかは」(出典:歌舞伎・松竹梅湯島掛額(お七吉三)(1856))
昔話や伝説に登場してくる想像上の悪者。妖怪(ようかい)とも精霊とも決めがたい。他人の心中を察することが巧みで、口まね、物まねなどして、人の意図に逆らったり、すなおでないのだが、屈服されたりもする。昔話「瓜子姫(うりこひめ)」では、姫を誘拐し着物を脱がせて木に縛り、姫に化けて嫁入りしようとしたりする。この悪者を山姥(やまんば)に変えている地方(栃木、富山、岐阜県)もあって、天邪鬼が山へ逃げる結末の型に重ねて、山の妖怪と考える伝承もあったと思われる。秋田、群馬県では口まねから山彦(やまびこ)の異名になっているが、岩手県遠野(とおの)地方では炉の灰の中にいる妖怪とされる。『日葡(にっぽ)辞書』では「アマノザコAmanozaco――ものをいうといわれる獣(けだもの)の名。また出しゃばって口数の多い者」とあり、東日本で娘をばかにしていう呼び名と同じ系統を引く意味であろう。
そのほかに種々の型があって、赤い根の穀物、菜類は、人間にはもったいないと天邪鬼が手でしごいたから赤いのだという伝説や、一年中温和の気候に逆らって夏や冬を設けたとか、橋や池の土木工事のじゃまをした、といった伝承もある。『日本書紀』天孫降臨神話に天稚彦(あめのわかひこ)に仕えていた天探女(あまのさぐめ)は、『万葉集』『摂津逸文風土記(せっついつぶんふどき)』にもあって、天逆女(あまのさかめ)とする説もあり、関連のある女神であろう。
[渡邊昭五]
仏教では、海若、耐董とも書き、天(あま)の邪古(ざこ)ともいう。仏教守護の神々である四天王の一の毘沙門天(びしゃもんてん)の鎧(よろい)の腹部にある鬼面の名を海若(あまのじゃく)(別名は河伯(かはく))といい、のちにはこの神が足下に踏みつけている小悪鬼を耐董と書き、「あまのじゃく」とよぶようになった。毘沙門天はもとインドのベーダ時代(紀元前1500年前後)以来の古い神で北方守護神であったが、仏教に取り入れられて、四天王の一となった。その像容は、身に甲冑(かっちゅう)をつけ、左手のひらに宝塔を掲げ、右手に宝棒をとるのが一般的であるが、腹部に鬼面がつけられるようになった経緯は明らかではない。ただ、中国では9世紀ごろには毘沙門天は武道の神として崇拝されており、また海若とその別名河伯はともに『荘子(そうじ)』秋水篇(へん)にみえる水神の名であるところから、中国成立の可能性も考えられる。
[藤井教公]
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