金札ともいう。明治政府が1868年(明治1)閏4月19日発行を布告した不換紙幣(5月15日から発行)。日本最初の全国通用の政府紙幣。政府はこれを藩や人民に貸し下げ,産業を興す資金にしようとしたが,実際には,その約3分の2は財政が窮迫した政府の軍費や行政費の支出に用いられた。この発行は参与兼会計事務掛三岡八郎(福井藩士,のち由利公正と改称)の建議に基づいている。当時政府の信用は弱く,しかも次々に増発したので正貨より低価でしか通用せず,当初は流通しない地域もあった。また製造が粗末なため,国内や清国で偽造された贋札(にせさつ)があらわれ,さらに信用を落とした。10両,5両,1両,1分,1朱の5種の紙幣からなり,69年5月まで製造され,製造総額は4800万両にのぼった。1869年2月,政府は少額太政官札の不足を補うために新たに2分,1分,2朱,1朱札からなる民部省札を発行したが,廃藩置県で増大した経費支弁のため,民部省札と交換回収した太政官札をふたたび流通させたので,不換紙幣の流通量はさらに増加した。71年12月,政府はドイツに委託して製造させた精巧な新紙幣の発行を布告し,翌年2月から太政官札はじめ民部省札,各種藩札などとの交換を開始した。また73年3月,所持者の希望に応じ太政官札を公債に引き換えることとした(金札引換公債の発行)。これらの措置によって,太政官札は,79年10月すべて回収された。
執筆者:丹羽 邦男
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1868年(慶応4)5月、維新政府より発行された金札。政府紙幣の最初のもの。参与由利公正(ゆりきみまさ)の建議による。明治初年における政府の財政基盤の弱体化を克服するため、会計基立金300万両調達と並んで建議、裁可されたもので、十両、五両、一両、一分、一朱の5種からなる。戊辰(ぼしん)戦争の戦費調達とも重なり、正貨準備のない不換紙幣として68年末までに2800万両余も発行された。この放漫な紙幣発行は、政府信用の未成熟とも相まって、その流通を困難にし外交問題ともなった。発行総額は4800万両余で、79年(明治12)11月までにおもに新紙幣と交換、回収された。
[加藤幸三郎]
金札とも。明治政府が最初に発行した紙幣。当面する緊急の費用支弁のため,参与兼会計事務係三岡八郎(のちの由利公正)の建議により,1868年(明治元)閏4月に太政官札の発行を布告し翌月実施。商法司を通じて各方面に貸し付けられたが,当初政府の信用が薄かったため流通はきわめて困難だった。そこで政府は69年5月28日付で通用期限を従来の13カ年から5カ年に短縮,新貨幣鋳造のうえただちに兌換に応ずることを布告。太政官札は紙質脆弱で損傷が激しく,偽造・変造が頻々と現れたので,政府は72年2月から79年11月の間に新紙幣を発行,交換を図った。
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…【作道 洋太郎】
[近代日本の貨幣法制]
安政の開港により,日本へのメキシコ・ドルの流入と日本からの金貨の流出が激化し,貨幣制度は大混乱に陥った。明治新政府は,この混乱を静め,その経済基盤を確立するために,1868年太政官札(金札)の発行を布告したのを手はじめに,69年,民部省札,71年,大蔵省兌換証券,72年,新紙幣,開拓使兌換証券,81年,改造紙幣等々の紙幣を発行した。硬貨に関しては,当面,江戸時代の旧制によるとされたが,1869年以降,従来の四進法から十進法への変更,銀本位制ないしは金本位制の採用等々が種々検討された結果,71年の新貨条例により,金単本位制が採用されることとなった。…
…欧米で歴史上有名な政府紙幣の例は,フランス大革命のさいのアッシニャ紙幣(1789‐96),アメリカ南北戦争のさいのグリーンバックス紙幣(1862‐66),第1次大戦のさいのイギリスのカレンシー・ノートcurrency note(1914‐28)である。日本では江戸時代の藩札,明治維新政府発行の太政官札,民部省札,開拓使証券などがその代表的な例であるが,比較的最近の例としては太平洋戦争中に補助貨の払底に対処して発行された小額紙幣,軍隊が占領地で軍費支弁のために発行した軍票がある。なお,明治初期の国立銀行紙幣は紙幣を呼称していても銀行券である。…
※「太政官札」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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