政府紙幣(読み)セイフシヘイ

デジタル大辞泉 「政府紙幣」の意味・読み・例文・類語

せいふ‐しへい【政府紙幣】

中央銀行発行する通常の紙幣とは別に、政府が発行する紙幣。
[補説]政府紙幣については、国債残高を増やさずに政府の財源が確保できるという肯定的な見方がある一方で、市中から還流した政府紙幣を政府が回収する場合、新規の国債発行が必要となり、日銀に保有させ続ける場合、結果として日銀が無利子の国債を引き受けるのと同じことになり財政法に抵触するとの見方もある。また、巨額の政府紙幣が供給されると、通貨信用が低下し、過度のインフレ円安を招く可能性も指摘されている。平成21年(2009)に景気浮揚策の一つとして自民党内で政府紙幣発行の構想が浮上した。→無利子国債

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「政府紙幣」の意味・読み・例文・類語

せいふ‐しへい【政府紙幣】

  1. 〘 名詞 〙 政府が直接発行する紙幣。補助貨幣の欠乏、財政難の際の資金調達などの目的のために発行される。兌換(だかん)紙幣と不換紙幣とに分けられる。〔最新現代語辞典(1933)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

知恵蔵 「政府紙幣」の解説

政府紙幣

日本銀行が発行する紙幣とは別に、政府が独自で発行する紙幣のこと。
現在、日本国内で流通している一万円券、五千円券、二千円券、千円券の紙幣(正式名称は「日本銀行券」)は、日本銀行法に基づき日本銀行が発行する法定通貨である。また、硬貨(500円、100円、50円、10円、5円、1円)は補助貨幣と呼ばれ、政府が製造・発行する。記念硬貨も、政府が製造・発行する補助貨幣となる。一方、政府紙幣は、日本銀行ではなく政府が発行するが、日本銀行券と同じ価値を持つ新しい紙幣になる。
日本では、明治維新後に明治政府が政府紙幣を発行していたが、1882(明治15)年の日銀の設立後は発行されていない。海外では、南北戦争下のアメリカ合衆国で第16代大統領リンカーンが発行したほか、第35代大統領ケネディが発行したが、両者とも暗殺され、その時点で発行は中止・回収されている。香港では中華人民共和国香港特別行政区が法定通貨を発行しているが、10香港ドル紙幣だけは香港特別行政区政府が発行する政府紙幣である。それ以外の国でも、戦時下に軍票という形の政府紙幣が発行されたが、現在はほとんどの国で発行されていない。
だが、長引く不況深刻化の危惧されるデフレ経済、増え続ける国債を解消することがねらいで、政府紙幣を発行する声が上がってきている。デフレで物価が下がり、物価が安いために物が売れても収益が出ず、企業は従業員の給料を減らす。その結果、ますます物を買わなくなるというデフレスパイラルを、市場に流通する通貨の量を増やすことで解消しようというわけだ。
ただし、通貨の量が増えることはインフレを引き起こす危険性もはらんでおり、政府紙幣の発行には慎重な対応が求められる。ジンバブエは1年間で物価が22000倍になるというハイパーインフレを、ロシアは、1年間で物価が70倍になるというインフレを経験している。

(金廻寿美子 ライター / 2009年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

百科事典マイペディア 「政府紙幣」の意味・わかりやすい解説

政府紙幣【せいふしへい】

政府によって法貨として規定され,強制通用力を与えられた紙幣。政府が財政支出をまかなうために払い出すことによって流通に入り込み,一般に不換紙幣である。銀行券と違い,生産物の生産に直接見合うものではなく,自動的に回収されないのでインフレーションの発生と結びつくことが多い。
→関連項目通貨名目貨幣

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「政府紙幣」の意味・わかりやすい解説

政府紙幣
せいふしへい
government note 英語
Staatspapiergeld ドイツ語

政府が直接発行する紙幣。強制通用力が付与されている。正貨と兌換(だかん)されるか否かで兌換紙幣と不換紙幣とに区分されるが、多くは後者である。単に紙幣または不換紙幣ともいわれる。

[齊藤 正]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の政府紙幣の言及

【貨幣】より

…このことは,後に述べるように,貨幣の制度が発展した現代の経済においてもまったく同様にあてはまることである。 貨幣経済の発達は,商品貨幣から,銀行券,政府紙幣のようなそれ自体の使用価値はほとんどまったく存在しない表券貨幣へという移行を伴っているが,この表券貨幣が貨幣として流通しうるのも,上に述べた信認が存在するからである。表券貨幣に対するこの信認を維持するためのくふうとしてとられたのが,表券貨幣の裏づけとして,商品貨幣を位置づけるという本位制度であった。…

【銀行券】より

…他のヨーロッパ諸国もおおむね同じ推移をたどった。このように銀行券は,個々の銀行から中央銀行へと発行主体が変化したが,その信用供与を見返りに発行される点では共通であり,おもに政府財政の赤字補塡(ほてん)のために発行された政府紙幣とは基本的に異なる。 金本位制のもとでは銀行券は金貨と兌換(だかん)されるので,この兌換銀行券は金貨と同価値物である。…

【紙幣】より

…貨幣ないし現金通貨について,その素材が金属か紙かによって鋳貨(硬貨)と紙幣に分類する見方がある。この分類によると,紙幣は広義に解されて,政府の発行する政府紙幣(狭義の紙幣)と銀行券(現在は中央銀行の発行する中央銀行券)が含まれる。しかしこの解釈は正確ではなく,政府紙幣と銀行券とは厳密に区分し,たんに紙幣というときには政府紙幣に限定するのがむしろ通説となっている。…

【兌換券】より

本位貨幣(または正貨)との兌換が保証されている銀行券,正しくは兌換銀行券といい,兌換が停止された不換銀行券に対立する用語。政府紙幣も金貨兌換の約束で発行された場合もあったが,結果的に兌換が行われた場合はきわめて少なく,兌換券には政府紙幣を含めないのが通説である。兌換銀行券は金貨本位制下の中央銀行によって発行され,金貨との自由兌換が保証されることによって金貨に代わって流通し,金貨本位制の機能を維持していた。…

【不換紙幣】より

本位貨幣(または正貨)との兌換(だかん)が保証されていない紙幣(正確には政府紙幣)のことである。しかし現在政府紙幣は発行されておらず,いわゆる紙幣はすべてが日本銀行券である。…

※「政府紙幣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android