召使い(読み)めしつかい

精選版 日本国語大辞典 「召使い」の意味・読み・例文・類語

めし‐つかい‥つかひ【召使・召仕】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 禁中に召されて使われた身分の低い官人。宮中・太政官で雑用にあたった卑官。
    1. [初出の実例]「凡太政官召使者、毎月朔日、十六日、当番人正身参省」(出典:延喜式(927)一八)
    2. 「あくるまでもこころみむとしつれど、とみなるめしつかひの来あひたりつればなん」(出典:蜻蛉日記(974頃)上)
  3. 雑用にあたらせる奉公人。下男、下女の類。
    1. [初出の実例]「一人ふたり、召仕を伴ひ」(出典:浮世草子・好色一代男(1682)二)

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改訂新版 世界大百科事典 「召使い」の意味・わかりやすい解説

召使 (めしつかい)

一般には,宮中に召されて使われた身分の低い官人や下男,下女などの奉公人を指すが,ここではヨーロッパことにイギリスの,家事労働に従事する使用人servantとしての召使を扱う。日本では,その存在形態が多様で一概には論じられないが,〈下人(げにん)〉の項目を参照されたい。

 歴史的には,古代では奴隷が,中世荘園制では農奴が召使の役割を果たしたが,農奴制の消滅につれて,戸内戸外の家事労働に従事し,その代償として賃金を取得する家事使用人が現れた。中世の富裕な家族の主婦は,召使を公正に扱うとともに,彼らを常時働かせておくよう監督することが求められた。だが,四旬節の第4日曜日(マザリング・サンデー)には,贈物を携えて親元に帰る習慣が召使に認められていた。また休日には,女子の召使が,夕べの祈りのあと,主人の面前タンバリンに合わせて踊り,最上の踊手に花輪が与えられるという慣行もあった。他方,召使に対する罰として笞刑(ちけい)の慣行が長く続けられた。中世の富裕な家族では,自分たちの子どもを召使として他家貴族の家庭に見習い修業に出すこともあった。

 スチュアート朝時代(1603-1714)のイギリスでは,4分の1から3分の1の家族が家事使用人を雇用し,1690年代のロンドンの富裕な教区では住民の3分の1近くが召使であった。田舎出の少年,少女は通常10~12歳,ときには8~9歳ごろから家事奉公に入るために家を離れた。彼らは普通,秋に開かれる〈モップ・フェア〉と呼ばれる市(いち)で雇われ,その給金治安判事によって定められた。この市では職を求める人々が自分の職種を示す目印を持って集まったが,女の召使はモップや白いエプロンを目印とした。彼らは,結婚するまで,その主家の家族同然の存在として奉公生活にとどまった。18世紀のイギリスにおける上流中流階級の繁栄とその増大は,それらの家族においてより多くの家事使用人の雇用を可能とし,人口の約10~15%が家事奉公に従事していた。家令,執事,馬丁,御者などの男子使用人は制服を着用したが,女子には19世紀に入るまでこの慣行はなかった。

 工業化が最も早く始まったイギリスでは,ビクトリア時代の繁栄と生活水準の上昇とともに,ますます多くの中産階級家庭が家事使用人を雇う傾向を示すようになった。その現象は,経済的,社会的に上昇する中産階級が,そのステータス・シンボルとして最低1名の住込みの家事使用人を求めたこと,また,家事労働に従事しない〈有閑女性〉というあり方が中産階級の主婦のステータス・シンボルとなったため,家政運営上,実際に家事使用人の労働力を必要としたことによる。それとともに,18世紀までは家事奉公は女だけでなく男にとっても重要な職業であったが,19世紀に入ると男子使用人は減り,逆に女子使用人が増える傾向を示した。その変化は,工業化の進行に伴い,産業上の職業領域での男子労働力の需要の増大によって,男子家事使用人の賃金が上昇したこと,また男子雇用に対し雇主に高い税金が課されたことによる。1851年には10歳以上の女性の9人に1人が家事使用人であった。その職種は,台所女中にはじまり,パーラーメイド,ハウスメイド,子守り女中,女主人付き侍女,料理人などと分化し,かつ序列づけられ,最上のポストは家政婦であった。だが,中産階級の下層では,1人で何もかもやる雑働き女中(ジェネラル・サーバント)が雇われた。このころには女子使用人の制服着用が慣行となる。19世紀に家事使用人となった下層階級の女性と中産階級の生活との接触は,結果として中産階級の文化を広める効果をもった。また家事奉公に従事しながら読み書きその他の技能を身につけることができたので,公教育の機能を補完する意味ももった。イギリス以外の19世紀西ヨーロッパにおいても,都市の女性の主たる職業の一つは召使であり,彼らを規制する法律が制定されることもあった。ウィーンの奉公人令(1810公布)では,奉公人の求人・求職業務は警察が管轄し,奉公人の盗みや主人への多大な迷惑などに対する厳しい罰則,転職にあたって必要とされた人物証明書などの規制が設けられた。

 19世紀末から20世紀初頭にかけて,イギリスにおいて家事使用人総数は150万人近くに増大し,最大の職業グループを形成するようになった。だが,それ以後は急速に減少し,1930年代には半減する。この変化は,労働界の変化,ことに第1次大戦での男子労働力の出兵で労働市場に空白ができ,その結果女子労働力が産業資本の再生産構造の中に編入されるようになったことによる。第1次大戦ころを境に,女子の職業領域が拡大するとともに,家事使用人数が減少する傾向は,ヨーロッパの資本主義社会に共通してみられる現象である。イギリスでは1951年に,会社勤めの女性総数が,20世紀初めの家事使用人総数とほぼ等しくなった。また第2次大戦後は,中産階級家庭での家事手伝いはオーペアなどにより補われるようになった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の召使いの言及

【イギリス】より

…ジェントルマンを育成するパブリック・スクールが数多く開校されたのもこのころである。田舎に土地や邸宅を買ったり,息子をパブリック・スクールに入れるほどの財力のない人たちは,その財力に応じてジェントルマンを象徴する事物,たとえば自家用馬車を購入したり,召使いを雇ったりした。とくに召使いの雇用は,この繁栄の時代以降,19世紀イギリス中流階級の一習俗となったが,主人と召使いの主従関係を各家庭内に持ち込み,その結果,ジェントルマン化というよりはむしろスノッバリー(俗物根性。…

※「召使い」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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