夷堅志(読み)いけんし(その他表記)Yí jiān zhì

精選版 日本国語大辞典 「夷堅志」の意味・読み・例文・類語

いけんし【夷堅志】

  1. 奇談集。中国南宋洪邁(こうまい)編著もとは四二〇巻あったが散逸し、現在は二〇〇巻たらずが残っている。官吏として各地を歩く間に見聞した奇風や怪事を集成したもので、宋代の民衆生活の状況がうかがえる貴重な文献であり、後世小説多く材料を提供した。

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改訂新版 世界大百科事典 「夷堅志」の意味・わかりやすい解説

夷堅志 (いけんし)
Yí jiān zhì

中国,南宋の洪邁(こうまい)(1123-1202)編。《列子》湯問篇の〈大禹は行きて之(これ)を見,伯益は知りて之を名づけ,夷堅は聞きて之を志(しる)す〉の句に基づき,伝聞の異事を集録して唐の張慎素にすでに《夷堅録》の著があった。洪邁はこれにならって北宋末から南宋初の約100年間の民間雑事を32集420巻に編集し随時に出版した。巻帙(かんちつ)の浩漫なること北宋初期の勅撰書《太平広記》500巻と並んで小説家類の双璧と称せられるが,100年間の事項6000項目という密度の高さは社会文化史の資料としてはるかに《太平広記》を凌駕する価値を持つ。しかしこの浩繁さが災いして完本復刻をはばみ,わずかに数種の新編節用本で刊行されたにすぎず,したがって元朝以後はこれら節用本もしくは原刻の残欠本,抄本の形で流伝した。1927年,商務印書館より刊行された張元済の輯本(しゆうほん)《夷堅志》は伝来本を総合し,現今最良の刊本である。なお金の元好問に《続夷堅志》4巻,元の無名氏に《夷堅続志》5巻があるが,いずれも洪邁にならったものである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「夷堅志」の意味・わかりやすい解説

夷堅志
いけんし
Yi-jian-zhi; I-chien-chih

中国,宋の説話集。南宋の洪邁 (こうまい) の撰。もと 420巻,現存は約 200巻。慶元4 (1198) 年頃成立。著者が各地に任官,または旅行の間に見聞した,宋初からの民間に伝わる珍談,奇談,怪談の類を記録風に綴ったもの。「小説の淵海」と称せられ,正式の史書にはみられない宋代の社会,民衆の生活,風俗などをうかがうことのできる貴重な史料。

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