婿いじめ(読み)むこいじめ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「婿いじめ」の意味・わかりやすい解説

婿いじめ
むこいじめ

婿に加えられる「いじめ」をさし、新婚の夫(おっと)すべてに対するものと、養子婿に対するものとがある。前者は、正月や祭礼その他の機会に、大盛りの飯をむりやり食べさせたり、水を浴びせたり泥をかけたりする行事が各地にある。後者は、村の統制に従わせるために試練を課すもので、祭りのときに重い太鼓を担がせるとか、年長であっても下働きをさせるとかのことがある。階級社会ではひとりひとりに序列があり、同等の身分のなかでは年齢序列が守られてきたが、養子婿や嫁は他から参入した者として、以前は序列の下位に組み込まれた。ただし「いじめ」の内容は漠然としており、通過儀礼のなかで次の段階に移行するための再生呪術(じゅじゅつ)の変化したものや、他人の幸福への「やっかみ」なども含まれている。

[井之口章次]

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改訂新版 世界大百科事典 「婿いじめ」の意味・わかりやすい解説

婿いじめ (むこいじめ)

婚姻儀礼過程婿に加えられる悪戯。この悪戯は婚礼後の年中行事の中でも行われ,婿のみでなく嫁にも加える地域がある。全国的な風習である水祝は,初婿入りや嫁入行列,小正月のおりなどに婿や嫁に若者たちが水をかけることで,婿逃げのときに水かけをする地域もある。水以外に泥,土,雪,松葉などを投げたり,婿の顔に墨つけをしたり,食膳に仕掛けをするというようにさまざまの方法で困らせた。ことに村外から婿や嫁をもらうとき,村外へ嫁に行くときなどに行われることが多く,若者から酒を強要されることもあった。かつて地域内婚規制が強く配偶者の選択に自主性が重んじられた地域では,婚姻に若者たちが大きく関与していた。こうした若者たちの婚姻統制力はしだいに衰退するようになるが,なお若者たちの承認祝福に関する習俗が悪戯の婿いじめとして行われていると考えられている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「婿いじめ」の意味・わかりやすい解説

婿いじめ
むこいじめ

婚礼の際またはその後のなんらかの機会に,嫁方の村の者によって新婿に加えられる悪戯のこと。嫁入り行列に対してなされることもある。鍋墨を塗りつけたり,水を浴びせかけたり,婚礼の席に石地蔵などをかつぎ込んだりすることが多いが,これらは,古くは呪術的意味をもつ行為であった。また,祭礼や共同仕事などに際して,他村から来た新婿にことさら過酷な役目を負わせることは,村入り承認のために課す一種の試練であったと思われる。これらの悪戯はたいてい若者たちによってなされるが,若者組の婚姻統制力が弛緩して,次第に悪意に満ちたものとなったり,酒を強要する手段として用いられるようになったりして,近世以降たびたび禁令が出された。

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世界大百科事典(旧版)内の婿いじめの言及

【婚姻】より

…新郎は新婦の家に滞在して3日目に新婦を伴って自家に帰る〈新行〉の形式が一般的である。その間新婦の家では,村の若者たちが訪れて来て新郎といっしょに酒を飲みながら,〈東床礼〉と称して難問をつきつけて戯れに新郎をせめたりする婿いじめの習俗があった。新婦は輿に乗って一行とともに婚家に着くと盛大なもてなしを受け,新婦の側でも携行した酒果を献じて婚家の両親,近親者に拝礼の挨拶をする。…

※「婿いじめ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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