菌類の胞子形成体をいうが、その構造には分化(形態的・機能的な特異性)がみられる。担子菌類と子嚢(しのう)菌類の比較的大きい子実体は、いわゆるキノコとよばれているものである。子実体は有機物を含む基物、あるいはその付近に生じ、地上や地中にも形成される。以下、子実体の構造について述べる。
(1)担子菌類では、担子胞子から生じた単相菌糸が和合性のある単相菌糸と接合し、細胞に2核を含む重相菌糸となり、この重相菌糸、または重相菌糸からなる菌糸束、あるいは菌核上に子実体が形成されていく。まず、環境の変化が刺激となって微小な菌糸塊(子実体原基)が形成され、やがて原基の成長に伴って細胞が分化し、いろいろの組織からなる子実体ができる。子実体の特定の部分(シイタケなどの場合は傘の裏のひだの表面)に並ぶ担子器細胞内では、2核の癒合と減数分裂が行われ、これから生じた四つの核はそれぞれ担子器の先端上にできる四担子胞子の核となる。
(2)チャワンタケ類のような子嚢菌類の子実体原基は、和合性のある2種類の単相菌糸相互の性的刺激によって形成されていく。原基内で接合が行われて重相菌糸(造嚢糸)が生じると、その先にできた子嚢細胞内で核癒合と減数分裂に続く核分裂が行われる。こうして生じた八つの核はそれぞれ子嚢内にできる八つの子嚢胞子の核となる。造嚢糸は単相菌糸に養われ、単相菌糸は造嚢糸とともに菌糸組織をつくって子実体を形成する。
(3)接合菌類では、アツギケカビ類だけが子実体を地中に形成する。この子実体は直径数センチメートル以内の塊状で、その菌糸組織内に厚壁胞子、胞子嚢または接合胞子を含んでいる。
(4)変形菌類には菌糸体がなく、多核を含む変形体が子実体を形成する。このうち、ツノホコリカビ類は高さ1センチメートル以内の柱状、樹状などの子実体の表面に休眠胞子を生ずる(裸実子実体)が、その他の変形菌類の場合は内部に胞子をつくる(被実子実体)。被実子実体には塊状のものもあれば、ムラサキホコリカビなどのように柄(え)のある胞子嚢が共通の基盤上に密生するものもある。
(5)細胞粘菌類では、単細胞体が密集して移動する偽(ぎ)変形体によって子実体が形成される。タマホコリカビなどの子実体は、高さ3センチメートル以内の柄とその先の休眠胞子塊からなるが、単細胞体が積み重なってできたものであるため、累積子実体といわれる。
(6)粘液細菌類の場合も、偽変形体から種々の形の子実体が形成される。複雑なものになると、分岐した柄の先に膜で包まれた休眠胞子塊を多数生ずるが、全体の高さは1センチメートルの数分の1程度である。
[寺川博典]
担胞子体sporophoreともいう。菌類において,胞子が形成される部分が集合して塊状となったもの。いわゆるキノコは大型でよく目だつ子実体である。
子囊菌類の子実体は子囊果ascocarpといい,一群の子囊を2核性の菌糸(造囊糸)と単相の菌糸が幾重にもとりまいた構造をなしている。子囊果の形は球状で閉鎖しているもの,球状ないしフラスコ状で開口しているもの,盤状ないし杯状で子囊の層が裸出しているものなどさまざまである。子囊果は一般に小型であるが,中にはオオチャワンタケやアミガサタケのようにキノコに含められる大型のものもある。
担子菌類の子実体は担子器果basidiocarpといい,2核性の菌糸(二次菌糸)が集合したものである。その菌糸の末端の細胞(担子器)で2核は融合し,その後に減数分裂を行って4核となり,それぞれが担子器に外生する4個の胞子(担子胞子)の核となる。担子器は多数集合して子実層をつくる。担子器果は一般に大型で,キノコと呼ばれるものが多い。形はさまざまであるが,マツタケ類では一般にかさ,ひだ,柄(茎)の3部分からなり,子実層はひだの表面に生じる。
変形菌類の子実体は,多数の複相の核をもつ裸の原形質(変形体)によってつくられ,その形状は多様である。また,細胞粘菌類の子実体は,互いに独立した単核のアメーバ状の細胞が集合することによって形成される。
執筆者:北川 尚史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…後者の場合,菌糸は常に1細胞列で,隔壁の中央に穴があって両隣の細胞は連絡し,その穴を通して物質の移動が行われる。担糸菌類では,各細胞に1個の核をもつ菌糸(一次菌糸)が異性の菌糸と接合するが,双方の菌糸に由来する2個の核はすぐには融合せず,それぞれが独立に分裂するため,2核をもつ菌糸(二次菌糸)が発達し,この二次菌糸が子実体(いわゆるキノコ)を形成する。菌糸の細胞壁の主成分は一般にキチンまたはヘミセルロース,あるいはその両者である。…
…単細胞のものは酵母で代表され,醸造その他の発酵工業に利用され,糸状のものはいわゆるカビと称され無数の胞子をつくり,この糸状細胞は菌糸hyphaと呼ばれる。菌糸が複雑に分化して大型化した構造は胞子形成に関連した器官で子実体fruit body,fructicationと呼ぶ。いわゆるキノコがこれにあたる。…
…菌類のうち,一般にキノコと称される菌類の大部分が含まれ,食用キノコや毒キノコ,また材木を侵す木材腐朽菌,有用農作物に寄生して被害を及ぼすクロボキン,サビキンなども含まれる。キノコの部分,すなわち子実体には担子柄とよばれる細胞ができ,この上に通常四つの胞子がつくられる。この子実体の色,形,構造,胞子のでき方,形,色などいろいろな特徴で分類体系ができている。…
…色彩は白色,灰白色,黄色,褐色,赤色などさまざまで,大きさも顕微鏡的なものから1m2に達する巨大なものまである。腐朽した木材や落葉の上などをはい,栄養物を摂取しながら増大し,成熟すると子実体を形成する。また,不適当な環境下では硬直して休眠状態となるが,環境がよくなればふたたび粘質の変形体にもどる。…
…藻類の胞子体は糸状,軸状,葉状などで単純な構造であるが,コンブ類のように長さ50mにも達し,ある程度器官の分化が認められるものもある。菌類の子実体も胞子体の一部である。コケ植物では一般に小さく,体制も単純で,葉緑体を欠き,配偶体上に寄生する。…
※「子実体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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