「宇宙は一様で等方である」とする仮定で、宇宙論研究における一つの原理。宇宙が一様であるとは、宇宙のすべての場所で物質密度や温度などの物理量が同じ値であるということである。等方とは宇宙には特別な方向はないということである。たとえ宇宙が一様でも、もしある方向に物質の流れがあったり、電場や磁場がある方向に向いているなら、宇宙には特別な方向があることになり、等方ではない。
しかし、実際の宇宙は、きわめて希薄なガスしかない空間に恒星があり、恒星が集まって銀河を構成している。渦巻銀河では恒星は銀河面内で回転しており、特別な方向をもっている。さらに銀河は群れて銀河団を構成し、その銀河団が集まり蜂(はち)の巣構造をつくるなど、宇宙の大構造を形成している。したがって現実の宇宙は大構造のスケールまでをみると、宇宙原理は正しくない。しかし、これより大きなスケール、たとえば数億光年より大きいスケールで宇宙を平均してみるならば宇宙はほぼ一様等方であり、宇宙全体を対象として考える宇宙論の研究では宇宙原理は妥当な仮説である。
宇宙全体を対象としてその膨張や収縮構造の時間発展を知るためには、一般相対性理論の中核となる方程式、重力場の方程式(アインシュタイン方程式ともよばれる)を解かなければならない。
この方程式は、数学的には非線形テンソル方程式で一般的な解に導くことはむずかしい。しかし、この宇宙原理を採用すると、物質密度や空間の曲率など時空の幾何学をあらわす物理量は、場所によらなくなるので時間しか含まない簡単な方程式となる。
アインシュタインは1917年、宇宙原理をさらに拡張し、時間的にも一様という仮定、つまり宇宙は時間的には変化しないとしてこの方程式の解を求めようとした。しかし静的な宇宙は自身の重力で収縮してつぶれてしまい、永遠不変な解は存在しなかった。そこで彼は、空間それ自身が斥力をもち、押し広げる効果をもつ宇宙定数を重力場の方程式に加え、ちょうど物質に働く重力とつり合わせ、無理やり静的なモデルをつくりあげた。
一方1922年、ロシアのA・フリードマンは宇宙原理で簡単になった方程式を素直に解き、時間的に膨張したり収縮したりする宇宙の解を求めた。さらに、1927年ベルギーのG・ルメートルは、アインシュタインが自ら改竄(かいざん)した後の方程式を用いて宇宙が膨張する解を求めた。1929年にアメリカのE・ハッブルにより宇宙が膨張していることが発見され、フリードマンやルメートルの解が宇宙を正しく記述している解であることがわかったのである。1948年、彼らの解に基づきG・ガモフは宇宙は火の玉として始まったというビッグ・バン理論を提唱した。1965年にはこの火の玉の名残(なごり)である宇宙マイクロ波背景放射が発見された。宇宙が膨張したため、温度が絶対温度でおよそ3K(ケルビン)であるマイクロ波電波が、宇宙のあらゆる方向から高い精度で一様等方にやってくるのである。宇宙マイクロ波背景放射には10万分の1程度の温度のゆらぎがあるが、宇宙は全体としてみるならきわめて一様等方であることが観測的にもわかり、宇宙原理が正しいことが示された。
[佐藤勝彦 2017年5月19日]
(二間瀬敏史 東北大学大学院理学研究科教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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…現在一般に受け入れられている立場は,宇宙は一様かつ等方であって,その大局的な特徴は宇宙のどの場所で眺めても同じであるとするものである。この仮定は,イギリスのE.A.ミルンに従って宇宙原理と呼ばれている。この立場に立てば宇宙には中心とか端の区別はない。…
※「宇宙原理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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