宇宙法(読み)うちゅうほう(英語表記)space law

日本大百科全書(ニッポニカ) 「宇宙法」の意味・わかりやすい解説

宇宙法
うちゅうほう
space law

宇宙空間と天体および人間の宇宙活動を規律する法。広義では宇宙国際法同一。宇宙開発とともに生まれ、現在生成の過程にある。宇宙関係の諸条約と一般法である国際慣習法が法源となっている。宇宙法の内容としては、宇宙空間、天体、宇宙飛行体・宇宙基地の法的地位、宇宙活動の準則、天体資源と開発の規制、宇宙環境の保全のほか、宇宙活動の諸分野における個別的な法規制および国際協力とその組織化などの問題がある。1967年の宇宙条約は、最初の成文法としてこれらについて基本的な事項を定め、宇宙基本法となっている。

[池田文雄]

宇宙法発展の現状

宇宙法の発達には、国際連合が大きく貢献、国連の手で立法作業が続けられ、「宇宙条約」をはじめとする諸条約、協定、法原則などが制定されてきた。

 宇宙開発の実体面が、初期の探査目的から実用・商業目的へと移行するにつれ、宇宙法のほうも、初期の基本法整備の段階から、宇宙の利用秩序と利用組織を中心とする第二段階に入った。まず一般的な基本法である1967年の「宇宙条約」を補って、同条約の条項に直接に関連をもつ三つの条約協定が結ばれた。ついで「月協定」のほか、「直接放送衛星原則」「遠隔探査原則」「原子力衛星原則」などの国連決議を含む宇宙の利用秩序をおもな対象とする一群の条約協定ができた。これらと並んで各種の利用組織の設立協定が結ばれており、1988年には宇宙基地の建設運営にあたる「宇宙基地協力協定」が結ばれた。

[池田文雄]

宇宙条約の補足協定

(1)宇宙救助返還協定 宇宙飛行士の救助送還と宇宙物体の回収返還の詳細について定めたもので、1968年発効。宇宙機乗員が遭難したとき、条約当事国は打上げ国等に通報し、当事国の領域内に不時着したときは、当事国はなしうる限りの救援措置をとり、領域外に不時着したときは、当事国は捜索救助作業を援助する。救助した乗員は本国へ送還し、宇宙打上げ物体も回収、返還される。政府間国際機関は一定の条件のもとでこの協定上の権利義務を認められる。

(2)宇宙損害賠償条約 宇宙物体による損害の賠償について定めたもので、1972年発効。宇宙物体により生じた地上の損害、飛行中の航空機の損害について打上げ国は無過失責任を負う。免責事由を極度に制限し、賠償額に限度を設けず、賠償額算定の基準は国際法および正義と衡平の原則による。賠償請求処理のために請求処理委員会が設置されるが、その決定は勧告的であって拘束力をもたない。

(3)宇宙物体登録条約 宇宙物体の登録について定めたもので1976年発効。国内登録制度の整備、国連への情報提供、国連登録簿の公開等。

 日本は、以上3協定とも、1983年(昭和58)に国会で承認、批准し正式加盟国となった。

[池田文雄]

宇宙の利用秩序の諸協定

1979年、月の法的地位を定めるとともに、新たに月の天然資源の開発について大枠を定めた月協定が結ばれた。直接放送衛星について、ユネスコの「直接衛星放送利用のための指導原則宣言」と、国連決議による「直接放送衛星原則」(DBS原則)、宇宙空間からの地球の遠隔探査について、「遠隔探査原則」(RS原則)が定められた。さらに原子力衛星の安全利用・責任と賠償などについて、国連決議により「宇宙空間における原子力電源の利用に関する原則」が定められた。

[池田文雄]

利用組織の設立協定

宇宙開発の成果を経済的に利用するための組織に関する協定としては、衛星通信の分野における国際電気通信衛星機構(ITSO)、海上通信・航空・移動体通信の国際移動通信衛星機構IMSO)があげられる。次に地域協力の協定として、ヨーロッパ地域のヨーロッパ宇宙機関ESA)があり、最後にアメリカを一方の当事者とする2か国間協力の協定取決めがある。

[池田文雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「宇宙法」の意味・わかりやすい解説

宇宙法 (うちゅうほう)
the law of outer space

宇宙空間と天体は,地上の国家の領域的管轄権をこえた空間であり,国際法によって規律される。宇宙空間と天体ではいずれの国の領域権の設定と行使も禁止され,その利用のみが国際法の規律の下に認められる。この比較的新しい国際法の分野,すなわち,宇宙空間と天体の利用秩序と,そこでの人間の開発活動(宇宙開発)に関する主要原則を定めた法規範を宇宙法という。そのおもな内容は,宇宙空間と天体の法的地位,宇宙空間の法的境界,人工衛星などの宇宙物体に対する法的規制,宇宙開発に従事する国家の行為規範などである。

 1957年のソ連による最初の人工衛星の打上げ以後きわめて短時日のうちに,宇宙の探査,開発,利用の科学技術が急速に発達した。それと並行して,この時期に宇宙法制度が形成された。今日,宇宙法の基本原則は国際慣習法として一般に承認され,また後述する〈宇宙条約〉を中軸に一連の条約・協定が成立し,法の網の目がしだいに整備されているが,なお総体的に発達の過程にあるため,未成熟であり,流動的である(たとえば,宇宙空間の法的定義や宇宙空間と領空の間の法的境界は未決定のままである)。

 宇宙法の成立には国際連合が当初から重要な役割を果たした。はやくも58年には総会の下に宇宙空間平和利用委員会が設置され,宇宙空間の法律問題の立法化に努力したが,とくに宇宙法律小委員会が主としてその作業を担当した。63年,総会は同小委員会の作業を基礎に〈宇宙空間の探査および利用における国家活動を律する法原則の宣言〉を採択した。それは,宇宙法の基本原則として,(1)すべての国は,全人類の福祉と利益のために,宇宙空間の探査と利用を平等かつ自由に行うことができること(宇宙活動の自由),(2)宇宙空間と天体は,いかなる手段によっても,国家による取得の対象とされてはならないこと(宇宙の取得の禁止)の2原則を確認した。その後この基本原則を条約化する作業が進められ,66年の総会で〈宇宙条約〉(宇宙天体条約ともいわれる)が採択され,同条約は翌年に効力を発生した(日本も1967年批准)。

正式には〈月その他の天体を含む宇宙空間の探査および利用における国家活動を律する原則に関する条約〉であるが,この条約は,宇宙法の分野での最初の成文法であるとともに基本法としての性格ももつ。条約は先の宇宙活動の自由,宇宙の取得の禁止の原則のほかに,天体・宇宙空間の平和的利用を基本原則として定める。ただし平和利用原則について,条約は,月その他の天体の軍事利用を包括的に禁止したが,天体を除く宇宙空間については大量破壊兵器の設置以外の一般的な軍事利用を禁止していない。また,人工衛星などの宇宙物体は,打ち上げられている間,当該衛星を登録した打上げ国の管轄権に服する(旗国主義)。次に,私企業のような非政府団体の活動も含むすべての宇宙活動につき,国家のみが損害賠償責任を負い(国家への責任集中),さらに宇宙活動においては,他国の法益に妥当な考慮を払い,宇宙飛行士の救助や宇宙物体の返還などにつき国際協力をするものと定める。

 宇宙条約以後,その原則規定を具体的に実施するため,一連の条約と協定が宇宙空間平和利用委員会により作成され,成立した。68年の〈宇宙救助返還協定〉,72年の〈宇宙損害賠償条約〉,75年の〈宇宙物体登録条約〉,79年の〈月協定〉,88年の〈宇宙基地協定〉がそれである(いずれも略称)。そのほかに,1960年代以降実用化された宇宙通信に関して,国際電気通信連合(ITU)による新しい〈国際電気通信条約〉や,〈国際電気通信衛星機構(インテルサット)に関する協定〉などが締結されている。このような宇宙活動の活性化に伴い,宇宙条約を基本法とする一連の条約や協定により宇宙法制度がしだいに整備されつつあるが,同時に新しい問題も発生している。たとえば,衛星を利用した他国への直接放送や遠隔探査(リモート・センシング)に関する問題が,国連の宇宙空間平和利用委員会で継続的に審議されている。また,赤道上空の静止軌道は,その下に位置する国家から,それらの国の主権が及ぶ天然の資源であるという主張がなされ,〈宇宙空間の定義〉の問題が同じく国連の場において審議されている。さらに,原子力衛星の安全確保や宇宙活動の結果生じた残骸物(スペース・デブリ)など,宇宙法が対応を迫られる課題は多い。
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百科事典マイペディア 「宇宙法」の意味・わかりやすい解説

宇宙法【うちゅうほう】

地球以外の天体を含む宇宙空間における各国の活動を規律する国際法。宇宙空間,特に天体の領有を禁止し,大気圏外を広く人類のために平和的・国際的空間として確保しようとするもの。1957年ソ連の人工衛星打上げ成功以後,主に国連の場で議論され,宇宙空間平和利用委員会が設置された。1966年国連総会で採択された〈宇宙条約〉(日本は1967年に批准,1996年現在当事国90)がその一般法をなす。その後個別分野に関して〈宇宙損害責任条約〉(1972年),〈月条約〉(1979年,ただし日米ロは未加入),〈宇宙基地協定〉(1988年)などが締結された。なお,宇宙活動に関する私人の権利・義務を確定するための国内宇宙法を制定する国も増えてきている。
→関連項目衛星爆弾軍事衛星

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「宇宙法」の意味・わかりやすい解説

宇宙法
うちゅうほう
Space law

宇宙空間と天体および人間の宇宙活動を規律する国際法。宇宙空間,天体,宇宙飛行体の法的地位,宇宙活動の準則,天体開発の規制などを重要問題とする。国連総会決議に基づき,1967年に成立した宇宙条約を基本とする。その後,同条約の細目協定として 1968年に宇宙救助返還協定が,1972年に宇宙損害責任条約が,1976年に宇宙物体登録条約が,それぞれ発効した。これらは「宇宙3条約」と総称される。

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