聴神経腫瘍
ちょうしんけいしゅよう
Acoustic tumour
(耳の病気)
聴神経は脳から出る12対の神経のうちのひとつです。聴神経腫瘍はこの神経を取り巻いている鞘から発生する良性腫瘍で、脳腫瘍の約10%を占めます。前庭神経(めまいの神経)から腫瘍が発生することが多いのですが、前庭神経といっしょに脳から出る聴神経に障害が及び、難聴(聞こえの悪化)が生じることが多いのでこの名前がつけられています。
真の原因は明らかではありません。しかし聴神経腫瘍の特殊例として両側に腫瘍が生じることがあり(神経線維腫症2型)、遺伝性の原因が明らかにされています。
片側の難聴や耳鳴りが最も多く認められます。難聴は徐々に進行する場合が多いのですが、その進行速度はさまざまで、短期間で進行する場合もあれば数年でごくわずかしか進行しない場合もあります。
また、ある日突然難聴が生じることもあり、突発性難聴(とっぱつせいなんちょう)との見分けが重要になります。難聴がよくなったり悪化したり、変動することもあります。そのほか、めまいやまれに顔面神経麻痺、顔面けいれんなどを伴うことがあります。
聴力検査、聴性脳幹反応(音刺激に反応する脳波を調べる)、平衡機能(めまい)検査により聴神経腫瘍が疑われる場合はMRIによる画像検査を行います。また、脳神経検査を行い、他の脳神経に異常がないかどうかを調べます。
聴神経腫瘍は比較的ゆっくり発育する良性腫瘍であるため、高齢の患者さんや腫瘍が小さい場合には治療を行わず、画像検査を定期的に行い、経過をみることもあります。
治療を行う場合は大きく手術療法と放射線療法に分かれます。手術療法は腫瘍が発生した部位や大きさ、残存聴力などに応じていくつかの手術方法があり、耳鼻咽喉科または脳外科が担当します。
放射線療法(ガンマナイフまたはリニアックによる治療)は腫瘍を消失させるのではなく、腫瘍が大きくなるのを抑えることを目的としています。おのおのの治療法は聴力の悪化、顔面神経麻痺など合併症に関して長所と短所があり、専門医の説明をよく聞いて選択します。
徐々に進行する片側の難聴に気づいた時には、まず耳鼻咽喉科専門医の診察を受けることをすすめます。
古田 康
聴神経腫瘍
ちょうしんけいしゅよう
Acoustic tumor
(脳・神経・筋の病気)
聴神経のうち、前庭神経と呼ばれる神経を包んでいる鞘から発生する良性の脳腫瘍です。耳の奥に発生し、音を伝える神経が頭蓋骨の孔のなかを走り、脳のほうへ出る直前の場所で神経の鞘がふくらみ、やがて腫瘍になります。近くには顔面の表情を作る筋肉を動かす顔面神経や、音を直接脳に伝える蝸牛神経、脳の中心で多くの機能が集中する脳幹と呼ばれる場所があります。
数年の経過で片方の聴力が低下したり、耳鳴りが現れます。腫瘍が非常に大きくなるとまわりの神経を圧迫して、めまい、ふらつき、吐き気、まれに顔面神経麻痺などが現れます。また、まれに髄液の流れが損われて、脳のなかに水がたまる水頭症という病気になることもあります。
MRI検査で腫瘍を診断します(図38)。腫瘍はほとんどの場合、骨のなかに一部が埋もれているので、CT検査で細かい断層撮影を行って骨の情報を収集します。
良性の脳腫瘍ですから、手術による切除が基本です。手術が行えない場合や手術をしても腫瘍が残った場合には、放射線を腫瘍のところに集中してあてるガンマナイフと呼ばれる治療が行われます。手術顕微鏡を使いながら、慎重にまわりの神経から腫瘍をはがし、さらに骨のなかに埋もれている腫瘍はドリルで骨を削りながら切除します。
手術のポイントは、腫瘍にくっついて走る顔面神経の保存です。腫瘍が小さい場合には近くにある顔面神経の機能を残すことが可能で、また蝸牛神経の機能を手術中に脳波で記録しながら腫瘍を切除すると、術後も聴力を保つことが可能な場合もあります。
逆に腫瘍が大きいと、手術により顔面神経麻痺が現れる可能性が大きくなりますが、顔面神経麻痺は明らかに神経を残せた場合には、手術後しばらくすると回復することがあります。
松前 光紀
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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家庭医学館
「聴神経腫瘍」の解説
ちょうしんけいしゅよう【聴神経腫瘍】
[どんな病気か]
内耳道(ないじどう)や小脳(しょうのう)の橋角部(きょうかくぶ)という部位に生じる良性腫瘍(りょうせいしゅよう)(神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)、神経線維腫(しんけいせんいしゅ))で、難聴(なんちょう)になります。
発症は、50歳代が中心です。
症状は、片側におこる難聴や耳鳴(みみな)りが徐々に進行し、めまいをともなうことも多くあります。
腫瘍が大きくなると、顔面神経まひ、三叉神経(さんさしんけい)のまひや痛みが現われ、さらに脳圧亢進(のうあつこうしん)(「脳良性腫瘍とは」)がおこりますが、画像診断の発達によって、早期に発見されるケースが多くなっています。
[原因]
原因は不明ですが、まれに両側に腫瘍が発生することがあり、これはニューロファイブロマトーシスⅡといい、遺伝子(いでんし)の異常にともなっておこることがわかってきました。
[検査と診断]
いろいろな聴力検査(ちょうりょくけんさ)が行なわれ、内耳性(ないじせい)、後迷路性(こうめいろせい)の混合した感音難聴(かんおんなんちょう)(「伝音難聴と感音難聴」)を示し、平衡機能検査でも異常がみられることがあります。X線撮影、CT、MRIなどの画像診断も行なわれ、とくにMRIが早期診断に威力を発揮します。
[治療]
手術をして、腫瘍を摘出(てきしゅつ)するのが原則ですが、腫瘍の大きさ、症状によっては特殊な放射線療法が選択されることもあります。
症状が軽い場合は、年齢なども考慮して、経過を観察することもあります。
出典 小学館家庭医学館について 情報
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聴神経腫瘍
ちょうしんけいしゅよう
内耳神経(聴神経と前庭神経とからなる)に生じる神経鞘(しょう)腫で、内耳神経の前庭神経から発生することが多い。広義には脳の小脳橋角部の腫瘍をも含めて聴神経腫瘍ということがある。この場合は嚢腫(のうしゅ)、髄膜腫なども含む総称であるが、狭義のものと臨床像はほとんど同じである。
初期の症状は一側性の耳鳴り、難聴で、めまいはあっても、その程度は非常に軽い。これらの症状は徐々に進行するが、その進行は非常に緩慢で、数年に及ぶことも珍しいことではない。難聴は感音難聴で、しだいに進行してまったく聞こえなくなる。めまいは最初は身体がふらつくような感じで始まり、回転性のめまいとなり、しだいに身体の平衡障害がおこってくる。しかし実際に病院を訪れたときには病側の前庭機能が完全に障害されていることが多い。これは、最初から前庭機能は侵されてくるが、進行が緩慢であるので機能が代償されるため、自覚症状が少ないのが原因と思われる。
腫瘍が大きくなると、顔面の知覚異常などの三叉(さんさ)神経症状や顔面神経麻痺(まひ)などがおこる。さらに進行すると小脳症状、脳圧亢進(こうしん)症状をおこし、最終的には脳幹障害、呼吸障害をおこして死亡するまでになる。治療は脳外科的に腫瘍の摘出手術を必要とすることが多いが、初期に発見できれば経内耳的に摘出できる。
[河村正三]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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聴神経腫瘍
ちょうしんけいしゅよう
acoustic tumor
内耳道内の第8脳神経から発生する腫瘍で,組織学的には神経鞘腫が多く,ときに神経線維腫もある。成人の脳腫瘍全体の7~8%を占める。多くは難聴,耳鳴,めまいが初発症状で,次いで三叉神経症状 (角膜反射消失,顔面知覚異常) ,顔面神経麻痺,平衡障害などを伴うようになる。脳圧亢進や脳幹・小脳圧迫が起ると頭痛,嘔吐,平衡失調,小脳失調症状が加わり,昏睡に陥って脳幹障害,延髄麻痺などで死亡する。早期に診断し,外科的に腫瘍を摘出する必要がある。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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