家庭医学館 「家庭でおこる中毒」の解説
かていでおこるちゅうどく【家庭でおこる中毒】
●子どもにおこりやすい中毒
「中毒110番」(コラム「中毒110番」)へ寄せられた問い合わせを分析すると、家庭内でどんな中毒事故が、いつおこりやすいかがわかります。
もっともおこしやすいのは子どもで、家庭内でおこる中毒事故の80%強は14歳以下の子どもの事故です。そのうちの大部分を4歳以下の幼児の事故が占めています。
中毒の原因は誤飲(ごいん)で、たばこ、医薬品、衣料用防虫剤、化粧品、石けん・洗剤の誤飲が後をたちません。
このなかで、まもなく歩き始めという幼児には、たばこを食べてしまう事故が多く、1日中おこりますが、とくに午前と午後の8時に発生のピークがあります。
歩き始めから1歳半にかけては、化粧品を口に入れてしまう事故が、午前10時ごろにおこりやすくなります。
1歳半をすぎると、医薬品の誤飲が第1位となり、以後、14歳までトップを占め続けます。時間は、午後7時ごろ、ついで午前9時ごろの順になっています。
衣替えの5月、10月には、幼児が衣料用防虫剤を食べる事故が多くなります。午前の10時から11時にかけてが多発時間帯です。
幼児は、クレヨンや絵の具を食べてしまうこともあります。おこりやすいのは、午後3時から6時にかけてです。
●子どもの中毒事故の予防法
家庭での幼児の中毒事故は、親が忙しく、子どもへの注意がそれるときにおこると考えがちですが、実は、中毒の原因となるものが、幼児の手の届くところに散らかっていたり、置き忘れられていたりするためにおこるのです。
幼児が口に入れては困るものは、幼児の手の届くところへは、ぜったいに置かないことです。たばこや吸い殻の入った灰皿を座卓や床に置きっ放しにするなどは、論外です。
年長児の医薬品の誤飲は、たいていは、お菓子とまちがえて食べてしまうためにおこります。医薬品は、やたらなところへは置かないようにします。保管場所を決めておき、そこにあるものは、お菓子でないことをよく教えておきましょう。
●その他の中毒事故と予防法
食器、飲料用のびんや缶などには、中毒の原因となるものを入れないようにしましょう。
コーラのびんに入れておいたシンナーを冷やして飲んだ、食用油の容器に入れておいた洗剤でチャーハンをつくって食べた、日本酒の一升(いっしょう)びんに入れておいた農薬を飲んだといった中毒事故が実際におこっています。
飲みかけのジュースの缶を灰皿替わりに使い、そのジュースをほかの人が飲むという事故もよくおこります。
おとなに多いのは、ラベルを確認しないで、中毒の原因となるものを調理に使ったりするうっかり事故です。
お年寄りのおこす中毒事故も近年、増加してきています。
使うときは、必ずラベルを確認する習慣を身につけましょう。
◎とりあえずの手当
●まず、吐(は)かせる
中毒は、「化学物質が体内に入って生じる病態」と定義されています。
したがって、中毒のいちばんいい治療は、体内に入った毒物を排出することです。
原因となるものが口から入ったのであれば、いちばんいい手当は、吐かせることです。
子どもであれば、立て膝(ひざ)をした太ももの上に子どものおなかをのせ、うつぶせにした状態で頭を低くし、腰を抱きかかえるようにして、下のほうから口の奥に指を突っ込み、吐かせます。
胃が空っぽだと吐いてもなにも出てきません。コップ半分か1杯の水を飲ませ、吐かせます。手元にあれば、牛乳のほうがいいこともあります。
しかし、脂肪に溶ける物質のときは、牛乳は飲ませてはいけません。判断に迷うときは、水を飲ませましょう。
●吐かせてはいけないとき
つぎのようなときは、家庭で吐かせる手当を行なってはいけません。手当にこだわらず、救急車を呼ぶなどして一刻も早く病院へ運ぶ手段を講じることが必要です。
意識がはっきりしないとき=吐かせると、吐いたものが気管に入って肺炎を誘発したり、吐いたものがのどにつまって窒息(ちっそく)したりする危険があります。
石油製品(灯油、シンナー、ベンジン、ガソリンなど)を飲んだとき=石油製品は気管に入りやすく、入ると高熱が出て、治療がむずかしい出血性肺炎(しゅっけつせいはいえん)をおこします。見た目には石油製品ではなくても、溶剤として灯油が使用されているものがあるので、ラベルを見たりして確かめましょう。
強い酸やアルカリを飲んだとき=これらを飲むとのどや食道がただれますが、吐かせると、もう一度、酸やアルカリのためにのどや食道が損傷を受けることになります。吐くときに、食道や胃に孔(あな)があくこともあります。
けいれんをおこしかけているとき、おこしているとき=かえってけいれんを誘発したり、ひどくなったりします。