家族手当は、二つの意味をもっている。第一に、使用者が労働者に支払う「賃金」である。第二に、社会保障制度の「社会手当」である。1952年の社会保障の最低基準に関するILO条約(国際労働条約)は、家族給付ということばを使い、社会保障の給付の一つに規定している。
賃金としての家族手当は、実際の労働に対する対価ではなく、生計費のかかる扶養家族のいる労働者に対して支給される生活補助的手当である。扶養手当、配偶者手当などとも称される。労働法は、家族手当の支払いを使用者に義務づけていないが、「雇用システムに関するアンケート調査報告書」(2002)によると、83.5%の企業が支給しており、日本的経営の一つの手法として使われている。しかし、非正規従業員にはほとんど支給されていない。支給基準は労使自治で決めることができるが、配偶者か否か、扶養する家族の数などによって、額が異なっている。性別を基準とする支給は、労働基準法第4条違反となる。家族手当は、第一次世界大戦ごろから支給されるようになり、第二次世界大戦の戦時体制下の賃金統制のなかで、多くの企業で家族手当の制度が採用されるようになった。戦後も、いわゆる電産(日本電気産業労働組合協議会)型賃金体系が普及し、労働者自身の生活費である本人給と家族の生活費である家族給からなる生活保障給の考え方が広まった。現在は、職務・職能給としての基本給に加えて、生活補助的手当の一つとして家族手当が支給されている。
社会手当としての家族手当は、子供を扶養している家族に対する現金給付である。財源は税金あるいは事業主負担となっている。フランスは、家族給付と総称される家族にかかわるさまざまな現金給付を行っていることで有名である。19世紀後半ごろから子供のいる労働者に家族賃金として付加賃金を支給していた個々の使用者が、20世紀初頭に自主的に家族手当補償金庫を設立し、参加企業は拠出金を払い込み、負担を分かち合う仕組みを考え出した。その仕組みが普及し、1932年に国の制度となり、使用者は強制加入となった。すなわち、当初賃金であったのが、のちに社会手当になり、現在は家族政策のなかに位置づけられている。財源は、かつては事業主が100%負担していたが、今は労働者なども一般社会拠出金として負担している。フランスの家族給付には、所得制限のあるものとないものがあり、前者は低所得の家族の状況を改善する垂直的連帯、後者は子供がもたらす負担の部分的補償という子供のいる家族と他の社会構成員間(子供のいないカップルなど)の水平的連帯に基づいている。
日本で家族手当に相当するのは、児童手当である。広い意味では、児童扶養手当も家族手当に含めることができる。
[神尾真知子]
『神尾真知子著「フランスの子育て支援――家族政策と選択の自由」(『海外社会保障研究』160号所収・2007・国立社会保障・人口問題研究所)』
被扶養者に対して支給される手当。扶養手当,扶養家族手当ともいう。第1次大戦以降,ヨーロッパ大陸諸国を中心に発達したもので,(1)企業が賃金補足部分として支給する手当,(2)国が支給する社会保障としての家族手当制度,という二つのタイプに区別される。日本には第1次大戦末期に移入され,第2次大戦後の電産型賃金体系の実施以来,急速に普及したが,日本の家族手当は(1)のタイプ,しかも個別企業の支給する手当が基本であり,(2)が主流の欧米諸国と著しい対照をなす。社会保障としては,ようやく1972年1月に児童手当が発足したが,支給が第3子以降の子女に限定されるなど,まだきわめて不十分な現状である。日本の家族手当は,このような社会保障の未発達を前提とし,低賃金を補うものとして賃金体系に重要な位置を占めてきた。戦後の空前の生活水準低下のもとで労働組合がその増額を要求し,生活給を原則とする電産型賃金体系では家族手当は基準内賃金の20%,全産業平均でも1949年には9.7%を記録した。その後の高度成長過程でその比重は低下し,70年にはわずか1.9%にすぎなくなったが,73年秋の第1次石油危機以降は実質賃金低下を背景に再び比重をあげてきている。
執筆者:上井 喜彦
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